第22話 ー 魔導詩というモノへの考察
キッチンテーブルの上にあるものを、顎に手を添えながら眺める。
そこにあるのは、転生初日に露店街で買った、
『火の魔導詩(火 燃えりょ)』
『水の魔導詩(水が いでお)』
それと、アイテム袋から取り出した真っさらの魔導紙、そして魔導ペン。
整然と並べたそれらを見てぶつぶつと呟き、『火の魔導詩』を手に取った。
訝しげにひらひらとハガキ大のそれを揺らして、
「これ、どう考えても質よくないよね? 『火 燃えりょ』だものね。それとこっち。『水が いでお』って、水じゃなくて別のなにかが発動しちゃいそうでそれはそれで怖いんですけど」
神様は言っていたけどほんとに信じていいのかな。だって、『紙に書いただけでいろいろ出来るものを私が創れる』んだよ? 普通そんなのないでしょ? でも異世界だし、と簡単に片付けることもできなくもないし……うーん。
『とりあえず模写、というか書いてちゃんと効果が発現するのか?』
うん、これを当面の目標にしよう。目標が定まったところで、魔導詩屋のおじさんと神様の言っていたことを整理してみる。
「まずは正しい文章、それと文字の上手さ。それと……書く時のイメージ、かな」
とはいうものの、いきなり魔導紙に書くのもなぁ。そういうわけでキッチンから教室へと移動した。教室には黒板があるから、色々考慮しながら下書きや気づいたことなんかをさっと書けるし、なにしろこれも『勉強』の一環だから、教室というのは理にかなってるよね。
「えっと……。まずは」
黒板に思いつくままに蝋石(この世界にはチョークがない)でいくつも言葉を書いては考え書いては考え、を繰り返す。
『火よ 燃えりょ→火よ 燃えろ』
『火よ→炎よ』
『水が いでお→水よ 出でよ』
『水よ→流水よ?』
『出でよ→流れよ?』
まぁこんなところかと腕組をしながらうんうんと頷く。魔導、つまり魔法みたいなのものだから書式は詠唱するみたいな感じがいいのかな?
いや、ここはそういうのに拘らずなんでも試してみましょうか。レッツセルフブレスト!
引き続き思いついたままにさらさらと蝋石を黒板に滑らす。
『炎よ 燃えて(燃えなさい)(燃焼)(強火で燃えて?)』
『水(H2O)(酸素と水素の化合物?)』
『出でよ(来たれ)(いらっしゃい?)(じゃーっと出て?)』
といった箇条書きを眺めて、ふと気づく。
「そういえば魔導詩屋のおじさん、『風の魔導詩』も見せてくれたよね。でもあの時は――」
そう、風の魔導詩。火と水は使うイメージができたから買ったのだけど、風に関してはその使用イメージが咄嗟に出なかったから、買うのを見合わせたのだった。風といえば、なんだろう。……台風? 扇風機? エアコン? 乾燥機? ドライヤー? お、ドライヤーはいいかも。一応私女性だし、試してみる価値はあるかもね。
火と水は今はそれほど困っていないし、事と次第によっては火と水って危険だよね。とはいえちょろちょろとしか出ない蛇口はなんとかしたいのだけど。
「うん、風を試してみよう」
黒板の空きスペースに、火と水を分けるように風にまつわるいろいろを思いつくまま列挙してみる。
『風よ 起きろ』
『風よ 来たれ』
『頰を撫でる風を 感じたい』
『魔の根源たる我が命ずる 全てをなぎ倒す 風(暴風もアリ?)よ来たれ』
『風の精霊シルフィード 我の聲に応え その御身を顕せ』
うん、最後の二つはちょっと中二病駄々漏れですよね、えぇ自覚あります。まぁ最初は実験なんだし、どれか書いてみよう。うーんどれにしようかな……。
よし、これにしてみよう。
『魔の根源たる我が命ずる 全てをなぎ倒す 風よ来たれ』
だってほら、せっかくの異世界だし? これくらいの方が雰囲気でるじゃないですか?
ということでさっそく書いてみることにした。のだけど、魔導ペンを使ったことがないから、まず真っさらの魔導紙に試し書きをしてみる。心なしか震える手をどうにか制し、ペン先を魔導紙に近づける。文房具屋でペンの試し書きをするように、グルグルと円を書いてみた。試し書きといえばグルグルか名前だよね。
「お……? おおーーーーっ!?」
なんという滑らかな、いやむしろこれ摩擦係数ゼロなのでは? と思うくらいに実にスムーズな書き心地。しかも太さもイメージ次第でどうにでもなるようで、極細から極太まで自由自在じゃない!? あれ? 太さが変えられるのなら、もしかして……。
「す、すごーい!」
色まで自由自在! あっと言う間に虹のように色変わりする線が踊る。
ならばと試しにイメージして半円を書いてみると、一筆書きで虹の出来上がりだ。というかすごいね異世界。電気とかガスとかないのにこういうのはあるとか。
っと、それでは本番、書いてみようかな!
ブレストとは、『ブレインストーミング』の略称です、念のため。




