第19話 ー み水 でるの
「えぇ、感謝しているわ。感謝してるけど……」
「あら、なんか引っかかる言い方ね?」
そうよ引っかかってるわよ! 思い出すだけで苛立ちが這い出すアレよアレ!よし、もう思い切って言ってしまおう。神様が悪いわけじゃないけど。
「なんなのコレ!?」
キッチンテーブルを掌でバシンと叩き、もう一方の手でさきほど開いておいた『水の魔導詩』を指差す。
その様子を見ていた――ちなみに今、頭の中ではなく実体化してふわふわと目の前に浮かんでいる――神様がきょとんとした顔で、
「なんなのって、水の魔導詩がどうかした? 魔導詩っていうのは魔力を込めて書いた――」
「それは買ったお店で聞いたら知ってるわよ!」
「わかってるのならそれでいいじゃない?」
「よくない!!!」
このままじゃいつまでも話は平行線だと思った私は、はあぁとひとつ深呼吸を挟んで自分を諌める。
「なにがよくないのかわからないんだけど?」
「……はぁ。よく見てこれ。『水 てろ』って。これ『水 出ろ』ってことよね?」
「あ〜、そういうことね?」
絶対わかっててトボけてるよこの神様。続けてさっきステボから取り出しておいたもうひとつの『水の魔導詩』をビシッと指差す。
「それにこれ。今日、街で買ったんだけど、これはこれで『み水 でるの』って書いてあるし。誤字脱字にもほどがあるって思わない?」
いやだよこんなの蛇口に巻いたらミミズ出てきそうだもの。どこかのB級映画じゃあるまいし。
「それはしかたないのよ。だって――」
神様の言ったことを纏めるとこういうことだった。
この世界の識字率は著しく低いうえに、読み書きできたとしても強く質の良い魔力を持つ人間が少ないので、結果このような低品質の魔導詩が大半になっている。低品質でも一応最低限は機能するが故に、平民は疑問に思わず魔導詩の恩恵を受けている。
王都には文章を書ける『魔導詩師』と呼ばれる人がいて、一般に出回っている魔導詩の元を書いた人らしい。もちろん元となる魔導詩はある程度きちんと書かれているのだが、それを各地の領地に派遣された『準魔導詩師』という、修行中の身分の人が模写した導詩詩が王都内の一部、つまり王宮で使用されたり、または貴族の家などに配られる。そしてさらにそれを模写、つまりコピーのコピーが平民に出回っている。
それならまだましな方で、幾度となくコピーを繰り返した、元の文章とは似ても似つかない『コピー×∞』が、値段が安価なこともあり、幅を効かせている。だけどそれを取り締まる、前世で言う『法律』が存在しないからどうしようもない――ということらしい。
とまぁ、魔導詩屋のおじさんに聞いたこととさほど変わりはないのだけど、『魔導詩師』っていう人がいるのね。王都ってどんなところなんだろう。いつか行ってみたいね。というか、『魔導詩師』ですらある程度しか文章が書けないって。文章が駄目なのか、書かれた文字の上手さが駄目なのか、もしくは両方なのか……。
なんとなく今まで聞いたことをまとめると、つまり『強く質の良い魔力を持つ人間が、きちんとした文章・綺麗な文字で書いた魔導詩が最高品質である』って解釈でいいのかな……。
「この魔導詩、どうにかしたいのだけど、何か方法ってないの?」
「もちろんあるわよ。キミが自分で書けば万事解決するんだけど?」
「っ!」
私が? 魔導詩を書く? そんなスキルあったっけ?
あ、それってもしかして、
『キミの持ち越すモノに関しては、前世以上の力を発揮できるはずよ』
ってことなの?




