第18話 ー 水 てろ
家に着いて水を飲もうとキッチンに行くと。
「あ、これが魔導詩なんだ。気づかなかったよ……」
蛇口に巻きついた紙、これが『水の魔導詩』のようだ。
蛇口に手をかざすだけで水が出るので、この世界ではこういうものなんだと特に意識はしてなかったけど、魔導詩があるから水が出るんだね。
うんうん、と一人納得する。仕組みはわかった。わかったけど。
「水の勢い、どうにかならないのかなぁ」
手をかざして水が出るのはいいけど、水の出方、つまり水量の調節はどうするんだろうか?
う〜んと手に力を込めても水の勢いは変わらないし、なにしろ『ちょろちょろ』としか出ないのだ。色々な角度から蛇口を見ても水量が調節できるようなパーツはどこにもない。これではいくらなんでも不便だと思うのだけど。
「あ、そういえば魔導詩屋のおじさん、質とか言ってたよね?」
もしかして、今巻かれている水の魔導詩の質がよくないんじゃないのかな? 破かないようにそっと慎重にぺりぺりと魔導詩を剥がし、くるくると巻き取った。
丸めた魔導詩を改めてキッチンテーブルの上に広げてみると、案の定というかなんというか……。すいません察してくださいこんなの読みたくないんですけど、読まないとね。うん頑張りますよ。
『水 てろ』
……そりゃあちょろちょろとしか出ないわけだよ。それになにこの『てろ』って。おそらく『出ろ』ってことなんだと思うけど、『てろって』……。貯水槽に毒を入れて無差別テロでも起こすみたいじゃない。
そういえば『水の魔導詩』も買ったよね。見比べてみようかな。
ちなみに買った二つの魔導詩は、ちゃんとステボのアイテム袋に収納しましたよ。使いこなしてる感あるでしょ? なので取り出す際も、流れるような所作でこめかみトントンポチっとはいっ! です。 ……っと?
「やっほー、キミの神ですぅー」
また来た。私いろいろとやりたいことあるんですけど。そんなに神様って暇なものなの? 面倒だから無視しとこうかな。
「いやいやちょっと無視とかないわー」
「……なにしに来たのかしら?」
「あらあら? 女の子の言葉が馴染んできたみたいじゃな〜い?」
あれ? 本当だ。意識もせずに「〜かしら?」とか言った自分に驚いた。そういえばグラスハーブさんと話してる時も、今思えば普通に女言葉だったような。
「神様、これどういうことなの? 普通に女の子の言葉になっているのだけど」
「そうよ、転生する時に性別が変わっても、言葉や仕草なんかは一日くらいあればちゃんと馴染んじゃうのよ。あれ? 言わなかったかしら?」
「聞いてませんけど」
言葉に関してはいずれ慣れていけばいいかな、くらいの気持ちだったから、これからは変に気遣わずにいられるのか。これはいいね、なんて考えていると、
「そうだったかしら? まぁいいわ。で、この世界はどう? って言ってもまだ一日目だからどうもなにもないと思うけど」
「そうね……、でも食事は大丈夫だった、と思う」
「でしょうね。だってそのへんは前世と似たような世界を選んであげたんだから」
「え? そうなの? ということは、ほかにも異世界はある、ってこと?」
えー、そうなんだ。だったら魔物がいて剣と魔法で云々の異世界の方がよかったんですけど。ビキニアーマーとか綺麗な魔導師のローブ的なの着てみたかった。
あ、でもそういうの無理って言ってたよね。
「えぇもちろんあるわよ。でもキミの場合はこの世界が一番合ってるんじゃないかって思って、ここに転生させてあげたんだからね! 感謝してよね!」
いやいや感謝って言われても、ねぇ。――とは言うものの。
今日一日を振り返ってみると、悪くはなかったし、むしろ全く興味のなかったどこかの外国に無料で連れてきてもらって、思いの外楽しい! そんな気分だ。だから、まぁ感謝しておきますよ。
感謝はさて置き、私は今少しイラっとしているのだ。これを神様に言うのはお門違いなのかもだけど、なんか言わないと気が済まない。もしかしたら喧嘩腰になるかなぁ。




