第17話 ー 魔導詩って何ですか?
「では、今日はこのへんで失礼しますね」
「また是非いらっしゃってくださいね。お待ちしていますよ」
外まで出てきてくれたグラスハーブさんに振り返り軽く会釈をして、もと来た道を引き返して家路を急ぐ。白狼亭を通り過ぎ、露店街を再び歩く。夕食の食材を求める奥様たちで賑わうのを眺めつつ歩いていると、来た際には気づかなかった、
『魔導詩 屋』
と書かれた小さな立て板が目に留まった。
そういえば『魔』という文字を見たのはこれが初めてだ。見ると地面に敷かれた茣蓙の上に、なにやら文字らしきものが書かれた紙が何枚も並べてある。
露天街でこんなに文字を見るのも初めてのこと。なにしろ八百屋や肉屋の値札を見ても値段しか書かれていないのだから、この光景は少し異質に感じた。
「はい、いらっしゃい」
目を奪われていた私に、魔導詩屋のおじさんが声をかけてきた。
「あ、えっと……、魔導詩? っていうのは何ですか?」
「えっ、魔導詩を知らない? 面白いことを言うねお嬢さん。見たことない?」
「え、えぇ、最近こちらに住むようになったので……」
私の言葉に首を傾げながらおじさんは教えてくれた。
「これは『魔導詩』って言ってね、例えばこの『火 燃えりょ』って書いてある紙。こいつを筒みたいに丸めて、薪にちょんちょんって触れると薪に火が点くんだよ」
ハガキ大の紙をひらひらとさせておじさんは言う。
これって魔法の一種なのかな? だとすればステボの『魔』の意味もわからないでもない。他にもおじさんは、同様に水を出す魔導詩、風を起こす魔導詩なども見せてくれた。
「これって書くだけで魔導詩になるんですか?」
「書くだけっていうけどね、そもそも文字を書ける人が少ないだろう? ましてや魔導詩を書くには魔力を込めないとダメなんだよ」
「魔力……ですか」
「そう。込めた魔力を紙に写すには魔導ペンなんてものも必要だし、その紙も専用の『魔導紙』ってのが必要なのさ」
一気にファンタジー来たんじゃないこれ? いわゆる『スクロール』的なものかな。炎系魔法とか風系魔法とか、いわゆるメ○○ーマとかバ○クロスとかできちゃうの? だとしたらそんな危ないもの売ってて大丈夫なのかな。
「うーん、じゃあ、この『火の魔導詩』をいただこうかしら。あと、こっちの『水の魔導詩』も」
「はい、毎度ありぃ。あ、でもこれは写しとしては大した質じゃないから火の大きさは勘弁してくれよ。そのぶん安くしておくから」
質? 質とかあるんだ。聞けば魔導詩というのには元となる原本(校正士的に言うと元原稿)があるらしく、それは国で保管されていて、それを写したものが出回っているらしい。
質というのはどうやら書き手の『文字の上手下手・書式の正しさ・綺麗さ』が大きく作用し、上手に――といっても読み書きレベルからしていうほど上手じゃないと思われる――書かれた魔導詩は効果は確実だけど値段もそれなりに高く、逆に安価な粗悪品になるとその効果は粗末で、酷いものになると効果が安定しなかったり、効果そのものが得られないジャンク品もあるとのこと。
この世界の物価がどうなっているのかは、今のところは『白狼亭』でしか得られなかったけど、試しに買ってみた魔導詩の値段は、一枚250ガルだったから、まぁそんなに高くもないと思う。というかきっとこれ、どちらかというと粗悪品なんだろうね。なにしろ『火 燃えりょ』だし。
これはちょっと調べる必要があるかもね。またひとつ調べ物が増えたけど、前世には存在しなかった『魔導詩』というものの存在を知って、少し浮かれて家路についた。




