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第16話 ー エルバさんは草だらけ

 男性の放つ夥しい言葉、単語を、必要そうな部分だけ頭の中で掻い摘んで再構築してみる。 


 ……なるほどそういうことね。だから白狼亭のメニューはあぁだったのか。


 つまりこういうことだった。この世界はとにかく『識字率と読み書きの能力』が著しく低く、単語程度しか読めない者が大半を占めている。

 だからメニューに『A定食(豚の生姜焼き・味噌汁・サラダ付き)』と長々と書いてもほとんどの人は読めないし、そもそも書けないのだ。

 しかも文字を読み書きできる者は、教育を受けられるくらい裕福な家の者、例えば貴族であったり大きな商会の者だったり。でも、どうやら文字を読み書きできるといっても、そのレベルは私からすると全然大したことないと感じる。


 そういう理由で、この世界では読み書きのできる者は非常に重宝されるらしいのだけど、そのレベルで重宝されるなら、私はどうなっちゃうんだろう。前世でいうなら、人間国宝? MENSA(メンサ)会員?


 なんて半ば自惚れ気味にあれやこれやと考えている間にも、目の前の男性はこちらのことなど見えていないが如く一方的に喋り続けている。あ、なんかそろそろ終わりそうだね。


「……と、こういうわけなのです!」


 長々と一気に語る男性の息は上がっていた。男性ははぁはぁと肩を規則正しく上下に揺らしながら、


「ところで貴女は……おっとこれは失礼、自己紹介がまだでしたね。わたくし、この図書館の責任者をしております、エルバ・グラスハーブと申します」


 と折り目正しく自己紹介した。


「これはご丁寧にありがとうございます。私はエイミー・ライトウェル、ハカランダ村で読み書きや算数などを教えています」

「な、なんと読み書きを教えているとは! これはますます興味深い。でも、あそこの村にそんな者がいたとは知らなかった」

「それはですね、少し事情がありまして。村に来たのがつい最近のこと(という設定)なのです」


 その後もグラスハーブさんの話は続いたのだけど、そこそこにうまく切り抜けて再びほかの本を何冊か読んでみた。読んでみたのはいいんだけど……。


 もういや! こんなおかしな文章読んでいると脳の奥底がむず痒くなる。どの本を見ても誤字脱字以下同文。そのうえ、いわゆる『小説・物語』に類するものが一切なく、あるのは地図や木材加工や農業に関する本、料理のレシピなど、『実用書』と呼ばれるものがほとんどだった。読み書きできない人が大半を占めているのだから、ほとんどの人にとっては本、ひいては『小説・物語』は無用の長物なのだろう。


 それが証拠に、夕方ここを出るまで私以外の来訪者はゼロだった。おそらくほとんどの人にとって、ここはあるものは『無関心』なのだろう。なまじ文字を読める私には、ここにある書物は『継続毒ダメージを付与するアイテム』のようでもあり『継続魅了ダメージを付与するアイテム』だ。体には良くないけど、つい食べちゃうジャンクフード? みたいな。


 こんなに酷い本でも、ざっくりとこの世界の在りようはどうにか掴めた……のかな? いや、一切掴めていない。掴めるわけないよね、こんな本じゃ。


 そして失礼ながら『エルバ・グラスハーブ』という名前には思わずツッコミを入れてしまいそうになった。


 ネットでいうところの『大草原』なんだもの。草草草って……www。

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