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僕は霧中で嘲笑う  作者: 朝倉春彦
血のブレンド
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13.血のブレンド <後編>

カフェの電気が急に消えた。

突然の出来事に、私はビクッと反応して慧の方に顔を向ける。

カップを持っていなくてよかった。

持っていたら確実に零してしまっていた所だろうから…


「驚かせたな」


私の目線での訴えに、慧は不敵な笑みを浮かべて答える。

私は彼の答えを聞いて首を傾げた。

兎に角、今、カフェの電気が急に消えたからと言って私があたふたする必要も無いという事は分かったから良いのだが…


「見つかったの?」


今の種明かしを求める前に確認を一つ。

慧はコクリと頷いた。


「ちょーっと目を閉じたら居たぜ。野郎、こっちに越してきた人間らしい。近くで見つけた割に、記憶にねぇなって思ってたら、最近できた新築の家の家主だった」


彼は苦い笑みを浮かべながらそう言うと、飲みかけだったコーヒーを一気に飲み干して、カップをテーブルに置いた。


「先に食っておいて良かったな」

「あー…何時の誰を呼んだの?」

「何回目ってのは忘れたけど、偶に"具材"になったよな?」

「あー……」


私は彼の一言で全てを察する。

そう言えば、私も彼も何故か猟奇的な目に良く遭うのだ。

ゲームオーバーになるのは良くあることだったが…

今回慧が呼び出した相手が原因になるときは、大抵直ぐには終わらなかった。


メープルで彼とコーヒーでも飲んで駄弁って…

その帰りに遭遇するパターン。

彼はメープルのカウンターの隅に良く居て、私と慧に目を付けて、やがて暴走して私達を捕らえるのだ。

行動パターンを把握されて、誰の眼にもつかぬところで捕まって…次に目が覚めれば彼の家。

目の前には同じように捕まった慧が居て…そこから先の事は言いたくない。

何の具材かだなんて、ねぇ?


「目を閉じて驚いたぜ、そいつ、妻子持ちで新築たてられる程にはちゃんとした身分だ」

「…裏の顔って怖いわね」

「怖いなんてもんじゃない、何でバレないんだ…確か俺の時は奴の家、部屋だったはずだぞ」

「一家そろってとか?」

「……子供も含めて?趣味が悪いにも程がある」


私は苦笑いを渋い顔に変えてそう言うと、テーブルの上に残ったカップ類に目を落とす。

流しに持って行こうかとも思ったが、店舗の2階から物音が聞こえた。

片付けている暇は無さそうだ。


「随分と慌てているみたいだけど」

「不意打ちじゃなけりゃ、やられるかよ。どうせここじゃ俺らは死なないんだ。勝手にやらせとけ」

「…何を使う?」

「彩希は今までどうしてた?」

「んー…やられた事をそのままやり返す」

「それは嫌だなぁ…つまりは…だろ?」

「確かに」


2階から聞こえる物音を聞きながらも、私達は平静を保ったまま言葉を交わせた。

ここは私達のテリトリー。

私達の作り出した世界、霧の中だ。

ここに呼び出された時点で、呼び出された彼の運命は決まってる。


「学校でやろうと思ってたけど、生きたままミイラにでもすっか」

「良いかも、それ」


慧の何気ない一言で、私達の方針が決まった。

直ぐに私達は行動を開始する。

私は記憶を頼りに暗い店内を歩き、用具入れの中からガムテープを5ロール程取り出した。


「これで十分だよな」


慧は店に置かれていたオブジェの中から、狂気になりそうな強化ガラス製の雪ダルマを手に取って私に魅せる。

白く、そこそこ大きなそれは、ガタイが良い彼には丁度よさそうだ。


「テープは5ロール分」

「十分」


準備らしい準備かと言われれば、恐らくノー。

私達はその場で見つけた物を手にすると、慧を先頭に暗い店内を歩き、2階への階段を上がっていく。


私達の会話が途切れたことで、足音しか聞こえてこない店内。

2階からは未だに誰かが歩き回っている音が聞こえて来ていたが、暗くて分からないのだろうか、その足音が一定の場所からズレる気配は無かった。


「……彩希は後ろに居ろよ?」

「ありがと」


窓の外は雪明かり。

吹雪の中、大粒の雪が吹き付けてくる。

それを隠すように霧が立ち込めていて、私達の周囲を微かな靄が覆っていた。


暗く、幻想的で、不気味な空間…

私達の作り出した"舞台"…


私は慧の後ろを付いて行く。

カウンターの裏に回り、扉を開けて店の裏手側へ…

そして、すぐ目の前に見える階段をゆっくりと、音を立てぬ様に上がっていった。


暗くて良く見えないが…

彼が手にした雪ダルマのオブジェは白いせいかそこそこ目立つ。

階段を上がり切ると、その先は完全なる闇の中だった。

霧の中…これまでは非常灯とか、そのあたりのLEDの明かり、窓の外から差し込む雪明りのお蔭で見えないことは無かったのだが、2階の廊下は光源すらない完全な暗闇の中だ。


「スイッチは?」

「ここ」


慧に聞かれた私は、答えると同時に壁についていた電気を付けるスイッチに手を伸ばす。

少々古いそれはパチっと音を立てた後、廊下が暗く黄色い明かりで照らされた。


「奥だな」


狭い廊下には扉が2つ。

レンはそう言って、スーッと奥の方の扉の前に進む。


彼は私の方を見てニヤリと笑うと、私が追いつくのを待たずに扉に手をかけた。


「久しぶりだな偏食家さんよ!」


ガチャリと音を立てて扉を開く。

廊下の光が部屋の中に差し込み、真っ暗闇の部屋の様子が鮮明に…

そこへ勢いよく中に入って行った慧は、その一言と共に手にしたオブジェを男の頭部目掛けて降り落とした。


「え?…あ、ガッ…!」


部屋の中に居た、気弱そうな男は事態を把握するまでも無く殴り飛ばされる。

私は顔を背けたが、雪ダルマの白いオブジェに赤が混じる瞬間はハッキリと見えた。


「忘れたか?あ?"何回"かおたくの食卓に並んだはずだけど」

「し…しししし…知らない…」


滅多に聞かない慧のドスが聞いた声。

滅多に怒らない彼が怒ると、不思議と怖いと感じるものだ。

私は他人事のように、目の前で起きている出来事を眺めている。

慧は最初の一撃を男の頭にクリーンヒットさせると、そのまま馬乗りになって数発オブジェを振り落としていた。


「それに!…あ…き…きみ…あ…は…」

「何だよ?」


血だらけの頭。

話すことさえもままならなくなった男が私と慧の間を指さしながら何かを言わんとする。


「…か…かげ…影林…さ…ん家の…そっちは…空野さ…ん」

「ああ、最近引っ越してきたみたいだなオッサン。"今回"は遅かったじゃないか」

「遅かっ…た?っ…た?」

「俺らの記憶が正しけりゃ、2,3年前には越してきてるハズだったんだがな」

「もしかして、引っ越す前の場所でも…やってたとして、それが片付くの待ってたんじゃ?」

「ああ、そうかもなぁ?」

「な…だから…何を?」


私と慧に見下ろされながら、男は血だらけ汗だらけの顔を歪める。

恐怖と絶望に染まり切った顔。

私と慧はじっと彼の顔を見つめていた。


「…アンタ、あの手際の良さを考えりゃこっちに来る前からあちこちで攫っては"解体"してただろ」

「だから!…な…の…話」

「まーだ呆ける気か?嘘が下手だぜオッサン」


慧はそう言うと、手にした血だらけのオブジェを振り下ろす。

よだれが垂れ出たその上、鼻っ面に落とされたそれは、鈍い音を発して男の顔を歪める。

さっきまでと違って、何かが潰れたような、壊れたような音を発しながら…


「人を食う趣味の話だよ」


一撃加えた後で、慧が一段低い声で言った。

私の背筋に嫌な汗と寒気が走る。

血だらけの、歪み切った顔…そこに浮かんでいたのは、恐怖でも絶望でもなく愉悦に浸るような男の顔だった。


「あ…ああ…あ」


最早話は通じそうには無いが…

こちらの言葉は通じているようで、体中を震わせながら首を縦に振る。


「これくらいでさ、巻いちゃわない?」


見て居られなくなった私は慧の肩を叩いてそう言った。


「そーすっか、壊れたみたいだし」


彼はそう言って頷くと、手にしたオブジェを床に捨てる。

私は彼に2ロール分のガムテープを手渡した。


「口元か鼻だけ開けときゃ、暫く持つだろ」


私達は頭側と足側に別れて、ガムテープを男の身体に巻き付けて行く。

これは、彼がやって来た事ではなく…そろそろ見つかるはずの別人にやられた処理方法。


「…何でこうなったんだろうね」


梱包作業の如く、手際よく手を動かす私達。

私は男の足部分でガムテープの1ロール分を巻き終えると、2ロール目を腰元に巻き付けながらボソッと呟いた。


「今更だな。回りまわってこーなってんだけど」

「そろそろ終盤じゃない?この男も、割と"最近"だし」

「あー…あと1年くらいかなって思ってたが、実際はもうちょい早いかもな」


2人で反応の鈍い男の体にガムテープを巻きつける。

それはさぞシュールな光景。

私達は腹の辺りでピタッとくっついた。


「最初の頃の事は覚えてる?」

「忘れた。確か何かの事故だったよな」


男をガムテープ5ロール分でグルグル巻きのミイラに仕上げる。

私と慧は生きたままミイラっぽい見た目になった男の傍で、座り込んで昔の話を始めた。


「ええ、そう…何だったのかなんて覚えてないけど」

「そこから、この町に居る犯罪者には大方出会ったんじゃねぇか?」

「ごく一部かもよ?」

「勘弁してくれ」


彼はそう言って苦笑いを浮かべると、ミイラと化した男を掴みあげた。

それと同時に、何かに気づいたらしい…彼はシーッと人差し指を口に当てる。


「?」

「ドア閉めてくれ。俺はこれをロッカーに突っ込むから」


彼は悪戯っ子のような表情を浮かべて言った。

丁度、廊下の奥…1階の方から何かの物音が聞こえてくる。


「お客さんだ。驚かせてやろうぜ」


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