星に願いを
何年かに一度、星の雨が降るとされている里がありました。
そこは、たくさんの動物と夜になると現れるという不思議な妖精が住んでいました。
ある時、その里に一人の少年が迷い込んだのです。
少年は、まだ大人の傘を両手と腕で抱えてもよろけてしまうほど小さな子供でした。
少年は、真新しい黄色いカッパを頭から被り、黄色い長靴をはいて、大きな黄色いショルダー鞄を肩から斜めに掛け、大きな黄色い大人の傘をギュッと抱えながら、怯えるように目をキョロキョロさせて、慎重に慎重に里の中の一際大きな森の中を歩き続けました。
里の動物達は初めて見る人間に興味を持って見ていましたが、隠れて近づことはしませんでした。
だんだんと日が暮れて、夜になりました。
「おや?おやおや?君は、誰だい?」
夜を照らすように、光り輝く妖精が現れました。
蛍の様に柔らかい光を放ち、好奇心に満ちた妖精達です。
妖精達の中でも一際小さく、小さな綺麗な羽を一生懸命動かして、一番愛嬌のある妖精が少年に話しかけました。
「ぼ、ぼくは、スター。みんなと石拾いをしていたら、崖から落ちて...目が覚めたら、ここにいたんだ」
「そうなんだ!それは困ったね!」
先程、話しかけてきた妖精がびっくりした様に言うと、周りの妖精達とコソコソと相談し始めました。
「ねえねえ。ここは、どこなのかな?僕、お家に帰れるかな?」
妖精達は何か確信した様に頷いて、話しかけてきた妖精が言いました。
「ここは、流れ星の里。年に何回か星がたくさん流れてきて、雨の様に降ってくるんだ。だから星に願い事をしたら、君は帰れると思うんだ」
「そうなの?」
「そうさ!でも、星はいつ流れてくるかは、分かってないんだ」
「え!じゃあ、僕はいつ帰れるか、分からないの?」
「いや...多分だけど、もうすぐ星が流れてくると思うんだ。だからそれを知るためにも、君のことについて教えてくれるかな?」
少年は少し不思議そうな顔をしたが、すぐに帰れるかもしれないと思ったのか笑顔でうんうんと頷いた。
「じゃ、まず一つ目。君は、どこからきたんだい?」
「僕は、天の川のほとりの銀河って所に住んでいて、さっきも言ったけど、天の川の境にある崖から落っこちてきたんだと思う」
少年の話を、うんうんと頷きながら聞く妖精。
「じゃ、二つ目。君は石拾いをしていたって言ってたけど、何で石拾いをしていたの?」
「えっとね。僕のお仕事は、空から勢いよく降ってくる真っ黒い石をこの大きな傘で受け止めて、鞄に石を敷き詰めて、天の川で洗って、ピカピカに光って輝くまで磨くの。それから、その光っている石を空の庭一面にあっちだ、こっちだってまく仕事なんだ。だから石を拾ってたんだよ」
「なるほど、なるほど。じゃ、3つ目。君は、その仕事の新米さんかな?」
少年はびっくりしたように目を見開いて、どうして分かったのかと、目を輝かせて妖精を見ている。
「そうだよ!まだ半人前なんだ。お兄さん、お姉さんみたいに、うまくできなくて、うまく磨けなくて時間がかかったり、石を均等にまけずに、間違って同じ所に落としたり、全然まだまだなんだ」
ぽんっと合点がいった様に妖精は、笑顔で手を叩いた。やっぱりって、他の妖精達もにこにこしながら話している。
「じゃあ、最後の質問。新米さんは他にもいるのかな?」
「うん!僕の他にも、何人かいるよ!やっぱり、僕と同じでうまくできないんだ。何でだろうね?」
「それは、まだまだ始めたばかりだからだよ!根気よく続けていけば、お兄さん、お姉さんと同じように出来るようになるよ!」
少年は目をキラキラさせ、嬉しそうにほっとした様に笑う。
「そっか!僕、頑張る!」
妖精達は微笑ましそうに、少年を見届けている。
「じゃあ、行こう!星がたくさん流れて、雨の様に降ってくる場所へ!」
「うん!!」
「おっと!急に流れてきたら困るから、早くそこへ辿り着くために、君は光の雄鹿に乗って行ったらいいよ!」
そう言って、妖精はピーーと口笛を吹いた。そうすると、森の中から颯爽と、真っ白に輝き立派な角を携えた雄鹿が現れた。その雄鹿が現れた途端、キラキラとあたりは明るくなる。まるで、星の輝きの様に。
「さぁ!乗って!」
ぽんぽんと妖精が雄鹿の背を叩くと雄鹿は、少年が乗りやすい様にしゃがんだ。少年はよいしょ、よいしょと傘を畳むと両手に抱えて、雄鹿におそるおそる乗った。雄鹿はそんな少年を気づかって、ゆっくりと慎重に立ち上がった。
「わぁ!!すごいね!」
少年は自分より大きい雄鹿に乗ったことで、いつもより高い位置から辺りを見ることが楽しかったのか、キャッキャと嬉しがった。
「さぁー!準備はいいね、行こう!」
雄鹿が颯爽と夜道を走り、妖精も負けずに颯爽と飛んで行く。走って、飛んで行く道は明るく、希望の光の様に輝いて見えた。
そうして、しばらく走った後に、一際、キラキラ光る星の山が見えてきて、その場所で止まった。
「ほら、着いたよ!ここがたくさん、星が流れてくる場所だよ!ここで待っていれば、今の時期は、新米の星の子達が、うっかり星をいくつもいくつも落っことしてくるから、きっと、すぐに星は流れてくるよ!」
「え!僕達のこと知ってたの?」
妖精はうんうんと、にこやかに頷いた。
「もちろんさ!質問をするまでは、ちょっと確信が持てなかったけどね」
「でもどうして、あの質問で分かったの?」
「それはね、毎年、新米の星の子が一年に何回か働き始めるのは僕達は知っていたんだ。正確には分からないけど、だいたいこの時期かな?って。それは何故かと言えば、新米の子が入るとたくさん星が流れて雨の様に降ってくるからなんだ。やっぱり慣れていない仕事だから、失敗することもあるよね」
「そっか。そうなんだね」
うんうんと、妖精は頷く。
「けど、星は落っことしても、自分自身が落っこちてくる子は初めてだけどね」
「え!あぁ......」
少年は恥ずかしそうに、もじもじしながら顔をうつむかせた。
「でも、それだけ集中してたってことだよ!熱心になりすぎて、落ちたに違いない!気にしない、気にしない!君はきっといい星の子になるよ!」
さっきまでしょげていた少年は、顔を上げるとぱっと明るい表情になり、嬉しそうにニコニコ微笑んだ。
「あぁ!!」
妖精の誰かが、叫んだ。そっちを見れば、流れ星。
「おっと!話をしていたら、星が流れてきちゃったね!じゃあ、急いで星に願いをする方法を教えるね!」
「うん!」
「星が流れてきたら両手を合わせて、目をつぶって、三回願い事を言うんだよ!」
「分かった!」
「ほら!たくさん、流れてきたよ!!」
「本当だ!よし!帰りたい、帰りたい、帰りたい!」
たくさんの星が流れ、雨の様に降り注いでまた星の山が輝き出した。
そして、少年の姿は消えていた。少年の願いが、叶ったのだろう。
また、星が流れた。
戻った、少年の磨いた星かもしれない。
さぁ、願い事をしよう。
君の願いは、なんだい?




