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第8話 ジャッジであります


「……あの、お話を続けてもよろしいでありますか?」


 正気を失ったミラアリスの暴走がようやく治まったところで、おずおずといった仕草でコリアンダーが声をかける。

 落ち着きを取り戻した末妹姫は、荒々しく肩で息をしていた。


「ぜぇー、はぁー……うう、すまん。どうやらおぬしの言うルール違反とやら、やってしまっておるようじゃ」

「ああ、えっと。大体把握したのであります」


 地べたに転がりビクンビクンしているパロプンテから目をそらしつつ、眼鏡がずれないよう手で支えながらコリアンダーが頷く。


「カイン氏、リーゼロッテ氏による同時襲撃に対し、そこのパロプンテ氏がミラアリス氏から貸与されたダンジョンメイク権限を行使。出入り口区画をブランク化──取り壊し操作を実行し、ダンジョンを不成立状態にして防衛戦自体を無効化。カイン氏、リーゼロッテ氏の軍勢をダンジョンより排した。ということで相違ないでありますね?」

「うむ……間違いない」

「なるほど、なるほどであります」


 新たにパネルを操作して、取り壊された出入り口区画や他の破壊された場所を確認していくコリアンダー。

 裁定を待つだけとなったミラアリスは、借りてきた猫のように縮こまっている。


(くぅ~、ワンチャン部下のあやつが全部やったことにしてわらわ助からんじゃろうか……いや、ダメじゃな。それはダメじゃ。召喚したのわらわじゃし、権限やったのもわらわじゃし、何よりあやつは……あうー、じゃが王位継承権なくなるのはのぅ……)


 頭の中でぐるぐると巡る思考に歯噛みすることしかできない。


「……ふむふむ。こんなものでありますな」

「!?」


 パタン、とコリアンダーが展開していたパネルと本を閉じ、ミラアリスの方を向く。

 いよいよ罰を受けると身構えるミラアリスだったが、そんな彼女を見るコリアンダーの瞳は、しかし、これから糾弾するような者のそれではなく。


「……一個人の意見を言わせてもらうのであれば」


 むしろ、優しさをたたえた色をしていた。


「はうっ。う、うむ? なんじゃ?」

「彼の行ないは、そう咎められるべきものではないと思うのであります」

「む……」

「小生の把握した限り、そこなパロプンテ氏の行動は一種の賭けであり、そしてそれは、当時のミラアリス氏の軍勢が取れる危機回避の一手として、最善に近かったものと思うのであります。それは、ミラアリス氏もお分かりでありますね?」

「……まぁ、の」


 実際、それ以外に手はなかったのだろうとミラアリスも思っている。

 リーゼロッテを挑発して大技を誘発し、そのわずかな隙にダンジョンメイクを実行。

 危険な橋を渡って手に入れた、ほんの少しの時間。

 そんな限られた時間で出来る最善手として、パロプンテは出入り口の破壊を選んだのだ。


「どうあがいても何らかのリスクを負わねば切り抜けられなかった状況であります。絶対に負けられないと思ったからこそ、先に繋がる可能性に挑まれたのでありましょう。そこなタイムラビット氏は、勇敢であったと小生思うのであります」


 コリアンダーの視線の先、褒められた当人はまだのびている。


「そう、かの」

「よい従魔を、召喚なされたと思うのであります」


 てっきり叱られると思っていた相手からの思わぬ言葉に、ミラアリスは戸惑う。


 否、感覚では理解しているのだ。

 この召喚されたばかりの従魔は、それでも主である自分のために全力を尽くしてくれたのだ、と。

 腹心がいなければ何もできない自分を、危機から救ってくれたのだ、と。


 今ここに自分が立っているのは、間違いなく彼の功績だった。


「……まぁ、それはそれとしてペナルティはあるのでありますがね」

「うぐぅっ!?」


 再びキュッと縮こまったミラアリスに、コリアンダーは左手の人差し指を立てる。


「カイン氏、リーゼロッテ氏による攻略戦は正当なもの。その攻勢を強制的に中断させるために行なったのは明白。これは間違いなく、ダンジョンの性質を悪用したルール違反なのであります!」

「あう、あう、あう」


 弁舌を振るいながら一歩ずつ近づくコリアンダーに、どんどんと押し込まれていくミラアリス。 

 コリアンダーが一歩進むごとに、ミラアリスの顔が青ざめ尻尾が垂れる。


「このルール違反に対し、ミラアリス氏にはペナルティを課すのであります!」

「ひぃぃ!」


 肉薄し、コリアンダーの人差し指がたじたじのミラアリスの目前に届いたところで、ふいと彼女は微笑んだ。


「ペナルティ! ミラアリス・デモニカ・ロンダルギア氏は今回のルール違反を二度としないという誓約書に記入し、小生に預けることとする」

「もうおしまいなのじゃー! ……へっ?」

「以上をもってペナルティとし、履行ののちはそれ以上を不問とするのであります」

「……よい、のか?」

「ええ、これが小生のジャッジであります」


 胸を張り、はっきりと断言するコリアンダー。

 

「今回の件において、彼我の戦力差は過剰なまでに開いていたであります。さらには2日という準備期間。どうあがいても埋めることができなかったその差を埋めるための苦肉の策であった点を加味しての判断なのでありま──」

「おぬし~~!! いい奴じゃの~~~~!!」


 ミラアリスが思わず両手でコリアンダーのだるだるの袖をぎゅっと握り、感動のままにブンブンと振り回し始める。


「わっわっ、痛いであります! 袖が伸びるであります~!!」


 突然のことに驚いたコリアンダーだったが、安堵しきった様子のミラアリスの顔を見て、ゆるりと彼女も表情をほころばせる。


「……次はないでありますよ?」

「うむ!」

「その言葉、信じるであります」

「うむ!!」


 元気のいいミラアリスの返事に、コリアンダーがホッと息を吐く。

 そんな二人の美少女の姿を、地に伏したままでパロプンテが見上げていた。


(さすがはエルフ族の審判、非常にチョロ……ごほん、大らかな裁定でございましたな。おかげでなんとか、この場をしのぎ切ることができました)


 一件落着に安堵しつつ、パロプンテは思う。


(それにしても、ミラアリス・デモニカ・ロンダルギア様。で、ございますか。このお方なら、あるいは……)


 歓喜に震えて羽ばたく蝙蝠羽の主を見る彼の心には、何事かを期待する気持ちが芽生えていた。

ぶかぶか余り袖に大きな眼鏡のエルフっ娘が好きです。


読んでいただきありがとうございます。

褒めて頂いたり、応援、感想頂けると励みになります。よろしくお願いします。

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