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第7話 審判エルフ


「な、なんじゃこいつは……!」


 突然の来訪者に、ミラアリスはおめめパッチリ大いに驚き戸惑っていた。

 そんな彼女の疑問に答えたのは、わけ知り顔のパロプンテである。


「彼女はおそらく、審判エルフでございましょう」

「審判エルフぅ?」

「定められたルールを守れているか監視することを生業としたエルフ族でございます。おそらくでございますが彼女は、今回のダンジョンメイクにおけるルールの管理を任されているのでしょう。彼ら審判エルフ族は、契約のもとさまざまな大会や儀式の監督官を担うこともあるそうですので」

「なるほど?」

「丁寧にご説明いただき感謝するのであります」


 パロプンテの解説を受け、来訪者はぶかぶかの軍用コートを振りつつ一歩前に出る。

 そこからは、彼女が会話を引き継いだ。


「改めて自己紹介を。小生は審判エルフのコリアンダーという者であります。このたびの、ロンダルギア魔王家における王位継承争い、ダンジョンメイクのルールの守護者をしているのであります」


 ぺこりと一礼し、ずれた丸眼鏡を戻しながら名乗りを上げる。

 小さく愛らしい見目に反して、その振る舞いには堂々とした風格があった。


 直後、コリアンダーは大きく分厚い本をどこからともなく召喚すると、手を触れないまま魔法で宙に浮かべた。

 これまた触れずに本のページをめくりつつ、再び口を開く。


「今回小生は、ダンジョンマスターのミラアリス・デモニカ・ロンダルギア氏の行なったルール違反疑惑の糾明に参りました」

「んぬっ?」


 首を傾げたのはミラアリスだ。


「わらわ心当たりなんもないぞ?」

「そうなのでありますか?」

「うむ」


 疑問符を浮かべるコリアンダーに、迷いなくうなずいてみせる。

 何かしでかしているとしたら、サフランだろうか。


(しかし、サフランがそんなヘマするかのう?)


 彼女がその手のルールを表立って破るようなところは、ミラアリスには想像できなかった。

 サフランはむしろ、その手のルールの裏を突いてズル──もとい、創意工夫をするのが上手なタイプだと記憶している。

 ただのループ状の通路に幻惑魔法をかけて延々と歩かせる罠の部屋にするとか。

 本来買おうとしたら到底手の出ない上級罠部屋を、通路のお値段で準備するとんでも節約術である。


「はて、どういうことでありましょう?」

「分からんのう……罪状は何なのじゃ?」

「罪状でありますか? ミラアリス氏には現在、ダンジョン出入り口の意図的な破壊による遅延行為を働いた嫌疑がかけられているのであります」

「……へぁ!?」


 心当たり大ありだった。


「正当なダンジョン攻略戦を実行する相手に対しルールを悪用したのであれば、それはペナルティの対象となるのであります。その内容の悪質性いかんによっては、王位継承権をはく奪することもやむなしなのであります」

「な、な……」

「ほら、ここに書いてあるのであります」

「ど、どれどれ……?」


 コリアンダーが示す本のページには、確かに彼女の語るルール違反について記されていて。

 彼女の隣にひっついてミラアリスも覗き込み、事実だと確認する。


「そういうわけで、もしもルール違反が確認できたのであればそれを罰することも含めて、小生がここに現れたというわけであります」

「…………」


 コリアンダーと見つめあっていたミラアリスが、不意にパロプンテを見た。

 パロプンテは目をそらした。

 彼女はすべてを悟った。


 ぶわりと、金の髪が膨らむ。


「……コリアンダーといったか。ちと待ってもらえるかの?」

「はいであります」

「うむ、すまんの。……で、パロプンテよ」

「なんでございましょう?」

「分かっておったんじゃよな?」

「…………」


 パロプンテは歩み寄るミラアリスと目を合わせない。


「分かって、おったんじゃよな?」

「…………てへぺろっ!」

「…………」


 にっこりと、愛らしい笑顔をミラアリスが浮かべた。


「ふんっ!」

「ほぐっ!?」


 その手がガッシリと、パロプンテの頭を掴む。


「…………」

「あ、これヤバいやつでございますな?」


 そして、少女は爆発した。


「おぬしゃーーー!! 何をしでかしてくれおったのじゃーーー!!?」

「ああー! 主様困ります、困ります! そんなゴムまりのようにワタクシを扱ってドリブルされては困ります! あー! あー! あひっあへっ! 困ります! あー! 困ります! 主様困りあー! ああああーーーー!!」

「どうりでサフランが提案せんじゃったわけじゃ! 助かっても王位継承権をはく奪されたらどの道お終いではないかバカ者ーーーー!!!」

「あーーー!! 伸びます! 伸びてしまいます! 肉体の限界を超えて伸びて、伸び! あはぁぁ! 伸びてしまいますー!!」


 ばよんばよんとバスケットボール扱いされたり、モチのように引っ張られたりするパロプンテ。


「ぬがあああー! どうするんじゃこれぇぇ!!」

「ああああー!! 主様長い! お仕置き時間が長うございま、あああー!!」

「ええーー!? いったい何が起こっているのでありますかー!?」


 コリアンダーがオロオロと見つめる中、錯乱したミラアリスはパロプンテを玩具のぬいぐるみか何かのように振り回す。

 否、玩具のぬいぐるみだってこんな風には扱われない。


「わらわ完全に詰んでおるではないかーーー!!」

「あーーー!! あーーーー!!」

「ひぇぇー! ウサギの胴ってあんなに伸びるのでありますかー!?!?」


 どったんばったん大騒ぎ。

 ミラアリスによる私刑は、そののち実に10分を超えて続けられたのだった。


ジッサイ、ウサギはとてもよく伸びる。


読んでいただきありがとうございます。

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