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第6話 裏技


 ミラアリスのダンジョン、その入り口地点。

 それまで騒乱の空気に動物一匹存在しなかった空間が、突如として騒がしくなった。


「宝物庫のものはすべて持ち出……は?」


 光を放ち突如としてこの場に現れたのは、七三分けのイケメンことカイン・ヴァンピーラ・ロンダルギアと、その配下である二足歩行する人型トカゲの魔族、スタンドリザード族の者たち。


「なんだ、これは?」


 突然の出来事に、カインは冷静に思考を巡らせ始める。


(強制転移? そんな罠あの部屋にはなかったぞ? いや、だが相手はあのサフランだ。何か仕込んでいた可能性も……)


 不測の事態にこの手で致命傷を与えた相手の顔を思い出し、彼は歯噛みする。


「チッ。死んだ後もまだ邪魔するのか、ミラアリス狂いの変態エルフめ──」


 忌々しげに言葉を吐き捨てたカインの周りで、スタンドリザードたちは戸惑っていた。


「な、なんだぁ!? どうなってるんだぁ!?」

「俺たち宝物庫にいたんじゃ? あんま宝なかったけど……」

「誰かがヘマやったのかぁ!? ああ!?」

「ボス! ボース! 俺たちどうなっちまったんだー!?」

「カイン様ー!」

「……って、お前たちちょっとうるさいぞ! 少し黙ってろ!」


 落ち着かない部下たちに、カインがヒステリックに声を荒げる。

 その時だった。


「……へぁ?」


 突如として現れたのは彼の妹、リーゼロッテとその配下のマッチョたち。

 自分らと同じく強制転移されてやって来たのだろう彼女たちの、特にリーゼロッテの頭上を見たとき、カインの意識は即座に守りの魔法を編み始めていた。


「ブレイカーーーーー!!」

「ばっか野郎おおおおーーーーーーーーーー!!!」


 ほとばしる閃光、はじける爆炎。

 空気を焼き尽くし燃え盛る小太陽の炸裂が、辺りを火の海と変える。

 かろうじて間に合ったカインの防御魔法の障壁と衝突すれば、轟音が生まれた。


「ぎゃあああああああああ!!」

「うわあああああ!!」

「ダメだー!!」

「…………あら?」


 キョトンとしているリーゼロッテと、阿鼻叫喚の地獄絵図となったその空間。

 森を焼く炎の暴力は、当然すぐそばにあるミラアリスのダンジョンの中にも届き、その入り口を焦がさんとしていたはずなのだが。


 先刻襲撃した際に彼らを招き入れたダンジョンの入り口は、どういうわけだか今、そこに存在していなかった。


「これは、どういうことですの!?」

「いいから早く火を消せ! バカリーゼ!」


 だが、今の彼らにそれに気づく余裕はまだ、ない。


 そして舞台は戻り、コアルーム。


「……な、何が起こったのじゃ?」


 状況が理解できていないのは、ミラアリスも同じだった。


「わらわには、リーゼ姉たちが突然いなくなったように見えたのじゃが……」

「その通りにございます、主様。リーゼロッテ様方には入り口へお帰り願いました」

「……どういうことじゃ?」

「なに、単純なことです」


 ただ一人、状況を理解している様子のパロプンテが、ミラアリスの問いに鼻をひくひくしながら答える。


「儀式を中断させたのです。つまり、ダンジョン攻略できなくしたのですよ」


 そう言って彼が表示したパネルには、本来入り口のあったはずの場所が塞がれている様子が映し出されていた。


      ※      ※      ※


「……つまり、わらわの大勝利ということじゃな!?」

「いえ。よくて引き分け、おおよそ敗北でございます」


 詳しい事情を聴いたミラアリスの口から溢れた言葉を、パロプンテは否定する。


「はぁー!? なんでじゃ!? わらわのダンジョン・コアは無事、わらわも無事、リーゼ姉とカイン兄はダンジョンの外にぽーいじゃぞ?! わらわ大勝利ではないか!!」

「それはそうなのですが……」

「いえーい! わらわの大勝利なのじゃ!!」

「はっはっは、さすがはご姉妹。話が通じない」


 目の前の脅威を追い払った嬉しさに飛び跳ねて喜ぶミラアリスを横目に、パロプンテは苦い顔を浮かべ、塞いでしまった入り口の映像を見ていた。


「ダンジョンには出入り口が必要で、それがない今、ここはダンジョンではない。ゆえに、ダンジョン攻略という儀式は成立せず、仕切り直しのために挑戦者は外へとはじき出される」


 呟きながら、別のパネルを表示する。

 そこにはダンジョンメイクに関する諸々の注意事項やルールが記されていた。


「何の話じゃ?」

「今回利用したルールですよ」

「ほーん?」

「こちらに」


 近づいてきたミラアリスに、パロプンテはルールの記載されているページを見せる。

 彼女は少しの間書かれている文字を目で追いかけた後、ひとつ頷いてパネルを投げ返し、口を開いた。


「めんどい。おぬしが読むのじゃ」

「予想通りのお返事でございますな」


 パロプンテが読んで聞かせることになった。


「では僭越ながら。ここには『ダンジョンのすべての出入り口がなんらかの理由で破壊、あるいは消失した際、ダンジョン攻略の儀式は中断され、攻略側は侵入口前に転送され仕切り直し、ダンジョンマスターは2週間以内に入り口を再配置する義務を負う』とあります」

「ふむ? つまり、ダンジョンの入り口がないのじゃから、ここはダンジョンじゃない。じゃからそもそもダンジョン攻略という儀式が成立しない。で、全部ご破算になった……ってことかの?」

「予想外に素晴らしいご理解です、主様」

「フフンッ! さっきおぬしが言っておったからの」

「ご存知ですか、世間ではそういうのをただの受け売りというのですよ?」


 しかも元の言葉主にそのまま返すクーリングオフである。

 ドヤ顔のミラアリスにツッコミを入れつつ、パロプンテはパネルを操作し続ける。

 ダンジョンの外を映し出せば、焼け野原の中アフロになり美しく黒光りし始めたマッチョと、ブチ切れているイケメン、倒れ伏すスタンドリザートたち、そして高笑いをしている金髪縦ロールの姿があった。

 かなりの被害が出ているらしく、様子を見る限り撤退していくつもりなのだと理解して、パロプンテはほっと一息ついた。


「とりあえず、急場はしのいだようですな」

「リーゼ姉たちは帰ったのか! ハッハッハ! ざまぁなのじゃ!」

「いえ、主様。大変なのはむしろここからでございます」

「うん、どうしてじゃ? わらわ大勝利じゃろ?」

「それが……」

「なんじゃもごもごしおって、もっとわらわの勝利を祝うのじゃ!」


 言い出しにくそうにしているパロプンテをよそに、戦勝ムードを満喫するミラアリスは上機嫌だった。

 尻尾をふりふり、小躍りまでして全身で喜びを表現する。


「いやほんと、一時はどうなることかと思うたが、結果を見ればやはりわらわの最強なところが出てしまったようじゃの。こんなに役に立つ魔族を召喚できたのも、ひとえにわらわの膨大な魔力と王の器がゆえじゃろうからなぁ! あー、わらわ最強すぎて困るのじゃー。なーんて……」


 そんな、調子に乗りに乗っていたミラアリスが、ふと視線を向けた先。


「…………」


 そこに見知らぬ誰かが立っていた。


「ぬな!?」

「あー……」


 驚いたのはミラアリス、黙りこんだのはパロプンテ。


「……よろしいでありますか?」


 突如として現れたその人物は、ぶかぶかの軍用コートを着た、小柄で丸眼鏡をかけたエルフの少女だった。


「ダンジョンメイクにおけるルール違反の可能性を検知したのであります」


 そう言いながら、二人のもとへゆっくりとした足取りでせまる少女。

 ミラアリスとパロプンテ、両名を視界に収めたところで立ち止まると、彼女は左手で丸眼鏡をくいっと持ち上げ宣言する。


「ジャッジしに来たのであります」


 彼女の左腕には、審判と書かれた腕章が巻かれていた。


はたして、新たに現れたこのちびっ子の正体とは……!


読んでいただきありがとうございます。

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