第4話 リーゼロッテ
カイン&リーゼロッテ連合による、末妹ミラアリスがダンジョンメイクを始めて間もないタイミングでの、大人気ないまでの全力襲撃。
ミラアリスの腹心である秘書エルフ──サフランも撃破し、競うようにコアルームを探し回っての今、この時。
コアルームで相対するは、同じデーモン族の母を持つミラアリスとリーゼロッテ。
かたやお供にウサギの魔族1体のみのミラアリスの勢力と、かたや準備万端フル武装、お供のマッチョ魔族もその数10を数えるリーゼロッテの勢力。
パワーバランスの天秤がどちらに傾くのかなど、火を見るよりも明らかで。
「おーっほっほっほ! おーーーーーーっほっほっほ!」
未だ決着こそついていないが、リーゼロッテが勝利の高笑いを上げるのもやむなしといった状況だった。
ちなみにカインの軍勢は現在、サフランが残した置き土産の幻惑トラップに引っかかっている。
「まぁ、雀の涙ほどの抵抗を試みてもよろしくってよ? そこのどう見てもクソ雑魚ナメクジのハニースラッグ以下の戦闘能力しかなさそうなウサギを使って? この私が厳っ選っした! 力と! 知性と! 美貌に優れたグッドルッキングハンサム族の配下たちを蹴散らし、私の喉元に刃を突き立てることができるのならば、ですけれど! おーっほっほっほ!」
「ぐぬぬ……」
言いたい放題の姉に対して反論できずにいるミラアリス。
ちらりと姉の背後を見れば、各々誇らしげにポーズをとるマッチョたち。
グッドルッキングハンサム族といえば魔族の中でも優秀な種族である。
それを10人も従えている姉のカリスマは間違いなく高く、改めて絶望的な状況にあるのを理解し、彼女は戦慄した。
「クソ雑魚ナメクジ、アレは大変美味しゅうございますよね。甘くてジューシーで」
と、そんなミラアリスの隣に並び立つ、いい声のもふもふ。
「はっ、パロプンテ! おぬしボロ雑巾になっておったんじゃ……!?」
「そうしたのは主様でございますよね? しかし……」
ヒビの入ったモノクルをくいっとしながら、パロプンテはこの場における最大の脅威を観察する。
姉妹でこうも違うものかと、主にお腹の上辺りにある二つのふくらみでもって世界の神秘を実感した。
「あれが、主様のダンジョンを破壊せしめんとする姉上殿でございますか」
「そうじゃ。あれこそが我が実姉にして魔王の八番目の子、リーゼロッテ・デモニカ・ロンダルギアなのじゃ!」
ミラアリスの言葉にここぞとばかりにふんぞり返り、ある胸と揺れる金髪縦ロールを見せつけながら、リーゼロッテが鼻を鳴らす。
「フゥン。紹介の時間はもう終わりですの? もっと讃えても構いませんのよ?」
「だーれが讃えるものかこの狡すっからい乳デカおばけめ!」
「あらあら、持たざる者のひがみはいつ聞いても耳心地いいですわぁ!」
「ぬがー!!」
口でもあっさり敗北をきっし、ミラアリスがぷんすことその場で飛び跳ねる。
それすらも目の前の姉を喜ばせるだけだと分かっていても、とめられない。
「まーったく! これだから愚妹には困らせられますわ! お前たち!」
「「「はっ!」」」
黙りこんだミラアリスを前にして、不意にリーゼロッテが手を叩いた。
呼びかけに応え、10人のマッチョが彼女の周囲を取り囲むようにしてポージングを決める。
マッチョたちが一斉に息を吸い、ムキムキの大胸筋をボクンッとパンプアップした、次の瞬間。
「お手本を見せてさしあげなさい!」
「「「御意!」」」
それが始まった。
「この方こそは! フンッ!」
「この方こそは! ハァー!」
「我らがお仕えする偉大なる主!」
「「「フンハァッ!!」」」
「その美しさをたとえる宝石はなく!」
「その高貴を謳える詩人もない!」
「日の下に立てば光り輝き!」
「月の下に立てば光り輝く!」
「膨大な魔力を繊細にして大胆にあやつり!」
「あらゆる敵を美しくけちょんけちょんにする!」
「この金の螺旋を恐れよ!」
「この気高き肢体を崇めよ!」
「「「深紅の瞳に土下座せよ!」」」
マッチョたちがポーズを変えながら、歌っていた。
「その名はリーゼロッテ・デモニカ・ロンダルギア!」
「いずれはリーゼロッテ・アークライト・ロンダルギアとなるお方!」
「我らの!」
「我らの!」
「「「偉大にして美しき主!!」」」
「おーーーーーっほっほっほ!!」
歌いきり、フィニッシュポーズをとったムキムキたちの中心で、リーゼロッテは笑っていた。
これこそが正しい自分の紹介だとでも言わんばかりに、勝ち誇っていた。
ミラアリスはポカンとしていた。
パロプンテもポカンとしていた。
「フフッ、言葉もないようね。無理もありませんわ。彼らをして一週間の練習を要した偉大なる讃歌ですもの!」
リーゼロッテの言葉に、マッチョたちはどことなく誇らしげだった。
「さぁ、ミラアリス。あなたも感動したなら大人しく首を垂れなさい? 私の御前ですわよぉー!」
「……だーれがそんなトンチキなミュージカルの仲間になぞなるかーー!!」
吼えた。
完全に相手のペースに持ってかれていたミラアリスがツッコミに回る。
怒る彼女の周りには燐光が舞い始め、髪は逆立ち、感情に呼応した魔力が今にも暴れだしそうになっていた。
マジでキレちゃう5秒前、激おこぷんぷん丸であった。
「主様、捨て鉢になってはなりません」
「!?」
「王というものは、いつだって堂々と、どっしり構えているものでございましょう?」
「お、おぬし……!」
そんな、窮地を前に明らかに冷静さを欠いていたミラアリスをいさめた者がいた。
それは誰あろう、彼女の隣に立っていたもふもふ──パロプンテだった。
次回、モフモフが、動く……!?
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