/4-3
スコアランド王立護譜団の最高責任者が「他の団員たちの模範となる責務を果たさなかった」として減食の罰に処されるとはまさに滑稽な話だった。そのためグラディスは今夜いつもの食堂ではなく、慎ましい弁当を持たされ自室で寂しく食事中である。
正直気の毒だった。しかも彼らを口論にせき立ててしまった原因の一端は自分にあるんじゃないかとエバンは思っていた。けれどそれをガルゴに伝えたところ「あれは自制ができずに暴走した団長ご本人の責任ですので」とあっさり不問とされてしまった。
これでよかったんだろうか。本当に。そんな後ろめたさがフォークを重くさせる。今日は休息日のご馳走ということで牛に豚に鶏に魚にと肉尽くしであった。だから余計に申し訳なさがつのる。
ビュライトが不在だったので、レーダンと同じ卓に座らせてもらった。休息日は実家に帰るのが彼女の習慣だという。王城の外周部に広がる貴族の居住区、通称《クラスト通り》の、城にほど近い一等地に建っているのだとか。本人も「建国時代から王家に仕える剣士の家系」と言っていたから、納得だった。
男たちの陽気な会話に適当な相づちを打ちつつ、エバンの頭の中では昼間の出来事が繰り返し蘇る。反省するグラディスと屯所を追い出されたイクシオの代わりに状況を説明してくれたのはガルゴ副団長だった。
「アデリアント殿下は、ジヴォルニア国王陛下の弟君にあたります」
そう言われたときの衝撃といったら。
王族関係者どころか王族そのものだったなど、もう二人分味わっているから勘弁してほしい。
「ですが、血の繋がりは薄いものです。今は亡きオリヴィア王女殿下と国王陛下はれっきとした姉弟ですが、アデリアント殿下は腹違い……つまり、母親が違います。それも、本来ならばブルジェオン王家とは婚姻関係を結べないはずの、ウラハルス家の女性でした」
親戚同士ですからね、と補足する言葉の裏には、他の理由も隠れているように感じた。けれど黙っていた。
「故に、陛下とはあまり仲がよろしくないようで、王城の内部も好んでお歩きにはなりません。ですので……ええ、少し心配ではあります」
そう言ってエバンを見下ろす瞳に、あの西側特有の空気は見つからなくて。本当に、こちらを気遣っている目で。
「団長からお話は聞いているでしょう。私の部屋は西の屯所にありますし、実家もウルズの派閥に与しています。ですが……できることなら、私は中立の立場でいたいのです。西の発言権を強めると分かっていながら私を副団長の任に指名した団長の、恩と期待に応えたい。だから、はっきりと申し上げます」
アデリアント殿下の誘いに乗ってはなりません。
あの方はいつか、この国に戦火を放つでしょう。
「……おーいエバーン。空の皿つっついてどうした?」
「え? ――あ」
すっかり上の空だったらしい。まだあると思っていた肉団子は既に胃袋に収まったあとで、取り皿の上は虚しく殺風景となり果てていた。
「食欲があるってのはいいことだがな、ぼーっとしながら食うのはあんまり意味ねえぞ。ほれ、好きなだけ取りな」
差し出された大皿には大量の肉団子が乗っている。これで確か三杯目だったような。
エバンは少し考えたあと、首を横に振った。
「すみません、もうやめときます。急におなかいっぱいになっちゃった」
自覚したら腹の重さもくっついてきた。これ以上は無理に詰め込むことになる。
そうか、と大皿を引っ込めたレーダンに礼を言って、エバンは席を立った。厨房のおばちゃんにも声をかけて食堂を出る。
全身で受けた夜風は、ここで最初に食事をした日のものととても近しくて。
終わりを迎える季節。全てが色褪せ、ゆるやかに眠り、静けさに包まれる秋。
エバンは上階にある団長室を振り仰いで……それから、王城の方へと歩き出した。




