リッキーの回顧
なんか、ダダンダンダンダダン! て音が聞こえてくる!
士官学校を卒業した僕たちはそれぞれの進路に進んでいった。
ランシスは教官をぶん殴った甲斐もあって(彼曰くね)、陸戦隊に所属。
僕は念願叶って技術部に入れることになった。
因みに、僕とランシスの接点はそこで終了さ。
仲良く並んだ飯を食べるなんて無かったし、故郷を偲んで語り合おうにも、二人とも最悪な環境で育ってたから、話すこともないし。
だから、教官室の前で偶然出くわしたのが最初で最後だった。
それからの彼の足跡は、正直知らない。
そこそこの成果を上げていることは耳にしたけどね。
それよりも、技術士官として働く毎日は本当に最高だったよ。
自分が持てる知識を投入して、新たな技術を生み出す。
それがとても楽しかった。
試行錯誤して、失敗を繰り返してようやくたどり着いた成功という報酬は、何モノにも変えがたい、僕の宝になった。
技術者として、あんなに充実した日々はなかったよ。
そうこうしているうちに、僕の国は戦争を始めてしまった。
理由はーー、何だったかな?
ともかく、戦争が始まったんだ。
相手は帝国と呼ばれてる、この大陸じゃ随一の大国さ。
その大国と戦争するんだから、物資がいくらあっても足りゃしない。
それでも持ち堪えることが出来たのは、僕らの国が古代の技術を利用出来たからだろうね。
僕たちが暮らしていたのは小さな国だったから、人口も当然少ない。
人口が少なけりゃ、当然絶対的な戦力にも差が出るけど、それを補えるくらいの技術が僕らにはあった。
だから、帝国相手に何年もドンパチ出来たのさ。
戦争になってから、僕の研究はさらに進んだよ。
元々、人体と機械の融合が僕の研究だったから、戦争では大いに役立ったと思ってる。
医療的技術の分野だったんだけどね。
手足を失っても、新しい義手、義足を付ける事が出来たし、全身を覆うパワードスーツみたいな物も造る事が出来た。
その頃、僕は戦地に近い研究施設に、医療技術者として赴任していた。
負傷した兵士が、僕の使った義手義足を付けてまた戦場に出る様を見てとても誇らしかった。
今考えるとどうかしてたけど、あの頃はそれが当然だった。
僕のお陰で、兵士は戦う事が出来ると奢っていた。
そんな矢先だよ。
重傷の兵士が運び込まれた。
顔を半分潰されて、片腕は肩から引きちぎれてた。
腹にはどデカイ穴を開けられて、脊髄は損傷。内臓もかなりダメージを受けてた。
両足は骨が砕けてたな。
半死半生もいいところ、八割死んでる状態だったよ。
それを、軍の連中は何とかしろって言うんだ。
彼は軍の英雄だから、死なれたら困るって。
酷だよね、英雄で死にかけても死なない。
とにかく、早速治療方法を検討したよ。
ちぎれた腕は義手に置き換えればいい。神経と接続すれば動作には問題がない。
脊髄も砕けた骨も人工骨格と人工筋肉で再建可能だった。
内臓も、消化器官を主にやられてたからそれを補う為の人工臓器で事足りる。
問題は頭だった。
顔半分吹き飛ばされてたからね。
当然、脳も半分近く吹き飛ばされてた。
それをどうにかしろって言うんだから無茶な注文さ。
それでも、再建プランを立てて取り掛かった。
なかなか骨が折れる作業だったよ。
何せ、脳が半分ないんだからね。
吹き飛ばされた脳の再建は不可能に等しい。
人体で唯一、再生が出来ない部分だからね。
聖域だよ、人が人であるための全てが、脳には詰まっている。
その再建だからね、神への反逆にも等しい。
とにかく、彼を生かす必要があった。
失われた脳の機能を補うために、人工の脳を用意する必要があった。
電子部品で構成された『電脳』というやつさ。
小型化が難しかったんだけど、部分的に使う分には問題なかった。
まず、彼の脳にリンク出来るように神経を基盤に接続してハーネスを作って。
それを電脳に接続。
人工骨格や筋肉の接続部分もあるから、それらも繋げて。
彼の体は半分が機械となって再建された。
人体と機械の融合。
サイバネストってやつだよ。
僕は震えた、歓喜に打ちひしがれた。
手術後、彼は一週間眠り込んだ。
そして目を覚ましてリハビリに入った。
その頃、僕は彼に会ったんだ。
いや……
再会と言うべきかな。
ランシスとねーー
「やぁ、無事に目覚めたらしいね」
施設の廊下でリハビリの休憩をしている彼に、僕は話しかけた。
彼はベンチに座り込んでいたから、僕を見上げた時にモーターの微かな駆動音が聞こえたよ。
「あぁ、お前かーー」
彼は興味がなさそうに僕を見上げた。
「お前かって。せっかく助かったんだ。嬉しそうにしたらどうない?」
「嬉しい? 助かったことが、か?」
「ぼ、僕は嬉しいよ。君を助けることが出来た。この僕の力でーー!」
僕が胸を叩くと、彼は視線を僕から外して、じっと床を見つめ始めた。
全身から力が抜けたように項垂れて。
「そうか、お前は嬉しいんだな」
「?」
「正直俺はあまり嬉しくない。また、殺さないといけなくなる」
その言葉を聞いて、僕の心臓は何かにギューっと力強く握られたように苦しくなった。
「こ、殺す?」
「あぁ、俺は兵士だ。前線に出れば敵を殺さないといけなくなる。なぁ、分かるか? 人を殺すって感覚。さっきまで俺の前で、俺に銃を向けてた奴が動かなくなるんだよ。頭を吹っ飛ばされたり、腹を破られて中身が出たり、手足が千切れるなんて日常茶飯事だ。そんな中に毎日毎日どっぷり浸かってみろ。感覚がおかしくなってくるぞ。あぁ……」
そこで彼はぼくを見上げた。
左目がクインと動くのが分かった。
彼の顔半分は人工頭蓋に置き換えられて左目はヘッドアップディスプレイを備えた、高感度センサーの塊になってるからね。
きっと、僕のいろんな情報が映し出されてたと思うよ。
「そうか、お前はこんな所にいるから分からないよな?」
その言葉がグサリと胸に刺さってね。
効いたよ、あれほど胸に深く刺さった言葉はなかった。
僕は激昂してしまった。
「な、何がだよ!? こんな所って! ぼ、僕がいたから、君は助かったんじゃないか!!」
「そうだな、お前が助けてくれたんだよな」
彼は僕に視線を向けながら立ち上がった。
各所からモーターの小気味好い駆動音が聞こえてね。
それを聞くと胸が高鳴るんだよ。
心の中はランシスの言葉でグシャグシャなのに、その音を聞くと胸がざわつくんだ。
ーーまた、死にかけた奴が来たら、再建したい。
って……
もうね、病気だよ。病気。
そんな僕を見抜いたのか、彼は冷たい目で僕を一瞥すると踵を返した。
ぎこちない動きで廊下を進み始めた。
「あ……」
僕と同郷の男が去っていく。
僕の作品が歩いている。
あれ? 僕の本音はどっちなんだろう?
僕の頭の中を、ドス黒い何かが駆けずり回り出したその頃……
「ありがとな」
彼の言葉が聞こえた。
「リッキー。お前は約束を守ってくれた」
それを聞いて、頭の中の黒いモヤモヤが一瞬で掻き消された。
「今度は俺が約束を守る番だ」
ランシスはそう言うと、振り向かずに駆動音を立てて右足を持ち上げた。
その後、彼はひと月ほどのリハビリを終えて戦線復帰した。
その活躍ぶりと言ったら、生身の頃と比べると雲台の差だった。
たった一人で敵陣に乗り込み、拠点を崩壊させたとか、襲撃された補給部隊の応援に駆けつけて、襲撃部隊を殲滅したとか。
僕は心が踊ったよ。
僕が手掛けた『作品』は、予想以上の成果を上げた。
僕の名声や地位も高まり、出世コースに乗った。
戦争を早期終結させた立役者として将来は安泰だ。
余程の身の程知らずだったんだ、でもあの頃はそれで胸がいっぱいだった。
そうして将来を思い描いていある夜。
ランシスはまた僕の元に現れた。
「リッキー、逃げるぞ!」
そう告げてね。
ランシスの顔半分は、きっとダダンダンダンダダン!
でしょう!




