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悪路はつらいよ

盛大に……

「何? 奴らが北上しているだと?」

「あぁ、部下からの報告だが、奴らの駆動車(ビークル)に付けたビーコンが砂漠を北上し始めた」


 アロナウスからの報告を聞いて、エルダーは紅茶を一口すすると眉をひそめた。


「何故だ? 何故北上する必要がある?」


 独り言とも取れるそれを聞いて、アロナウスは肩をすくめた。


「さぁな。奴らに聞いてみればいい」

「それができれば苦労はせんよ。第一、北上したところであるのは荒れた土地と瓦礫のみ……」


 そこでエルダーとアロナウスはハッとなり、互いに見合った。


「まさか」

「もしや……」


 その瞬間、二人の脳裏には同じ言葉が浮かび上がったのである。

 エルダーは立ち上がり机に手をついて、アロナウスは体ごとエルダーに向き直り彼を指差し、


「「イシュタル!?」


 同時に叫んだ。


「あ、あり得るぞ……、イシュタル……あそこに向かったのか?」

「しかし! あそこにはもう、何も残っていないはず……、なぜあそこに行く必要がある!?」


 アロナウスの投げ掛けた疑問に、エルダーは口元に手を添えて考えた。


「我々にあって、奴らにないもの……」

「我々にあって? なんだ、それは?」

「例えばの話だ。我々には確実な移動手段がある」

「それは奴らも同じだ。条件的に……」

「だが、空は食べん」

「空……? あぁ」


 エルダーがそこまで言って、ようやくアロナウスも飲み込めた。

 ランシスたちが北上し、イシュタルを目指す理由に。


「船を手に入れるためか!」

「そうだ。だが、あそこにはもう、飛べるような代物は残っちゃいない。今更探したところで、見つかるのは鉄くずだけだ」

「となればどうする?」

「北上しているんだろう? 奴らは」


 そう言って、エルダーは机上に置かれた報告書に視線を落とした。

 同時に、報告書を手に取ると、口元を上げつつ、それをグシャリと握りつぶした。


「……潰せばいいじゃないか!」


 ーー



 ガタガタと道無き道を、ミスバレンタインは進んで行く。

 進む先に道などあるはずもなく、ただ凸凹とした平地を進むものだから、時折体を襲う突き上げ感に、ランシス、リッキー、ナタリーは胃の辺りに不快感を覚えていた。


「う、く、ぐぇ、はぁ……」

「へ、変な声出すんじゃ、ね、ねぇ、リッキー……」

「こ、こんだけ突き上げられたら……うぇっぷ……」

「ナ、ナタリーは? ど、ど、どうして……」


 突き上げられた事から来る嗚咽感を堪えながら後ろを振り返ると、ランシスはブレーキを踏んだ!

 急制動の掛かった車体は前方に大きく傾き、油断していたリッキーはおでこを派手にガラスにぶつけてしまった。


「あぃだぁぁぁぁぁぁぁ!! ラ、ランシスー! な、何するんだよ!」

「リッキー」


 ランシスに一言物申そうと振り返ったリッキーは、ランシスが急ブレーキを踏んだ理由を悟った。


「リッキー、休憩だ」

「あ、あぁ……、そうだね……」


 ◆



 ランシスに肩を担がれて下車したナタリーは、道無き道の、それこそ道端で盛大にリバーてしまった。


「う、うぇ! うげ……っうふ……は、はぁはぁ……」


 胃の中のものを一頻り吐き出すと、彼女は肩で苦しそうに喘ぎだした。


「だ、大丈夫か?」

「す、すいま、せん……、の、乗りも、う、うぇ……」


 ちょうど降りたところに手頃な岩があったので、ランシスはナタリーをそこへ座らせていた。

 程なくして離れた後に、ナタリーは吐き始めたのである。


「……悪かった」

「い、いぇ……私こそ……」

「今日はここでキャンプだな。無理して移動するのは、体に悪い……」

「す、すいません……」

「気にすんな」


 ランシスはリッキーから水の入ったコップを受け取ると、ナタリーへと差し出した。


「落ち着いたら口をゆすぎな。美人が台無しだぜ」




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