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#98 記憶の渦に迷い込む

気持ちがいい青の強調された空の下では、ジャージの生徒たちが、壮大な競技場を忙しなく動き回っており、その光景はキラキラと眩しかった。


先輩は運動を何でもこなす人として認知していたが、他の走者を突き放して単独で爽やかに走っている今の姿は、空よりもキラキラしていた。


私は先輩への興奮を、準備運動も兼ねてジャンプという形で、身体の中から外に、一粒残らず出し切るという行動を自然としていた。


先輩から得た快楽とは裏腹に、後ろ髪が首や肩に纏わり付くくすぐったさや、モヤモヤがやって来て、苛立ちをジワジワと増幅させてゆく。


私の視界にある景色は、瞳の中心にしっかりとおらず、ここにはいないあなたの方が、しっかりくっきりと瞳の奥の奥の方に映っていて、かなり濃かった。


走り終えて余韻を歩く先輩に、例の赤いスカートのファンの女性が近づき、先輩とガチガチの握手を交わしていて、流石の先輩も抑えきれず、少しの苦笑いを浮かべていた。


目の範囲全体を覆いつくすように、硬い筆で押されているような優しめの痛みが、ゆったりとした間を置きながら何度も表れ、身体が言うことを聞かない一面が少しだけ出始めた。


歓声は空気を全て包み込むくらいの迫力があるが、その歓声に含まれる全ての五感情報から背くように、隣にいる麗愛さんは耳にイヤホンを突っ込みながら、体育座りで俯いていた。


「麗愛さん?」


「あっ、何?」


「何、聞いてるの?」


「気分が上がる曲を」


「もしかして、私も大好きなLOVE?」


「そうだよ。よく分かったね」


「この曲は、優しい気持ちになれるし、テンションが上がるよね」


「うん。周りの雰囲気に呑まれちゃいそうだから、イヤホンで自分の世界に入るのもいいかなって」


「なんか、聞く姿カッコよかったよ」


「そう?よかった」


「体育祭、頑張ろうね」


「うん」


砂っぽい香りの断片が、僅かに鼻に漂いゆくなかで、煙の大群が鼻に充満するような感覚が、ゆっくりとゆっくりと、歩むように小さな空間に溢れてゆく。


自分の表情が気になり、何度も鏡を眺めていると、塞き止めていた何かが弾けたように鼻水が流れ出し、ティッシュをポケットから取り出したのだが、塩味が続き、決壊の歯止めにはかなり手こずった。


私は、今見ているどの女子生徒にも当てはまらない中途半端さがあり、それがあなたの瞳に特殊に映ってくれたおかげで、あなたの心の裾の部分をかろうじて掴めたのであれば、嬉しいなと考えを巡らせていた。


ふと見た客席に、あなたらしき人物がいて、顔も身体もほぼ覆われていたが、シルエットがもう、あなたそのものだった。


あなたの他にも、知っている顔が客席に、ちらほら見えて顔が綻び、萌那は常に少し遠くからカメラを構えていて、顔の前にカメラがある光景が萌那だと、認識する脳がここにはいた。


アナウンスで呼ばれ、私の順番がやって来て、上着を脱いで袖があった部分を露出すると、少しの冷たさを感じ、手のひらで鳥肌に進みつつある太股をパンパンと叩いた。


位置について、呼吸を整え、あなたが砂の先にいるイメージで走っていき、あなたに抱きつくように身体を動かして、勢いをつけて思い切り跳んだ。


着地に成功し、立ち上がった瞬間、水槽を棒で掻き回したかのように、脳がぐるぐると渦を巻き、パッと意識が呑み込まれ、気が付くと地面の上に倒れ込んでいた。


モヤモヤっとした意識や全ての感覚のなかに、あなたの優しい顔のイメージが流れ始め、辛いときこそあなたの近くにいたいという感覚に陥った。


すぐに落ち着き、浮かび上がるように瞳に訴えかけてくる、あなたらしきシルエットの方向を向いて、目や首や手や腕を頻りに動かし続けた。


遠くで唸るウーというかすかな音や、遠くで頻りに手首を掴む癖や、遠くでも分かる貧乏揺すりなどを、私はどこかで感じ取っていて、遠くにいるシルエットがよりあなたのように見えてきた。

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