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#97 原動力が降り注ぐ

日々の運動の集大成が披露される直前のグラウンドは、気持ちのいい青と緑と白の自然に暖かく包まれて、優しさに満ち溢れている。


様々なジャージの生徒がザワザワと蠢くなか、私の部屋で繰り広げられていた先輩と萌那のいい雰囲気は、このグラウンドでも保たれたままだった。


私は本番が待ちきれず、走り出したい気持ちが前面に出てしまい、手足を常にバタつかせるという行動の類いを、しばらくの間、黙々とやり続けた。


手のひらの皮膚は、一定の期間、あなたの手のひらの皮膚から離れた寂しさから、ヒヤッとした感覚が生まれ、それにしっかりと支配され続けていた。


さりげない笑顔を思い浮かべながら、美しい空を見て、空の色を存分に感じながら、塗り絵には必要不可欠な空の塗り方をイメージしてみる。


美しい女性たちを目の前にしたら、想像の中で物語を紡ぎたくなる癖が新たに生まれ出し、目標としたい女子達が前をウロウロする度に疼いていった。


ずっと、私の身体を支配していた震えや寒気はだいぶ前に収まり、それと引き換えに、24色の優しい感情が次々とあちらこちらの方向から溢れ出してゆく。


先輩が出場予定の百メートル走開始のコールがジンジンと鳴り響き、グラウンドには同年代の女子特有の華やかな歓声の束が、明るく可憐に飛び交った。


「緊張するね?」


「うん」


「麗愛さんは運動得意?」


「あんまり得意じゃないかな」


「私も」


「ありがとうね。私のそばにいてくれて、色々話しかけてくれて」


「だから、普通のことだって」


「そうだよね。それにしても、先輩は本当にカッコいいよね」


「海原先輩のこと?」


「うん」


「すごくカッコいいと思うよ」


「そうだよね」


「ねえ。アスリートって競技の前に音楽聞くけど、聞くとリラックス出来るのかな?」


「たぶんそうだろうね。あと、気持ちが高まるとか」


喉元で苛立ちを圧縮する癖が、最近はよく出てしまい、今も喉元が突っ張ったり、つったような感覚になっていて、鼻のムズムズも悪化の一途を辿っている。


あなたといる時にはあまり感じたことのないような、口内に染みゆく酸っぱさの塊がここには存在していて、今ここにそれらが存在している原因は、きっとあなたのいないストレスなのだろう。


自信が持てることと、誰かにモテることは比例するものだと感じていて、あなたがスマホや心などにしっかりと存在しているから、寂しくないという感情が段々と溢れてきているのだろう。


教卓前が定位置となっている麗愛さんは、心くすぐる声も、お調子者の一面も、明るいゴムで束ねた髪も、ここでは見せぬまま、私の近くで控えめに笑い、ジャージのある風景に溶け込んでいた。


開放的な会場には、ボイストレーナーさんの姿があって、驚きが溢れ、歌えなくなってから疎遠になっていたので、私のことを気に掛けてくれていることを嬉しく思った。


目の端の部分から急激に刺激が溢れ、綺麗に反射する手鏡を見ると、赤が全体に広がる勢いを感じ、手で瞼をピッタリと覆った。


日々の筋トレで、自信もムキムキへと向きつつあり、あなたへの自信もようやく針金のような芯が馴染み始めたのだと、身体全体で感じることが出来た。


体育祭は誰にでも見ることの出来る状況にあるが、あなたがこの競技場の観客席にいることは、この人の多さからして、想像できる範囲内にない。


萌那が遠くの方から現れると、趣味のカメラで私を撮影してきて、先輩は先輩で惜しげもないファンサービスをその奥の辺りで、さりげなく放出していた。


私の役割は走り幅跳びをすることなので、太ももを頻りに揉んだり、その場で飛び跳ねたりという行動を、何度も何度も繰り返して準備をしていた。


両耳の集音部分の柔らかさも含めて、しっかりと両手で塞ぐように耳全体を押さえると、あなたの励ましの言葉を深い深い場所から探り続けた。

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