#91 家族というカタチ
今日のあなたは、スクロールが必要なくらいの長いメールを送ってきてくれて、文面で突っ立っているビックリマークは、あなたの心を表しているように思えた。
世間の狭さとあなたの父親の印象強さに今も浸っていて、現実の視界に戻していくと、教卓の前の席にいる麗愛さんの後頭部が、瞳にしっかりと映りゆく。
心をくすぐる声も聞こえず、明るいゴムで束ねてもいない麗愛さんを気にしつつ、スマホの画面にあなたの唇の柔らかさを求めながら、そっと触れている自分がいた。
アメリカのノリをぶつけてくる姉を、受け入れることが出来ていたあなたに、私の自信はいい具合に膨れていて、スラスラと手足がスムーズに動かせている感覚がある。
スマホを覗くと、あなたの姉からメールでドライブのお誘いが来ていて、机に乗せた邪魔な胸を押しのけながら、ずっとそれを目に焼き付けていた。
あなたが書いたリアルな私の絵は、貰ってからすぐに、きちんと鞄に保存してあり、その紙を右手の指の三点で掴む度に、あなたのリアルな顔が頭に溢れてくれる。
習慣になっている、鏡に映る私とその瞳の先にいる想像のあなたを見つめる行為をした後、心と身体を震いながら、奮って教室の最前列にいる麗愛さんに近寄り、声をかけてみた。
麗愛さんは謝るだけでこちらを向こうとせず、口の中で溶けきったハーブのど飴が起こした物足りなさと、胸のざわめきにしかならない雑音しか、私の中には入って来なかった。
「本当にごめんなさい」
「大丈夫だから」
「本当にごめんなさい」
「本当に大丈夫だから」
「あの、私のことはどう思っていますか?」
「好きって言ってくれたことはすごく嬉しかったよ」
「本当、優しいんですね」
「いやっ、私は普通だよ。ねえ、好きなアーティストとかいる?」
「はい、います。このスマホにたくさん曲が入ってます」
「そっか」
「ほとんどこのアーティストですよ」
「見せて。あっ、私も大好きだよ」
「本当ですか?」
「うん。CDもほとんど持ってるし、私たち、気が合いそうだね」
「は、はい」
「今度、また音楽の話をしようね」
「はい」
同じ歌姫が好きで、少しずつ心を開いてゆく最前列の彼女に、光の兆しを感じ、学校では学校特有の楽しみを見つけないことには壊れていってしまうものだと、改めて感じた。
授業終了後、科学の若い女性の先生が私を気にかけて相談に乗ってくれて、それに伴い帰るのが遅くなり、ガチガチに固まらせながら足を素早く動かして、外に向かった。
足裏の感触に重きを置き、早歩きをしていると、後ろから私の名前を呼ぶ低い声が聞こえ、その後すぐに肩に優しい感触を感じ、それが先輩であると瞬時に理解した。
歩いて近づいても、ゆっくり歩いて逃げることしかしない鳥が目の前には存在していて、あなたと少し違う姿が逆に、狂おしいほど愛おしかった。
先輩と帰りの時間が重なり、隣の位置にいさせてもらっていると、ふと見た先輩のスマホの画面には、妹さんらしき女の子のピース姿がしっかりと映っていた。
先輩の地響きのような声と、それによく似たトラックの音が、連なるように耳に届き、脳までガンガン震わせるように気持ちよく響いてゆく。
突然、萌那にしか似合わないような、専用の着信メロディーが鞄から放たれ、その瞬間に踏み込んだ右足の膝には、力みすぎたことにより一瞬だけ痛みが走った。
メールを開くと本文には、あなたがピンチのときに先輩に何度も助けられたみたい、というような内容があり、初耳の情報に瞼がいつもより元気に開いているのが分かった。
歩を進めていると、先輩のスマホ画面にいたあの可愛い少女が目の前に現れ、先輩の妹の生身の姿との初対面に、私の瞳には少女の可愛い笑顔が溶けていった。
優しさと華やかさを含んだシャンプーの香りを漂わせ、私とメールで繋がることと、言葉を交わし合うことを、妹は潤んだ瞳で優しく訴えてきた。
先輩のファンたちが、萌那や先輩周りを監視しているような、ただならぬ目線を最近は頻繁に感じ、それは今も続いていて、甘味と同量の苦味が小さく襲い、唇を軽く萎ませていた。




