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#85 オブラートで包んだ不足

萌那が働くバイト先のファミレスの洒落た扉を、今あなたと共に開けているが、二人揃ってファミレスのドアを開ける以上に、あなたの心を開けるのは難しいのかもしれない。


先日、萌那と笑顔を分かち合ったカフェで見たピンクの衣裳の、半分にも満たない華やかさを持つ地味な衣装を、萌那が見事に着こなし、美しく見せていた。


店員の制服が可愛いという声や、笑い声が、男子高校の声で響き渡り、萌那が他の高校の生徒に好かれているのがきっちりと確認出来た。


頬よりもピンク色に近いカーディガンで包まれた私の身体は、あなたのアシストも加わって、可愛げのある桃色に美しく色付いていた。


最近、なぜだかあなた以上にパンケーキが周りに溢れてる気がして仕方なく、久し振りに隣にいるあなたの輝きは、周りの景色を歪ませるほどだった。


萌那ではない、もう一人の店員が落とした金属食器らしき音に驚くあなたの、定まっていない身体を、見つめながらそっと近くに寄った。


店内に振り撒く萌那の笑顔のあたたかさで、心は溶かされたものの、数日前に萌那の優しさに触れて溢れた涙によって腫れた瞼は、まだ違和感に支配されたままだ。


ボタンを力を込めて押して、馴れ馴れしい萌那にタピオカミルクティーを頼むと、そのすぐ後に、お腹にゴオゴオと違和感が押し寄せ、弱ったお腹の中心にそっと手を添えた。


「そ、それで仕事はどうなの?」


「ハッ」


「ごめん。急に喋りすぎたよね」


「いいえ。大丈夫です」


「本当にごめん。次から気を付けるから」


「あっ、はい」


「萌那、最近また明るくなったよね?」


「はい」


「明るくなって、本当に良かったよね」


「あの?僕と一緒にいて楽しいですか?」


「えっ?うん。すごく楽しいよ」


「僕は、菜穂さんの人生を背負えるほど、心も身体も強くないんです」


「分かってるよ。あのね、今まで許してきたけど、もう萌那と手を繋がないでね。萌那と玲音は、会う機会は少なくなったと思うけど心配で。萌那が玲音のことを本気で好きだったの気付いてないでしょ?私もそんなに強くないの」


「あぁ」


「私ともっと頻繁に会ってよ。学校やめてから会う機会が減って寂しいの。私のこと本当に好き?」


「はぁっ」


「あっ、ごめんなさい。ガツガツしすぎだよね。泣かないでね。不満じゃなくて期待や希望だから。私は玲音を一生守るって決めてるから」


「ねえ、玲音。菜穂が一生守ってくれるって言ってるんだから、大嫌いって思うまでは、とことん身を預け続けなさいよ。私がいるんだから、二人とも私をもっと頼りなさいよ」


「萌那、ありがとう」


「あっ、そうだ。私、先輩と付き合うことになったから」


「えっ」


私に無いと駄目なものが、あなたと萌那のなかにほとんど含まれていると感じ、気持ちがゆっくりとしか戻せない私は、エンジンをかけた直後の冬の自動車のようにゆっくりと動き始めた。


隣で噂を爆音で交わし続ける女子高生たちや、周りにある様々なものに打たれ、あなたは過呼吸気味の息遣いになり、私も鼻で息をすることを忘れていた。


あなたのことに加えて、歌う時だけ声が出なくなる症状が再び現れ、ストレスの存在をしっかりと確認し、口に入れたタピオカミルクティーも、ピリピリと味覚に訴えかけてきた。


タピオカのしっかりした黒色や、あなたの髪のしっかりした黒色ばかりが目について、ミルクティーのようにくすんだあなたの頬は下を向き、刹那に隠れようとしていた。


頼れる人なんて求めていないのに、あなたは何も出来ない自分にイライラしていて、そんなあなたに人間の私として、周りの空気ごと触れ合いを図った。


先輩から貰った、あなたの肌の次に気持ちがいいタオルで、あなたの口周りに広がった水分や額の脂汗を拭ってゆく。


右手が昨日より温かいのはきっと、いま触れているあなたの手や指や、その他の全てのものがジワジワと温かいからだろう。


しなしなになったあなたの絆創膏が目に入り、指から剥がして先輩から貰った絆創膏を、あなたの肌にぎゅっと押し付けて同化させた。


座り直したあなたの弛むジーパンと、左手の人差し指の第二関節に黒く光るほくろが、とてもあなたらしくて綺麗に映った。


欲望に膝下が埋まって、あなたの気持ちに触れられなくなったこともあったが、未来への気持ちを表したように元気のあるこの黒髪は、寿命がまだまだ延び続いてゆく気でいた。


あなたとファミレスの煌びやかさの融合をスマホのカメラで連写し、その音があなたが驚かない程度に響き、癒しだけしか含んでいないあなたの音と共に、私の耳に馴染んできた。

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