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#84 親友という名の通り

萌那の上にいつも広がっている、このギラギラした陽射しを使って、ここにはいないあなたの曇り空も、明るくしてほしい。


歌うことが出来なくなり、あなたはたまにしか会ってくれず、塞がった私を、最近遊ぶことが減った萌那が久し振りにデートに誘ってくれて、自由気儘に楽しんでいる。


萌那の強く響く声は、あなたの声の次に心地がよくて、その後ろで鳴っている風の音さえ心地よく聞こえ出し、それに自然と対応している私がいた。


萌那に痛いほど腕を引っ張られ、新しく開店したカフェに連れて来られると、賑わいすぎている道に存在する光景に、背筋が震えた。


誘ってくれたカフェには、二時間待ちという看板が設置されていて、身体を空中に持ち上げ揺らすほど元気が溜まっている萌那に、その長い待ち時間のなかで、悩みを聞いて貰いながら待ちたいな、という期待が膨らんだ。


ブラウンの髪、ナチュラルで明るい化粧、うるうるとした瞳、飛び抜けた性格など、陽の要素を持ち、大親友でライバルのような関係でもある憧れの萌那が、いつもの顔で笑う。


私の身体に対して、あなたの定位置とは反対の位置取りをした萌那が、私の片方の手を、何かをこねるように、まるで恋人であるかのように握ってきた。


混み合っていて、なかなか前のカップルたちが進まないせいか、エンジンが切られた自動車のように、止まった状態から足を動かすにも、かなりの時間を要した。


「萌那、バイトはどう?」


「まあ、楽しいよ。楽しいけど、菜穂と玲音と一緒にいる方が楽しいかな」


「本当に?その割りにはあまり連絡してこないよね?」


「菜穂と玲音の邪魔になっちゃうと思って。あと、先輩に夢中でそれどころじゃないの」


「そうか。今日は誘ってくれて本当に嬉しかったよ。ありがとうね」


「うん。それで、玲音との関係はどうなの?最近、上手くいってる?」


「よく分からない。玲音がどう思っているかどうかとか。最近はあまり会ってくれないから、今どんな関係かも分からない」


「そっか」


「前よりもさらに、玲音の気持ちが読めなくなったっていうかね」


「悩みすぎないでよ」


「ありがとう。それで萌那はどうなの?」


「もう何回も言ってるかもしれないけど、私、今が一番先輩のこと好きかも。もう真剣に好きって言っちゃおうかなって思ってる」


「幸せそうだね」


「うん、幸せだよ。菜穂は今、楽しい?」


「楽しいよ」


「うん、それなら良かった」


先輩のことを友達だと思えば思うほど、特質な存在に映ってしまい、それが、再び先輩熱が燃え上がり始めている萌那の気持ちに、背を向けているように感じた。


見慣れてきたドアから店内に入っていくと、砂糖のようなものが熱されて甘さを増した、スイーツのイメージそのものというような匂いがした。


席という、優しくてとろけるような空間に着いてから、唾液がたっぷりといる口の中が、パンケーキの柔らかい弾力や纏わりつくような甘みを求め始めていた。


ピンクのコスチュームをした店員さんが運んできたパンケーキは、私みたいに萎んでおらず、パンパンに膨れて上がっていて、ふわふわとすごく柔らかそうだ。


垂らしたメープルシロップが流れていくように、自然と私も流れるような笑顔になったが、どうしても私の瞳とパンケーキの間には先輩の顔が浮かんだ。


一口食べて幸福に浸ったあと、先輩とのデートの日に食べたパンケーキの写真や、ひとりで浸った風景の写真を消して、あなたの写真だけにした。


右手に持ったフォークで食べているのに、あなたの温もりがまだ残っているかのように、あなたに最後に握られた左手だけがやけに熱を帯びていた。


カラフルなパンケーキの横で、先輩から貰った絆創膏が、あなたの肌ではなく、私の親指の肌にしっかりと同化を続ける。


私のこの髪の毛が、あなたとの失恋に切断されることなく、床に付くその日まで伸びていってくれることを、少しだけ願いながら食べ進めた。


一口頂戴!と言いながら、萌那が目の前のパンケーキにグサッとフォークを刺している光景に、苛立つことは全くなく、胸がキュンキュンと唸り出した。


あなた以外の音には全て、雑音が潜んでしまっているものだと思い込んでいたが、連写を何度もしてくる萌那の雑音は、私を優しく優しく持ち上げてくれた。

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