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#76 繋ぎ止められた愛

あなたが少し前に、UFOキャッチャーで2つ同時に取り、片方は私の部屋に飾ってあるクマのぬいぐるみのもう片方が、扉の隙間から見えるあなたの部屋の机の上にいる。


あなたが大量の涙の粒に全てを出し切ることで、過呼吸を静めていっていることが分かり、見せたくないであろう暗闇に染まった姿を、私に見せてくれていることから、まだまだ未来に光があることを確信させてくれた。


今、ストレスが身体や声に表れ過ぎているあなたと抱きついたなら、接着剤のように離れなくなってしまいそうで、決意として、音のある深呼吸を大きく一回した。


僕とハグしてくれますか?という、予想を裏切られるような、あなたの積極的な言葉に包まれ、私といると落ち着くという情報もそれに付け加えられ、私はあなたの優しい身体を魂で受け止めた。


柔らかく震えているあなたが、穿いているジーパンのポケットには、お揃いのキーホルダーの輪っかと思われる綺麗な丸が覗いていた。


しばらく張り付いた後、あなたの存在感のある細い身体の感触から離れると、私の体感の熱の赤さよりも、だいぶ濃いものが、あなたの頬にしっかりと表れていた。


後ろで見守っていたあなたのお母さんに、肩を優しく叩かれた後、夕食を食べていかないか?と誘われ、毎日仕事で帰りが遅く、一緒に夕食を食べることの少ないお父さんの代わりに、私が食卓に座ることとなったが、溶け込める自信は全くない。


食卓の椅子に通され、足を硬く強張らせながら、椅子に全体重を掛けるようにして座り、あなたと他愛もない愛の溢れた会話をしながら、目をキョロキョロと動かして、しばらくその刻を待った。


「お待たせしました。菜穂さんは唐揚げ好きですか?」


「はい、大好きです。誘っていただいてありがとうございます」


「いいえ。たくさん食べてくださいね」


「はい。いただきます」


「玲音、だいぶ落ち着いてきました。菜穂さんが来てくれて本当によかったです。本当に二人がお似合いに見えます」


「ありがとうございます」


「はあ」


「玲音、近いうちに学校には来れるの?」


「はい、行きます」


「菜穂さん。息子をこれからもよろしくお願いします」


「はい、分かりました。玲音、これからもよろしくね」


「あっ、はい。あの、その、や、やっぱり僕には菜穂さんがいないとダメみたいです。菜穂さんにしか抱かない感情のようなものがあるんです」


「そうなんだね。凄く嬉しい」


「本当に、また一緒にいてくれるんですか?」


「うん。もちろん一緒にいるよ」


「ありがとうございます」


本来は上品であるべき、善という名の欲望が溢れすぎて、下品の度合いが加速していることに気が付き、反省の心が僅かに顔を出した。


湯気と共に、こちらに流れてくるニンニクの微かな香りが、ニンニクの全てが苦手だという事実も吹き飛ばすくらいに、淡く優しく、この鼻を通り抜けてゆく。


部屋の前で涙に濡れた後くらいから、のど飴でのどを潤したいほどのモヤモヤ感に襲われていたが、舌に触れた唐揚げの味には、自然でなめらかな甘さが滲んでいて、そのモヤモヤは、即座に美しく溶かされていった。


少し前まで、この部屋で鳴いていたであろう猫ちゃんの名残が、あちこちに視覚情報として散らばっており、片隅では猫用のベッドや器などがしっかりと確認出来た。


丁寧にハキハキと喋るあなたのお母さんの姿が、瞳に段々と染み出し、あなたは私とお母さんにお辞儀をずっとしているかのように、ただただ俯きながら箸を動かしていた。


唐揚げは一瞬しか見ることなく、あなたとあなたのお母さんの姿を目に十分に焼き付けて、心にもしっかりと焼き付けると、その光景が何となく私の家庭に似ていて、若干広角が上がった。


食卓の定位置だという、私の左側の席にいるあなたの手を、テーブルの下でお母さんの目を盗むように探っていると、柔らかさがあなたの方から近づいてきた。


黄土色に似た色をしたテーブルの隅には、私が渡した制服のボタンが大事そうに置かれていて、天井から真下に降ろされているハッキリとした光に見合った会話が、堂々と繰り広げられていた。


あなたの驚くような声も、突発的に身体が波打ったり飛び上がったりすることも今はなく、日光が射した静けさの海に揺られているようなあなたしかいなかった。


オセロのように、周りの状況に流されるようなことはもうしないと心に誓い、その考えを身体に染み込ませると、身体がなんだか軽くなった気がした。


唐揚げの暖かさ、空気中の暖かさ、そして光の暖かさなどが、みんなの声に段々と乗り移ってきたかのように明るくなり、あなたの明るい未来の映像が見えるような声がパッと響き続けていた。

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