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#53 甘い愛の詰め合わせ

白い扉を開けてチョコレートを覗き込むと、まだ定まる途中の黒い物体が、まん丸とした複数の型の中で、しっかりと整列していた。


母の手伝いを借りて作業している幸せを胸に抱いて、天然パーマ、金髪、ラフな黒の上下という、私の心臓が和らぐ姿で流し台に立つ母を、ずっと感じていた。


数日前にした長電話でのあなたの声が、耳の奥底で鳴り止まず、脳や心臓などの臓器だけではなく、耳全体まであなたが溢れていて、全然収まりが利かなかった。


冷蔵庫の外にある溝に手を差し込むと、ひんやりと振り切らない冷たさが撫で、中の冷気を浴びながらチョコレートの置かれたプラスチックの板に触れると、特徴的で張り付くような冷たさが肌を強張らせた。


固まりかけているサッカーボールチョコは様々な表情を見せ、先輩への気持ちを表した小さいもの、食いしん坊ギャルの萌那へ贈る巨大なものなどが自己主張をするなか、あなたに贈る特別なものだけが少し寒がっていた。


突然、私が作っているチョコレートのように真ん丸とした球体の頭が現れ、スキンヘッドに照明の光を集めながら、傍らにあった余りの板チョコをパキリと頬張り始めた。


勢いのいい換気扇でも、父にそぐわない香水の薫りでも拭うことの出来ない、チョコレートの深みのある優しいニオイは、以前の私と同じで、一直線に鼻に向かって来ることはなかったが、しぶとく残っていた。


塩味・辛味・苦味・甘味・酸味・うま味・渋味などのバランスがある程度整っているものもいいが、今舐めたスプーンについていた糖分たっぷりのチョコレートのように、いずれかが群を抜いているあなたのようなものの方が、惹かれてしまう私がいる。


「この板チョコ、本当に美味しいな」


「売ってるやつなんだから、美味しいのは当たり前でしょ?」


「そうか。明日がすごく楽しみだな」


「パパには少ししかいかないと思うよ」


「菜穂?マカロンは作らないのか?」


「パパのためだけにあんな大変なもの作れないよ。パパじゃなくて玲音が優先なの」


「そんなの分かってるよ。来年考えてくれよ?」


「はいはい。あっ、その板チョコは全部食べていいからね」


「ありがとう。菜穂、明日は頑張ってよ」


「えっ、あっ、うん」


「女性から男性に想いを伝えられる、年に一度の大事な行事だからな。ちゃんと伝えるんだぞ」


「うん。愛をぶつけるよ」


「素直になるんだぞ。その時思ったことを、そのまま玲音くんに伝えるんだ。気持ちを一生懸命に伝えるんだ」


「分かった。パパ、ありがとうね」


「菜穂?玲音くんはマカロン好きかな?」


「そんなの知らないよ」


脳でとろける、脳だけにいるあなたの甘さをこの先の目標に掲げ、それを目指して隅々まで気を抜かずに、冷水で濡れた手をひっきりなしに動かし続けた。


あなたよりも弱い心臓を持っている私は、ただそれを強く見せているだけで、それを示しているものは、心臓が強ければあなたを想うだけでこんなに苦しくなることはないという事実だ。


バンジージャンプの命綱の金具と同じで、絶対に私から外すということが出来ないものがあなたへの愛で、膨れ上がったこの愛を、きちんと一滴残らずチョコレートに送り込むことに、心を費やしていた。


あなたに話しかけたという、私の知人と名乗る女性が頭の中で、一般的なチョコレートの色よりも濃い黒の物体として、長々と居座っていた。


その女性の姿を苦手な女性のシルエットと重ね合わせてしまった結果、その人物が後ろ向きの蔓延る地獄へと、私たちを引き込もうとしているような気持ちになった。


敏感なあなたのために、袋はガサガサと音を上げてしまうビニールではなく、冷静な紙を使い、それを一枚取り出すと、その静かなる音色に耳が落ち着きを吸収していった。


キッチンの窓際で映える、あなたに貰ったオルゴールを開き、片付け中の泡立て器のプラスチックの冷たさを、肌で感じながら、聞こえ出した響きのいい音に合わせて、それをマイク代わりに、歌の練習という口実を掲げた愛の熱唱を果たした。


チョコレートを器に取り出して、それをターゲットに、割れるほど画面を凝視して綺麗に出来上がったチョコレートをデジタルカメラに刻み込み、レンズに見映えの良さを問いかけた。


あなたに何かが纏わる度に箱庭のように小さくなる私の心は、あなたが誰かにチョコレートを貰う姿を見ても小さくなることは確実だが、瞼の裏にいる未来のあなたは、笑っていてくれていた。


ずっと後ろの方向を見て生きているあなたと、一緒に前を目指したいと思いながら、紙の袋を全ての指を使って広げ、チョコレートを軽く摘まみ入れ、リボンを愛だと思い込んで力強く結んだ。


湯煎にかけられたチョコレートのように熱くなりすぎることなく、程よい火照りを纏った身体は、甘いしなやかさと、苦味のある窮屈さが混在しているようだった。

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