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#48 暗がりで静かに輝く

存在感が薄い太陽が照しているなか、暗闇でしか安心して目も瞑れない私は、目を閉じることを最小限に留め、見慣れた坊主の後ろ姿を発見し、何となく見つめていた。


校門へ続く道で偶然、坊主が板に付く先輩と、萌那が二人で話しているところに遭遇したが、先輩に対する嫌悪の名残が、萌那からは全く感じられなかった。


二人に気配を感じさせない距離に私は佇んでいるのに、食いしん坊の萌那に先輩がプレゼントしている音の一部である、菓子の袋やレジ袋が擦れる音は、耳をお邪魔し続けていた。


凍える風が吹き、それが治らない頬のニキビや傷、そして心の擦り傷を刺激し、皮膚と心臓が延々と小さな悲鳴を挙げ続けているのが分かった。


身に付けているピンクの腕時計や、このはちゃんの愛情染み込むプラスチックのピンクの指環のような、キラキラした明るさを含んだ羨ましさを、二人の関係を目の当たりにしてからの私は、全く抱けないでいた。


授業中にずっとこちらを見つめ、たまに街で会い、最近よくすれ違う左の席の男子と、正確なセンター分けの先生が、笑いながら私の近くを通り過ぎていった。


鞄を探るために道端でしゃがむと、草っぽい香りが辺りをうろついているのが分かり、香りの出所を探ると、あなたや私とは相反する、一人でも生きていけそうな雑草の力強さがそこにはあった。


勇気を抱いて、萌那と先輩に隠れながら近づき、先日100円ショップで買った、先輩に貰ったハーブのど飴と全く同じものを口に放り込み、のど飴の爽やかさで心を落ち着かせてから耳を澄ました。


「ありがとうございます。色々頂いてしまって」


「全然。こっちが頼んだんだから、これくらいしないとね」


「でも、菜穂は玲音一筋ですよ」


「分かってるよ」


「協力出来ることは、なるべく協力するようにしますけど」


「少しずつでもいいから、友達としてでもいいから、距離を縮めたいんだ。迷惑にならない程度にね」


「はい。想うことはいいことですから。度が過ぎなければいいと思います」


「菜穂さんの恋は、今でも応援してるよ。菜穂さんには幸せになってほしいからね。それはずっと変わらない」


「はい」


「萌那ちゃん。俺、前にとんでもない失礼をしちゃったのに本当にありがとう」


「私もあの時は言い過ぎたと思ってます」


「萌那ちゃん、本当にいい人だね」


「先輩も本当はいい人なんですからね」


「うん。自分ではよく分からないけど」


「先輩がまともになってくれて良かったです。いい方に変わってくれて本当に良かったです」


「どんなに褒めても無駄だよ。俺は菜穂さん一途だから」


「えっ、私、フラれました?」


左足が地面に接するのを待ちきれない右足が、すぐに左足を追い越して、今の私とあなたの距離よりも近いように感じる二人の関係から、逃げるように距離を離していった。


現実から逃げてきた私の元に、あなたと見知らぬ女性の影が僅かに重なり合うという、更に大きな現実が立ち塞がり、校門の陰に潜み、額の中心から広がる熱の重さを何とか耐え凌いでいた。


私の積極性があなたの心を遠ざけてしまい、主導権があなたにあるキスの可能性が、あなたがこの前した噛み殺すようなくしゃみで、少しだけ体外に出てゆくのが確認出来たが、私はあなたをずっと離したくなんてない。


木々が揺れて、コートもスカートも揺れるなか、薄明るい状態でもハッキリと目に映るあなたの細い手は、揺れることなく素直に真下に垂れていた。


真っ白のマスクは消え、年上の見知らぬ女性に対して、いつもよりも冷静に落ち着いて口を動かしていて、さらに私の時より微笑んで話を進めていた。


耳にずっと残っている近所のオジサンの咳払いと、たった今あなたがした控えめなくしゃみが、頭の中でごちゃ混ぜになりながらグルグルと渦巻いていた。


あなたの頬に手を当てたときと同じような、ザラザラ感を私の手の甲に感じ、あなたが飲んでいたコーヒーが掛かり赤くなった、ヒリヒリと疼く足首も気に障り、紺のハイソックスを捲って優しく撫でた。


スマホ画面を鏡代わりにして、自分を映し出してみると、そこには隠せない動揺が映り、デジタルカメラは首から、ただただぶら下がることしか出来ないでいた。


すると、年上の女性が、おもむろにあなたの頬に唇を寄せ、慣れている様子でそっと口付けをし、あなたは頬に口付けをされても一切顔が揺れ動くことなく、普通にしていた。


首や黒目を動かして、視線の逃げ場所を探しても見つからず、今日はもうとっくに半分以上が過ぎているというのに、探してもキョロキョロしても、明日は全然見つからなかった。


あなたが昨日驚いて首を捻ってしまい、後ろをほとんど振り向けないことをいいことに、私は心臓の燃えカスをビュンビュンと吹き抜ける風に乗せて、上空へと飛ばし続けた。

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