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#39 ジュースを飲み驚きに酔う

めでたい日ではあるが、派手ではない目を刺激しない茶色や黒やベージュの外観がこのまま続いて欲しいと願っていて、視界で一番派手なピンクのシンプルな時計で時間を確認しながら、あなたと萌那の家に歩みを進めた。


田中さんからプレゼントされた手が繋げる手袋を早速使用し、あなたの家に嬉しい遠回りをしてから、何も明かされずに誘われた萌那の家へと向かっているこの瞬間に、あなたは控えめな顔で幸せそうに笑っていた。


萌那からの誘いに対する期待で胸の鼓動が増し、萌那が優しさから口にしたであろう、結婚は諦めてという言葉が、未だに耳をグルグルしていて、すみません、痛い、と連呼するあなたにも耳は常に刺激され続けていた。


ハーブのど飴を二人揃って口に含み舐めながら歩くと、鼻に抜ける清々しさと穏やかな爽快感が溢れ、その飴をくれた優しい先輩がパッと頭に浮かんできたが、すぐに消えた。


あなたと私の口の中には同じ味が広がっていて、それは柔らかくゆっくりと溶けてゆく治癒の味で、それはあなたと誕生日に手を繋ぎながら歩く幸福の味だった。


露出した顔の皮膚はジンジンと凍えていたが、握る強さを変えないあなたの手と、手繋ぎ手袋にふわふわと包まれて熱の上がり過ぎた掌には、それなりの汗が滲んでいた。


あなたが落ち着くような黒色をした、私のスカートはヒラヒラと風に揺れ、ランドセルを背負った小学生たちは走りながら迫り、杖をついたおじいちゃんはこちらに軽い会釈をし、通行人が通る度にあなたは視線に怯えていたが、私の視線ではほとんど驚かなくなっていた。


長い時間が経過したような錯覚を受けていたが、あなたに出逢ってからまだ半年さえも経っていなくて、そんな重要なこともあなたの髪の毛の伸びが早いせいか、すっかり忘れかけていた。


「玲音くん、髪が伸びるの早いね?」


「そうですかね」


「うん、結構早いよ。私が切ってあげようか?」


「いいですよ」


「ねえ、玲音くん。ちょっと聞いてもいい?」


「はい」


「萌那のことどう思ってる?」


「えっ、まあ好きですよ」


「どういうところが好き?」


「優しくて緊張もあまりしませんし。何でなのかは分からないですけど、すごく落ち着くんです」


「へえ、そうなんだ」


「色々助けてくれて、とてもいい人ですよ」


「萌那も玲音くんのこと好きって言ってたもんね」


「あっ、はぁ」


「こ、この手袋あったかいよね?」


「はい」


「田中さん私たちのことよく分かってるよね」


「はい、田中さんにお礼を言っておいてください」


「分かった。それで萌那、何の用だろうね?少し怖いね」


「誕生日のお祝いですよ、きっと」


「萌那からプレゼントあるかな?」


「きっと、ありますよ」


「あっ着いたよ。ここが萌那の家」


「は、はい」


「玲音くんは初めてだよね萌那の家。私の家もこの近くなんだ」


「あっ、はい」


チャイムを鳴らすとすぐにドアが開き、全身がピンクの萌那、風船、折り紙、金銀のキラキラの紙などで構成された眩暈を起こしそうなくらいカラフルな飾り付けが次々と現れ、誕生日会の記憶がほとんどない私の目に刻まれた。


萌那の両親は相変わらず留守らしく、そこに姿はなかったが、ポニーテールで声の高い田中さん、そして田中さんの妹であるこのはちゃんの姿があり、あなたはこのはちゃんに最上級の縦揺れを引き起こしていた。


あなたが敏感なお陰で今は手を繋げているが、何もなかったら今頃は身体にさえ触れられていないだろうし、初めから手を繋げていることに改めて感謝しなくてはならない。


いつも以上に元気なツインテールが頭上には存在し、前髪を気にする仕草をしたり、ホールケーキに目をパチクリさせたり、灯されたロウソクの火を主役として思い切り息を吐いて消したりして楽しんだ。


痛みや不快感は危険を伝える信号であるが、この愛しい痛みも危険を知らせる信号なのかと考えながら、冷たいオレンジジュースと危なっかしいあなたに身体をヒヤヒヤッとさせ、幸せを滲ませるあなたにほっこりしていた。


プレゼントにはあなたが溢れていてほしい、そう願っていたがあなたがプレゼントを持っている素振りや収まる空間は見当たらず、あなたの肌にいつも触れていられることが一番のプレゼントだと、気持ちをこの胸に仕舞った。


ベルトによって布が弛み折り重なって皺を作っているあなたのジーパンや、透明なグラスの内側に張りつく僅かなオレンジ色の水滴が下へ下へと歩んでゆく光景などが、私の目に入る。


ピンクのフリフリワンピースを着た萌那のこと、姿が無くて少しだけガッカリした先輩のこと、少食であまり料理を口にしようとしないあなたのことなどが、頭をぐるぐると巡っていた。


萌那が華やかな小包を持って現れ、私の肩から上はロボットのようにカクカク動き、断りを入れて、無性になりながらそれを開けると、豪華なデジタルカメラが姿を見せ、膏血を撒き散らす萌那のえげつない友情は炎をあげていた。


萌那を包むラベンダーの香水が、萌那の色白に映えて、萌那を包むラベンダーの香水がプレゼントに備え付けられた一目で愛の手紙だと分かる分厚い手紙を彩った。


愛してるの一言を萌那と、萌那を通してあなたにも届くように発し、羞恥心を進ませている文明の進化に負けず、言葉に無い明日を描いて見せると、この胸に誓った。

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