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#33 心に育つ自己嫌悪の木

何百回も通った校門を通り抜けようとしている今、右を見ても左を見ても視界はすっきり粛々としており、隣はぽっかりと空白が出来ていた。


知っている後ろ姿も、見ただけでパッと名前が思い浮かぶような顔もなく、取り出したスマホに光を纏わせて、浮かび上がったあなたの顔で落ち着かせた。


お調子者の男子の天を突く笑い声、それを制御する低い声、小学生のように追いかけ回る靴音たちが前方の空気を絶妙に乱していた。


ボイストレーニングの順調さに引っ張られ、詰まらずによく通り、順調さを維持し続けている鼻には、学校の前の広い道に差し掛かってから煙さが侵入し始め、いつも以上に眉をくねらせることとなった。


今日、同じ校舎に存在しなかったあなたの住む家に行き、あなたの家のチャイムを押すことは正直気が引けるが、あのコンビニのミックスジュースを受け入れる体勢を口が整えつつあった。


一生触っておきたいくらい気持ちのいい新品のスマホケースの布で、心になめらかさを保ちながらスマホを鞄に戻そうとすると、あなたのメールらしき振動が肌の奥底まで伝わってきた。


開くと画面には、元気です、から始まる前向きな内容の今までで一番テンションが高い文章が映し出され、それは画面をはみ出すほどの量を誇り、手元のあなたに夢中になる私の、視界に入るあなたへと続く道の風景はぼやけていた。


自分に自信がないあなたの根拠のない強がりをとても可愛く感じていると、それとは違う類いの可愛さを放ち、私のピンク好きの御株を奪うように堂々とピンク着こなす白石さんが、ちょうど大学から出てきたところだった。


「こ、こんにちは白石さん」


「あっ、玲音くんの彼女さん。久し振りですね」


「はい」


「玲音くんはどうされたんですか?」


「今日は風邪で休んでます。少し前に降った雨で濡れて、風邪を引いてしまったみたいで」


「あっ、あの急に降りだして、いつの間にか止んだ、あの雨ですか」


「はい」


「この前、彼女さんがいないときに玲音くんと会いましたよ」


「あっ、そうなんですか」


「はい。彼女さんのことで少し悩まれていて」


「私でですか?」


「はい。彼女さんとこのまま付き合っていていいのかと相談されました」


「えっ、そんなこと言ってたんですか?」


「絶対に離しては駄目だって玲音くんには言っておきましたから。彼女さんも離さないであげてくださいね」


「はい、ありがとうございます。私といると落ち着かないとか、そういうことは何か言ってましたか?」


「いいえ、言ってませんでしたよ。彼女さんも自信持ってください」


「はい」


「学校でも支障を来すみたいですし、未来についてもっと真剣に考えてあげる必要がありますよ」


「あ、はい」


「違うクラスなんですよね。授業中以外は出来るだけ玲音くんの側にいてあげてくださいね」


「はい」


「相談したいことがあったら、いつでもメールください。では私はここで」


「あっ、ありがとうごさいました」


白石さんは横道へと入っていき、以前会ったときよりも一枚分薄着になったお嬢様のピンクの後ろ姿と、鮮やかさの無い後ろの建物が絶妙に交わらずに共存を続けていた。


美しさでは勝てないあのルックスに加えて、私のように恋で乱されていない優しさや落ち着きがある白石さんを憧れの気持ちで頭に思い浮かべると、あなたとの相性の良さが露呈した。


私は本来、リラックスすると黙り、緊張すると喋り出す人間だが、白石さんの前の私はそれが織り混ざっていて、そんな私といつも黙っているあなたとの違いに、細やかな苦しみが込み上げてきた。


あなたが自分の部屋で今、飲んでいるかもしれないミックスジュースを求めて、気が付けば身体を必死さが見えない程度に動かしながら、あなたの近所にあるコンビニへと走っていた。


運動不足の実感が足の筋肉に表れ始め、振動が頭蓋骨にまで響き、あなたの風邪への心配を敏感への心配が上回り、あなたの別れたい気持ちに蓋をしたい、私の自尊心を向上させたい、という気持ちが身体を支配し始めた。


不安や緊張からきた汗のせいか、走って出た汗のせいか、肌が弱い私の頭皮には痒さが生まれ、髪の毛の隙間に潜り込ませて指のひらで擦るように掻くと、それはパタリと鎮まった。


全国大会に行ったことがないサッカー部の勇者たちは、ビルの向こうの遥か向こうの木の向こう側で、汗水垂らして走り回っていると思うが、今日は一度も先輩にお目にかからず、素直にあなたへと向かっていた。


先輩を考えることを促す何かから逃げ込むように、手動のドアを押してコンビニへと入ると、姥桜と呼ぶべきあの顔はなく、見知らぬ顔の店員としか、お目にかかることが出来なかった。


右奥へと歩みを進め、左手で奥にある大きな扉を開け、右手で縦に並んだミックスジュースの蓋のギザギザを二つ一気に掴み、レジを通過した。


おでんの匂いを鼻に入れないようにして外に出て、さっそく買ったミックスジュースのペットボトルをひとつ開け、あなたも今日味わったであろうフルーツの甘い香りを吸収し、続けて味を思う存分堪能した。


心に灯り続けている、歌声であなたを癒したいという気持ちは、走ってきた猫の幼児の叫び声のような鳴き声に邪魔されてゆらゆらと揺れ、私の驚く声の表情があなたの間投詞の対極を進んでいることに少しの嫌悪感を覚えた。

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