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#25 うつらうつらを叩き割られる

一日振りに外の空気を浴びたせいで、瞳に染みる太陽の光に対応しきれず目を細めたが、あなたを思い浮かべながら歩く舗装された道路はとても優しく、気持ちのいい朝がそこにはいた。


病み上がりで寝不足気味でもあるが、意外と身体が軽い私の横では、目が今にもくっつきそうな萌那が、瞼をしきりに擦りながら重そうに俯き加減で歩いていた。


あなたの家へと続く道に綺麗な赤色で咲き誇るシクラメンの甘い香りが、あなたとの久方ぶりの再開を後押しするように、鼻を優しく力強く通り抜ける。


私が一度あなたと通った道とは違い、毎朝あなたと一緒に通っている萌那が導いてくれた道には踏切があり、あなたの家の間近に踏切があることを心配していると、私と萌那に警戒を告げるように突如爆音が轟き始めた。


静けさを取り戻し、歩みを進めながら、ふと萌那の鞄に目をやると、あなたにあげてしまい持っていないはずのキーホルダーが、以前は鈴が揺れていた場所で揺れていて、そのキーホルダーに描かれているライオンが壮大な存在感を見せつけてきた。


キーホルダーを無くしてしまった責任から、あなたがわざわざ動物園に行き、買って渡してくれたのだと得意気に話す萌那は、希望に満ち溢れた表情で大きなあくびをした。


朝のあなたの家の目映さに尻込みし、門の前で立ち尽くしていた私の両肩は、揉むように捕まえてきた萌那の手によって、肩周辺の皮膚や筋肉が飛び上がるようにビクッと震えた。


扉の前に立ち、側壁に張り付くチャイムの小さなボタンを押そうと手を伸ばすと、あなたがドアの向こうからゆっくりと現れ、いつもの叫び声を発し、いつもと違うあなたの姿や不意打ちにより、私は思わず後退っていた。


「れ、玲音くん?どうしたの、その腕?」


「あっ、昨日転んで骨折してしまいました」


「大丈夫?全然知らなかったから。ごめんね、こっちも今日迎えに行くって言ってなかったよね」


「あっ、はい」


「玲音。私にも骨折のこと一言も言ってなかったじゃん。どうせ、菜穂の体調のことを考えすぎてこうなったんでしょ?」


「あっ、関係ないとは思いますけど」


「菜穂は全然悪くないけど、体調崩した菜穂のことで動揺したのは事実でしょ?」


「はぁ、はい」


「萌那、いいからはやく学校に行こうよ」


「そうだね。玲音の荷物は私が持つから」


「ありがとうございます」


「うん」


「菜穂さん、体調は大丈夫なんですか?」


「うん、全然大丈夫だよ。もう風邪はちゃんと治ったから」


「良かったです」


「ねえ、玲音くん?最近また動物園行ったの?無くしたお揃いのキーホルダー買って萌那に渡したみたいだから」


「あっ、はい。姉に頼んで一緒に行きました。菜穂さんがせっかく買ってくれたのに無くしてしまったので」


「玲音くんってお姉さんいたんだ。知らなかった」


「言ってなくてすみません。離れて暮らしている姉が一人います」


「私もキーホルダー渡してもらったときに初めて知ったんだよね。お姉ちゃんがいるみたいな雰囲気は醸し出してたけど、正直驚いたよ」


「うん。知らなかったから私もビックリした」


「ねえねえ、菜穂聞いてよ?この前ね、玲音に詐欺メイクって言われちゃってさ。怒ってるの」


「玲音くん、そんなこと言ったの?」


「あっ、すみませんでした。あの、その、えっと」


「もう、いいよ。そんなに怒ってないから」


「あっ、はい」


「私ね、決めたことがあるんだ」


「何、萌那?」


「玲音は好きだけど、一生恋人にはなれないと思うから、諦めて大親友を極める」


「はっ」


「あのさ、私と玲音くんがいる前で直接言うことではないよね?まあ、いいけど」


「親友として、これからもよろしくね。玲音!」


「はい、分かりました」


喋るときはゆっくりと手を挙げてから小さい声で喋り出して、段々大きくしていくくらいの気遣いがないと、あなたは壊れてしまいそうな気がして、左手からあなたへ少し余計に愛を送った。


姉の存在も知らず、冗談も言い合えず、ただ傷を負わせただけの自分への苛立ちで、歯を押し付けた弱々しい唇の皮は捲れ上がり、気味悪い舌触りと僅かな血の味がした。


あなたの左手の皮膚は白い布に覆われて見えず、特等席で手を繋げない蟠りが押さえても押さえても押し返し、いつもの反対側で手を繋げている喜びを、特等席であなたの左側の匂いが嗅げない不安が羽交い締めする。


ぼやけたあなたの輪郭を視界の左に感じながら歩くことも、あなたと一緒に登校することもこれが初めてで、罪悪感に近い何者かとも手を繋ぎながら、ボコボコとしたアスファルトが続く道を進んだ。


すみませんや会釈、それに耳を塞ぐ仕草が何かと増えたあなたに私の心配は絶えず、あなたを優しく包み込んでいるあなたの姉の姿が、突拍子もなく脳裏にはっきりと映り込んで来ていた。


あなたと久方ぶりに逢えた跳ね馬のような喜び、嫉妬の数々、心配の大群があなたにいつもより近寄るという行動へと変換され、気付かれないようにゆっくり間隔を狭めてゆく。


いつもよりも豊富な、うるさい、が渦巻くあなたの脳に引けを取らないほどうるさい心臓の不安が、モヤモヤになって込み上げる。


車通りの少ない、人や自転車でも窮屈に感じるほどの狭い道には、あなたを脅かすような不意に動くものも、不意に音を出すものも、踏み切りも存在せず、シンプルで和やかな風景に私の瞳は一時の休息を得ていた。


口数は一向に増えることなく、あなたの精神の安定性の低空飛行は続き、暗い色が好きな悲しみ達があなたの腕や顔に集まっていることを目の前にして、不意討ちと予想外を縛り付けて動けなくしてやりたくなった。


風は身体の表面を軽く撫でる程度だが、気象予報士が示していたさほど低くない気温の数値を遥かに凌ぐ皮膚の冷たさを感じていて、数分前に起こった私にとっての予想外の連続が保温材を剥ぎ取ったせいだと決めつけようとしていた。


あちらこちらに現れ始めた、見覚えのある制服の連なりから漏れる喋り声や笑い声を通り越して、あなたは遠くで鳴る微かな音にすぐさま反応を見せ、あなたを追うように耳を済ますと、踏み切りの一定のリズムが耳内に流れ出し、次第に鮮明化を果たしていった。

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