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#21 立体的に愛してる

ガラスを突き破る白い光の焦点が見慣れた机の木目に変化を与え、そこから溢れ出す幸せの空気は姦しい音を奏でる私の心臓の源となっていた。


丸みを帯びた角ではない、対称的で型に嵌めたように角張った正確な三角形は、下を向いて目を頻りに動かすあなたに頬張られて形が崩れてゆく。


前には萌那、右にはあなた、左には透明越しの世界が広がり、初めての三人での昼食にぎこちなさが生まれ、ペットボトルの飲み口の憶測を誤り、透明に限りなく近いお茶は少量、下唇から首にかけての皮膚を冷たく駆け降りた。


タオルで拭い、目の前にいる萌那の写し鏡であるかのように茶色い揚げ物たちを箸で掴まえ、次から次へと口へ運んで幸せと一緒に咀嚼をする私の右には、対極を写し出す鏡が存在していた。


暇さえあればあなたのことを熟考し、酷使し続けた頭には、お昼なのに箱の中に小さな三角形が二つしか入っていないあなたへの心配が積み重なり、幸福に突つかれているような痛みが襲った。


連結された机が二つから三つに増え、椅子も増え、あなたという存在が加わったことにより、右側にある出入り口や気まずさやおちゃらけは視界からいなくなった。


数週間前までは真後ろにいて見えなかったあなたの怯えた顔や驚いた顔も、今は顔を動かすことなく目の前で惜しみなく見ることが出来ている。


あなたのことが好きな理由を愛おしいだけで片付けてしまうことは簡単だが、無数にある言葉から選りすぐれないほどの神秘な愛に溢れていて、表すことは困難だ。


驚く声も、雑味のある笑い方も、椅子を暴れさせる音も、遠慮気味の言葉のチョイスも、今出した聞き覚えのない感嘆詞も心地よくて、あなたの新たな一面が生まれる度に笑顔が生まれ、どんなあなたが出てきても嫌いになんかならない。


「玲音と菜穂と三人でこうやってご飯食べるの初めてじゃない?」


「うん。ずっと同じ教室で食べてはいたけどね」


「私と一緒に食べたいからじゃなくて、玲音目当てでここ来てたもんね」


「はぁ」


「ああ、でも半分が玲音くんであとの半分は萌那が目当てだったかな」


「はっ」


「あのさ、私なんで玲音のことが好きなんだろうって思って考えてみたんだけど出てこなくて、特別思い付かないけど、なんか好きなんだよね」


「は、はい」


「萌那、そういう話はもういいよ」


「無限にいる訳じゃないから、そりゃ被ることはあるよ。好きな人だってさ」


「あっ、も、萌那さん?バイトを始めるんですよね」


「そうだよ。今日の夕方からバイト始めるの。サッカー部を見に行く必要は無くなったし、暇だからね」


「でも先輩は坊主になって反省してたし、真面目になったし、また見に行こうよ」


「はっ?坊主になるとか反省の仕方が古いし、どうせ真面目なのは表向きだけでしょ?嫌なことされたのに嫌いにならないの菜穂?」


「うん。あれからは何も起こってないし真面目なのは嘘じゃないと思うよ。玲音くんもそう思うよね?」


「はい。僕は先輩に憧れてサッカー部に入りまして、今もすごく憧れているので信じています」


「私も今日ボイストレーニングがあるから少しになっちゃうけど、今日、三人でサッカー部を見に行こうよ」


「あ、はい」


「玲音がいいならいいけど」


「決まりね。あっ、私には始業式の時に謝りに来て、萌那と玲音くんにも謝るって言ってたけど来てない?」


「うん、来てないけど」


弁当箱の中から茶色い物体を一掃し、ギトギトとした白が現れ、白と断言出来ない先輩の心の色と重ね合わせ、あなたの向こう側やガラスの向こう側に先輩を探す。


田中さんの妹である、このはちゃんがまた私と遊びたがっているとあなたに話すと、僅かばかりの拒否反応を示し、笑顔があまり得意ではないあなたの笑顔がさらに不自然さを増した。


あなたの制服、あなたの鞄、あなたの髪の毛、あなたを包み込む空気など、全てを感じたくて、鼻で息を吸い込み、残り僅かのおにぎりの切れ端の磯の香りを感じながら、一番の変人は私ではないかと思い始めている。


口内のもの全てを喉に流し込むように、胃の中を浄化するには取るに足りないお茶を飲み干し、先輩の悪たれが水質浄化剤を落としたかのように透き通っていることを望みながら、少しの渋味と、常温に近い少しの冷たさを受け止めた。


統一感が乱れた前髪に、上目遣いと指の平だけで纏まりを持たせようと指を差し込むと、滑らかでさらさらとした髪の毛たちが指を優しくさせてくれた。


凛と垂れ下がった前髪とあなたの先には、まるで噂が吸い寄せたかのように近寄ってくる整った先輩と、驚く顔のあれこれが存在していた。


謝ることだけに執着をせず、ゆっくりとした小さい動作で、耳へしっかりと届く小さな声で、雑念を感じさせない気遣いを見せる先輩がそこにはいた。


あなたが自ら、先輩のサッカーテクニックに憧れていたことを本人の目の前で言い放ち、先輩を許すという稀有と言うべき出来事が起こり、萌那も少し遅れて穏やかに先輩の心を認め、私は誰の残像にも残らないほど、じっとしていた。


ほっこりと心に温かさを感じ、痛みという痛みが一旦立ち去ったかのように、身体は軽く穏やかになった。


あなたの顔に長く居座った私の視線のせいで発生した椅子の転げる音で、四人を包む空気は変動したが、彼女目線でも、友達目線でも、椅子目線でも、空気目線でも、先輩目線でもあなたが大好きだ。

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