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#13 新たな生活と新たな愛のかたち

色調が一週間前とさほど変わらない部屋は、前より都会的な街の空気と心境により、微笑むことの出来る場所へと変化し、萌那と二人、偉大な空間を持て余していた。


萌那は派手な服装、派手な笑顔、派手な声をあっさりと取り戻し、先輩という成分を一滴残らず抜き出したかのような縦ノリで熱唱する。


落ち着きを知らないあなたに最適な、かつて萌那の方面から流れて来たことのないラベンダーの香りは、幸せの思考回路を円滑にさせた。


私が柄にもないタンバリンを一定のリズムで揺らし、手で叩き続けるこの場には、あの日ひっきりなしに驚きを放ち続けていたあなたはいないのに、少し遠慮がちに手を動かしていた。


数時間後には終わる今年から、来年へ想いの丈を繰り越すことは決定的で、あなたから一度も来ることのない返信への期待や不安により、眼や右手親指や首やスマートフォンが過労を訴え続けていた。


選曲の偏った部屋の、脚が煩い小さめのテーブルは、フライドポテトやフライドチキンやピザ達で埋め尽くされ、豪華さとは相反する色味の偏った地味さに安心感を覚えた。


マイクをゆっくりと置いた萌那の歌の上手さはさておき、萌那との関係は人生最大の深さまで到達し、勢いよく食らい、食欲の鬼と化した笑う萌那は私にとって重宝以外の何ものでもない。


恋の矛先が彷徨う、取り止めのない萌那のターゲットが定まるのはそう遠くはなさそうで、危険な恋に走りがちな萌那を想像するだけで眩暈がする。


あの日歌うはずだった十八番の優しさ溢れるバラードはあなたのために封印し、口に出る悔いは廃れると信じて歌った爽快な楽曲の伴奏のギターが、久方ぶりの私の歌唱に寄り添う。


「菜穂やっぱ美声だわ。私は休憩ね。菜穂はどんどん熱唱してストレスを全部ぶちまけてね」


「先輩とは色々あったけど、ストレスなんか感じてないよ」


「私に対してのストレスは?」


「萌那には少しイライラしたけど、あの日以外は特にないかな」


「本当にごめんなさい。菜穂にも長木玲音にも不快な思いさせちゃったね。人って見ているだけじゃ何も分からないって知ったよ。一緒に遊んでみてから最低って分かっても遅いんだけどね」


「大丈夫だよ萌那、気にしてないから。それでイブはあの後どうしたの?長木くんと一緒だったの?」


「内緒だよ。あっ、なんかアイツが言ってたんだけどさ、菜穂とメールとか電話するのどうしても駄目みたい」


「えっ?」


「いや、嫌いって意味じゃないよ。一日悩んでも返信する文章が思いつかないんだって。でも、アイツ反省してたから」


「私には一回も来たことないけど、萌那には返信来るでしょ?」


「結構時間は空くけど来ることは来るよ。どれだけ心配性で敏感なんだって感じだけどね。電話は全く出ないけど」


「そうか。私だけか」


「でも好きな証拠だし、最近のアイツは菜穂に少し慣れてきたんじゃない?菜穂の仕草とかでいちいち驚かなくなったし」


「そうかな」


「うん。それでさ、今日、大晦日なのに帰っても誰もいないからさ私の家で一緒に年越さない?」


「うーん。色々話したいからいいよ」


「ありがとう。あっ、そうそう。もうサッカー見に行かないから暇だし、私アルバイト始めようかなと思ってるんだ。菜穂は放課後どうするの?」


「私は歌の勉強をする」


「そうか、頑張ってね。ねえ、菜穂?私、疲れたから続けて歌っていいよ」


「結構歌ったから私も、もう少し休むよ」


「分かった」


「あのさ、突然だけど、私、長木くんに告白する」


「えっ。アイツたぶん好きって言われたこと無いから大丈夫かな」


「刺激を与えないように注意はするから」


「頑張ってね。あっ、菜穂?先に私が歌っていい?」


「いいよ」


「あのさ、私……」


「何?どうしたの萌那?」


「私も玲音が好き。男として」


萌那の恋心が乱した空気と、ストレートな歌詞が特徴的なラブソングの前奏から逃げるように飛び出し、赤と青を主体とした四角いボディーが列をなすドリンクバーにすがった。


シュワシュワする液体を汲んで戻ると、今までと正反対のタイプの人を想い、乙女の微笑を見え隠れさせ、可愛らしさとシンプルさを全面に押し出した曲を歌うという、萌那のイメージにないものだけしか無いことに気付く。


少し前に先輩からミルクティーを与えられた時よりも気が動転している状態で、口に含んだ炭酸のせいか、嫉妬のせいか、焦りのせいか、むせて炭酸が鼻に入り込み、痛み苦しみ、刺激が鼻腔で暴れ果てた。


甘い味も、口に含んだ時の感覚も、炭酸の強さも忘れるほど疎遠だったコーラのボタンに手を伸ばした理由も正直よく分からないまま、口の中で行き場を失ったコーラを保持しながらの咳が続く。


あなたが描きゆく未来と私との相性が、萌那との相性に劣っていることは承知していて、持つグラスの冷たさと、掌に纏わり付く水滴の数々が私のネバつく未来を想像させた。


頼りないテーブルの、黒みを帯びた大理石模様を背後に携え、突如、音と光と振動を放ち注目を独り占めする長方形には、あなたの名前が記されていた。


空虚の水面にダイブし続けるような、感覚がない一方的な想いは、今あなたという潤いが姿を現したことで、無事に着水を果たし、あなたの姿を全力で想像し、画面を触り、部屋を出た。


何百回としている携帯電話を耳へと運ぶ単純な動作も、あなただと緊張が腕に伝わり微動に苛まれ、胸をくすぐる声が初めて機械から耳へと入ると、髪を触る回数も自ずと増え出す。


途切れ途切れの謝りの言葉しか発することのないあなたは、私の身体を柔らかな愛色に染め、落ち着かないあなたを落ち着ける場所としている私の中で心地よさがうろうろしている。


不快音にならない程度の一定な声量を保ち続けながら話す私は、あなたの声の後ろの静けさのせいで忘れかけていた今年も僅かという事実に気付き、滑り込んできた最後の幸せを噛み締める。


あなたにとっての私が、人参の花のような存在ではなくなったであろう今、愛を伝えるための逢う約束をあなたと交わし、清々しく愛を使い切るまで愛し通すことを心で誓い、電話を切った。

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