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#11 差し支えのない優しさ

日没前の自動改札前から見える、無数の白い光が咲き誇る木々、赤色の光で構成されたハート、張り巡らされた青い光などよりも、あなたの方が私の心で眩い光を放っている。


イルミネーションの隙間からひっそり閑としたあなたが現れたが、驚きを常に表に出しながら、通知済みの私の存在から逃げるように道を逸れ、右側のコンビニへと身を隠していった。


ポツリと待つせっかちな私を包むコートからは、クリーニング明けの独特でこの場に不釣り合いな香りが、今のあなたのように申し訳なさそうに見え隠れする。


視界にコンビニが入らない程度に身体の向きを変え、干渉も意識も心配もしすぎないという決意も込めた深呼吸で、心を落ち着かせる。


薄手のコートをすり抜ける冬が、身体だけではなく緊張共々震わせ凍えさせ、双方から歩いてくる萌那と先輩に身体を動かし挨拶をしているうちに、寒さの震えは消え、緊張の震えだけが残った。


雪の降る気配のない空では月が微笑み、カップルの溢れる地上では昨日までの駅前とは一線を画する光景が繰り広げられている。


上下褐色のレザーを着た先輩は萌那を一瞥した後、冷酷に微笑み、見せつけるかのように私の手を握り、それを見た萌那は幸せのフリをするかのような振る舞いを見せた。


先輩への愛は地上から離れないほどのもので、あなたへの愛は宇宙の天井を突き破るほどのもの、その中に放り込まれれば理性は破滅し兼ねない。


雰囲気と相性がよく、お気の済むまで遠慮してと言いたくなるようなオルゴールの優しい音色が、せめてもの救いだ。


「菜穂、今日も可愛いな。萌那ちゃんはいないものとして扱うからヨロシク!」


「先輩、萌那も仲間に入れてください」


「分かったよ。その代わり、先輩じゃなくて、俺のこと遥斗って呼べよ!」


「遥斗さん、でもいいですか?」


「いいけど。で、こっちだから付いてこい!」


「あの、遥斗さん?もう一人呼んであるんですけどコンビニにいると思うので呼んできます?萌那、お願い!」


「う、うん」


「そいつって男か?お前とどういう関係なんだよ?」


「萌那のクラスメートの男子です。最近までサッカー部だったみたいですけど」


「サッカー部って人数多いじゃん、だから知らないなそんなヤツ」


「そ、そうですか」


「置いてっちゃおうかと思ったけど、そいつがあの女と仲良くしてくれれば俺も気楽だしさ」


「は、はい。あっ、来ました」


「先輩、こ、こんばんは。長木玲音です」


「あっ、お前か。あのサッカーが下手くそでビックリしすぎるヤツか」


「先輩。そんなに下手ではないと思いますけど」


「菜穂、呼び方が元に戻ってるよ。遥斗さんって呼ぶんだよ」


「あっ、はい」


「ダブルデートでいいんだよな?お前たちお似合いだけど付き合ってんの?」


「私たちは付き合ってませんよ」


「そうか、萌那ちゃんは俺のことが大好きだもんな。他の男と付き合うわけないか」


目映い光をばら蒔き、いつもより畏まった態度をとる歩き慣れた街で、車が列を成す大通りの片隅を、対の群れを掻き分けながら、一年前とは反転した心持ちで2列になり進む。


嵐の根元であり、あなたと後ろで密着してるであろう萌那への苛立ちや呆れが再燃し、そこに隣でポッケに手を突っ込みながら歩く傲慢な先輩が好まれる理由が合わさり疑問符が絶えない。


空腹を促進するファストフード店のスパイスが織り成す香りを抜ければ、レザーの匂いや胃をキリキリと痛め付ける会話が充満する二人だけの檻から抜け出せる可能性も広がる。


疑念、苦痛、嫉妬、行く末への不安などなど那由多の要素が複雑に合わさり、苦みとなって口内に滲み出たかのような、決して良くはない味がする。


先輩への優しさはあなたへの優しさへと通じるが、あなたへの苦しみにも変わるという葛藤の中、店内で私を抱き寄せようとする先輩の左腕が私の身体に触れる直前に、萌那の冷えきった両手に引き寄せられた。


店内のクリスマス感は、片隅に置かれた何処にでもあるような小さなツリーや密接する男女が大半を担っており、壁に貼られた申し訳程度のカラフルな色紙も、初耳のBGMも、先輩に比べて存在感は薄い。


駅で逢ってから受付を済ませた今まで、あなたは外に溢れ出ないように驚きの出口を必死に手で塞ぐようにしていたが、音と動きはある程度の大きさで常に漏れ出てしまっていた。


異様な空気の軽減の為に萌那の横に身を寄せようと歩いて行くも、先輩の強引さと萌那の柔らかさが引っ張り合い、私はまるで玩具のように扱われた。


精神がストレスによってじわじわと弱っていくのを、身体の重さ、ふわふわした怠さ、脳にある考えの過疎化などで実感し、クリスマスイブという特別感でも拭えない虚しさに襲われた。


萌那に説得されて先輩の前に姿を現したあなたの度胸も、私よりもあなたに寄り添う萌那も、今流れている大好きなクリスマスのラブソングも、今でなければ嬉しいのに、今は余計に私を苦しめていた。

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