space debris
※擬人化
スペースデブリ(宇宙ゴミ)。
ここでは使われなくなったモノはみんなそう呼ばれる。
僕は人工衛星。軽く自己紹介すると、僕は日本で1983年に打ち上げられた気象衛星で、その名の通り地球の気象観測が主な仕事。ここ(宇宙)では時間なんてないけれど、地球のアンテナへ決まった時間に情報を送り続ける。僕の仕事は4年とちょっとで終わってしまった。どのくらい前だったかな…通信が切れてからは正確な日時もあやふやだ。でもそこにこだわる必要はもうない。だってここは宇宙。時間なんてある様でないんだから。こうしてぐるぐると地球の周りを漂うだけ。
役目が終わってから、僕は色んなことを考える様になった…それまでは地球の表面ばかり穴が空くほど見つめていたけど、する事がなくなってからは真っ暗な宇宙とか、地球以外のものを見る様になった。
地表や雨雲、蒼い海を見るのは今でも飽きないけれど、大気圏で煌めく隕石や、極地に現れる美しいオーロラは本当に綺麗だ。太陽に照らされた時の眩しさや熱もそう、なんとも言えない気持ちになる…。
こうして長いこと漂っているとね、現役さんに会う事もあるし、おなじデブリに会う事も時々あるんだ。でも正直、現役さんは忙しそうだし、僕ら(ゴミ)にはちっとも関心ないみたいだから。むしろ同じデブリに会った時の方が楽しいね!
大抵は軌道のせいで長話はできないけれど、いつも仲間に会うと嬉しくてたまらない。色んな人がいるんだよ、国籍もお仕事も、大きさも形もまるで違う。でも共通なのは最後の回路が切れるまで、暇を持て余してるってコト。だから会話ができる人と出会うと(すでに動かない方もいるから…)みんな話さずにはいられないのさ。
今日は素敵な人に出会った
「やぁ!どこから来たの?」
「ソ連…ロシアよ!68年に。」
「そうか、僕は日本から。83年だから君より年下だね。」
「そうなのね。確かに見た事ない部品が多いわ…私と違って小さくて可愛いのね!」
「はは、ありがとう。君はとっても綺麗だよ。会えて嬉しいよ!」
「…ありがとう、私もよ。日本のおチビさん。」
「僕は気象衛星ヒノトリっていうんだ。」
「ふーん。ヒノトリ…私はrv2709-m…って、長いからこのシリアル読んでちょうだい(笑)軍用通信機だからそんな大層な名前はないの。」
「そうなんだね。最後に通信したのはいつ?」
「確か…71年だったかしら。すぐ改良型が打ち上げられたから、壊れる前に仕事はなくなったの。予備衛生って位置づけだけど、今更だれも覚えてないでしょうね…」
「そっか。でも僕は君のこと忘れないよ。」
「…私もよ、おチビさん。」
「可笑しいよね、デブリって物凄い数が地球の周りを回ってるらしいのに、なかなか巡り逢えないなんて!!」
「そうね。周波数が合うだけでもかなり居るのに、なかなかすれ違うのも珍しいし…しかも貴方みたいに元気な子は尚更レアね!」
そう、宇宙開発が進み沢山の荷物や衛生、付属品が打ち上げられ、デブリとなる。その数は計り知れない。しかも弾丸の様なスピードで僕たちは地球を周回している。時に出会い、すれ違い、ぶつかって大破することだってある。でも何の奇跡か、僕らはたまに軌道が沿うこともある。お話できるくらいには。
僕はロシア生まれの彼女と会話した。彼女が地球を旅立った後の歴史や技術。そして彼女は僕の知らない事を教えてくれた。話の空白には地球に映る夜の影や、数多の流星が儚く散る光景を一緒に見た。
「そろそろお別れね、おチビさん。」
軌道が少しづつずれて来ていた。
「そうだね。もう少し一緒にいたかったよ…」
「必然よ。でもこの奇跡に感謝するわ。悔しいけど、貴方とはずっと一緒にいたいと初めて思ったわ。」
「…」
「今までもデブリにあったけど、貴方みたいな子は初めて。お喋りで物知りで…そう、楽しかった。」
「僕もだよ。…また会えるかな。」
「そう願うならきっと。だって"ヒノトリ"なんでしょ?教えてくれたじゃない。また会えるわ、貴方となら。」
重ねた手が離れて行く…
「君の名前を考えてた…」
「また会った時に聞かせてくれない?楽しみが増えるから。」
「…分かった。もしかしたら、もっといい名前が思いつくかもしれないしね!!」
「ふふ。じゃあね、おチビさん。」
もう手が届かない距離。
また軌道が重なる時まで…それがいつかはわからないけど。
僕は彼女が点になるまで見つめ続けた。
スペースデブリ"宇宙のゴミ"。
僕らは仕事をしていた時より、デブリになった後の時間の方が長い。
現役の頃はデブリなんて気にも留めない存在だった。
ものすごいスピードで飛んで来ては、自分の一部を破損させる厄介な奴らくらいにしか考えてなかった。
でも、あの頃より自由で何故だか満ち足りているのはなぜだろう?
忙しかった頃は、こんな気持ちにはならなかった。不思議だ。
次に会えるデブリはどこの国のどんな人だろうか。
あのロシアの子に土産話を沢山つくるって仕事が出来たからね!
しかし、なんて美しいんだろう…蒼い地球、明る過ぎる太陽、漆黒で無限に広がる宇宙空間。
人間のいる地上や宙の星々、隕石や僕らガラクタの類い。
全てが等しくキラキラ輝く大気と無重力の狭間。
僕はスペースデブリ。幸せなスペースデブリ。僕は冒険の途中なんだ。終わらない冒険の…
〜fin.〜