第四章 吸血鬼はうるう年に生まれる 9.車中にて
「なにやってんだ」
剣未はイラつきながら携帯の電源を切った。
「どうしたの?」
それまで車窓からぼんやり景色を眺めていた篠田レミが横目で見る。
「繋がらない。しくじったな」
「だから言ったじゃない」
篠田レミが言葉をかぶせて非難する。
「第二へ戻るぞ」
運転している体の大きな男は、おもちゃに見えてしまうハンドルを器用にさばいて車をUターンさせる。
「ちょっとこれからランチをごちそうしてくれる約束でしょ」
「おまえにも責任はあるんだからな。立会人のくせに処刑を見るのをやめて吸血鬼の坊やなんぞに走るからだ」
「だって吸血鬼が焼ける臭いって最悪なんだもの。薄汚い心を持ったいろんな人間の血を吸っているからかしら」
篠田レミは責任を回避するような言い訳をして、再び視線を外に向けた。
車が第2種人間招待施設に近づいたとき、時間は正午を回っていた。
「あぁ~あ、やっぱり警察が来てるわよ」
狭い間口で仕切られ、トタン屋根をかぶせた個人経営の町工場が軒を連ねる場所に、パトカーと消防車の赤色灯が忙しなく回転して、周囲を不安にさせていた。村田自動車修理工場の看板が掲げてある建物の前には野次馬が数人いた。入口は青いビニールシートでふさがれて奥が見えない。
剣未はケータイ電話のボタンを押した。
「おれだ。第二で…………そうか、わかった」
手短に会話を終え、深いため息をつく。
「ビニールシートで見えないようにしているということは誰か死んだのね」
篠田レミは素っ気ない態度で電話の内容を聞き出そうとする。
「男性らしき焼死体がひとつ」
「あの女の吸血鬼、逃げたんだ。すごい」
篠田レミは感嘆の声を上げる。
「余計な仕事を増やしやがって!」
剣未の悪態は逃げた由貴と、失態を演じた部下のどちらに向けられたものなのかわからない。
「これからどうするの?」
「女を捜す」
「あてはあるの?」
問われた剣未は口を真一文字に結んだ。
「私はあるんだけどな」
篠田レミはニコッとして剣未の顔を見る。
「まさかDF地区の自宅に帰ったとでも言うんじゃないだろうな?」
「違うわよ。きっと坊やのところだわ」
「あの女が諏諏のところへ?根拠はあるのか?」
剣未は意外な答えを聞かされて顔をしかめる。
「私が坊やの話しをしているとき、一瞬だけすごい目で睨まれたから」
「女の勘ってやつか」
「ええ」
「行ってみるか」
剣未の表情は心なしか緩んでいた。




