第三章 行方不明者捜索 1.コトの始まり
やけに月が輝いて見える夜だった。
宮路晋吾は頭から爪先まで黒で統一した服装の気味の悪い奴に後を付けられていた。電車でDead leadves地区に降りたときからだ。午後十一時を過ぎているのにマンガ、アニメ、ゲームなど若者特有の文化を開拓する街には熱心に商品を値踏みする客が疎らに存在した。繁華街を抜けると、さすがに人けがなくなり、そのときからコツコツという足音が耳を離れない。わざと革靴の踵を鳴らして恐怖心をあおっているようにさえ感じる。
宮路は硬質なショルダーバッグを肩からぶら下げていた。相手との距離を確かめるために、ショルダー・ベルトの位置をなおす振りをして立ち止まった。ちらっと見ると相手も歩みをやめ、素人のエキストラがするような下手くそな演技で顔を横に向ける。
宮路は急に走り出した。
慌てたように後方の足音のリズムも早くなる。
信号は赤だったが、走ってきそうな車も横断歩道を渡ってくる人もいなかった。信号を無視して突っ走る。日本州の銀行と合併して総資産が世界の金融界で第二位を誇るKLT銀行と、隣のビルとの間に、口を開けて狭い路地が待っていた。宮路は迷わず、その路地に入っていく。突き当たりは立体駐車場の高い壁だった。
追ってきた黒ずくめの相手は路地の出口をふさぐように仁王立ちした。月に照らされ、影が落ちた。顔がはっきりと現れた。
「おまえ……」
宮路は絶句。
黒ずくめはゆっくりと距離を詰めてきた。歩き方にはいたぶるような余裕が感じられた。
「近寄るな!」
大声で強烈に拒んで恐怖心を振り払おうとしても、宮路の体の震えがとまらない。それでもバッグを守るように力強く抱きしめた。黒ずくめはそんな宮路の姿を見て惨くて思いやりのない笑い声を歯の隙間からもらした。