パーティを追放された俺はなぜか女神にスキルを剥奪されたのち魔物に襲われて死ぬ
「ジョン、君にはパーティを抜けてもらう」
Cランクパーティ『鋼鉄の絆』のリーダーであるマックスにそう宣言された。
「は?なんでだよ」
俺は、納得できずそう言って他のメンバーの顔を見回すが、皆なぜか厳しい表情でこちらを見ている。
暫しの静寂の後、マックスは静かに俺に語りかけた。
「もとより君をパーティに入れたのは稀有なスキルである『オートマップ』を持っていたからだ。しかし君はやってほしかった役割を果たさず、それどころか逆にパーティを危険にさらすようなことばかりする。何度も説明したよね。『オートマップ』で現在地の把握、退路の確保ができれば安全に冒険ができる、と。そのために君にはパーティの後衛で適宜スキルの情報を共有してほしい、と。それなのに君は前衛で剣を振り回すことにこだわり、情報共有どころか一人で勝手に突っ走り、パーティとはぐれた挙句、自分はスキルを使って勝手に宿に戻ってたよね。『迷いの森』だぞ。ただでさえ遭難しやすい場所で、勝手にいなくなった君を探して、それでも見つからなくて、捜索を泣く泣く諦めて、疲労困憊で、宿に帰ってみれば、『おう、遅かったな』だと?……そもそも、そもそもお前は前衛の役割を理解しているのか?いや、それ以前にパーティについてお前は何も理解していないよね?なんでお前は敵を見つけたら無駄に突撃するんだ?お前に当たるから魔法が撃てないだろ。お前が無駄にケガをするから安くない回復薬を使わなきゃならんだろ。そもそも俺はお前にそんな指示は出してないだろ?しかも、お前は自分に攻撃が当たりそうになったら何も考えずに攻撃を避けたり逸らしたりする。お前は俺たちを殺す気か!前衛が!パーティの盾が!目の前で攻撃を避けたり逸らしたりしたら!後ろにいる仲間が死ぬだろうが!そのお前の持っている盾はお前だけを守るためにあるんじゃねぇんだよ!わかってんのかお前!なにが『は?なんでだよ』なんだよ!こっちのセリフだろうが!お前ぶっ殺すぞ!!」
おもむろに剣を抜き俺に斬りかかろうとするマックスを他のメンバーが組み付き取り押さえた。
俺が呆然としていると、マックスを抑えているメンバーに出て行くように言われ、慌てて荷物を手にとって、逃げるように宿の食堂を飛び出した。
「驚いた、マックスがあんなにも気の狂った男だったとは……」
走って乱れた呼吸を整えながら独り言ちる。
あんな気狂いな男がいるパーティなどこちらから願い下げだった。
昼飯を食べ損なったので、適当に露店で食事を済ませ、腹ごなしにギルドで依頼を受ける。
受けた依頼は『ホーンラビットの捕獲』というやつだ。今回は5匹持っていけばいいようだ。ホーンラビットは迷いの森に主に生息しているウサギで気性は荒いが角にさえ気を付けていればなんとか倒せる相手だ。報酬は状態によって5千レンから5万レンと書いてあるが、だいたい買い叩かれるので最低報酬の5千レンだと思っていたほうがいい。報酬は低いが他の依頼よりはマシだった。なぜか迷いの森関連の依頼は他より報酬が高く、他の冒険者と競合することが少ないので、俺はこの類の依頼をよく受ける。
それにしても、と迷いの森に向かいつつ物思いに耽る。なんでどいつもこいつも俺のスキルが『オートマップ』だと分かった途端に勧誘してくるんだ。前衛希望だと見向きもしないくせに、だ。とりあえずパーティに入らないことには話にならないので、しかたなく了承したことにしてパーティに入るのだが、なぜかどいつも俺を後衛に下げようとしてくる。俺は前衛だと説明しただろ。結局折り合いが付かず、そっちが勧誘してきたにもかかわらず俺を追い出しやがる。そんなことが続き、やっと前衛として認められたと思っていた『鋼鉄の絆』では、リーダーの乱心によりこのざまだ。だいたいなんで他のメンバーは俺をかばってくれなかったんだ。迷いの森なんて大層な名前が付いているが、あんなところで迷うことなんてそうそうないだろ。そんなところで迷ったのを俺のせいにして責任を転嫁してきたのだろう。最初は物腰の低い話の分かる奴だと思っていたが、最後の最後にとんだ本性をみせてくれたな。まあ、もうあんなやつなどどうでもいい。
それよりもなんで俺のスキルはこんなクソみたいな効果なんだ。始点を意識すればスキルを切るまで通った道筋を把握できるというなんともいえない微妙なスキル。普通にマッピングするのとなにが違うのか。そんなものを有難がる冒険者どもの気が知れない。こんなスキルがあるばっかりに、本来の前衛としての仕事ぶりが評価されないんだ。『オートマップ』さえなくなれば、色眼鏡で見てくる連中も俺の実力に気付くのではなかろうか。
”ジョンよ。憐れな子よ。己をもう一度見つめ直しなさい。さすれば自ずと道は開かれるでしょう”
突然頭の中に声が響いてきて驚いた。この声はスキル付与の儀式の時に聞いた女神の声か?
”そうです。私はモイラケシスロートポス、スキルの女神とも呼ばれています。本来の役割はスキルの振り分けですね。儀式で付与されるスキルは、その者に最も適したものが選ばれるようになっています。もちろんあなたの『オートマップ』も例外ではありません”
『オートマップ』が俺に最適なスキル?そんなわけないだろう!このスキルのおかげで子供のころどれだけ馬鹿にされたと思ってるんだ。他の奴が空を飛んだり、派手な技を出して喜んでる中、いつも偉そうにしているくせに道に迷わないスキルなんて地味だと笑われて、どれだけ恥をかいたと思ってるんだ。いるだけで迷惑だからと迷いの森の入り口に生えている薬草を取りに行かされたこともある。こんな屈辱の日々を俺は送っていたんだ。
”おぉ……ジョンよ、もう一度言います。己を見つめ直しなさい”
己を見つめ直す?そういえば、俺が自分の才能に気付いたのは、ストーンヘッドラットと対峙したときだったな。頭が石のように硬いネズミなんだが、間合いを詰めてしまえばお得意の頭突きができず何もできなくなるんだよ。そのときに俺には前衛の才能があると確信したんだ。なぜなら、他の奴はそのネズミと対峙したらある程度距離を取って飛んできたところを打ち落とすんだとよ。笑ってしまったよ、失敗したら大怪我するだろうが。その点、俺の方法ならダメージは最小限で済むんだよ。多少ダメージは受けるが、勢いのついた頭突きを受けるより何倍もいいだろ?そんなこともあいつらには分からないんだ。俺には才能がある。だから、いつか他の奴らをその才能で見返してやるんだ。絶対に!!
”……。わかりました。ジョンよ、特別にスキルをあなたの望むものに替えてあげましょう。どのようなスキルを望みますか?”
女神の言葉に胸が高鳴る。俺は昔自分に合ったスキルがないか調べていたことがある。まあ、そのときは、スキルは一度付与されたら変えることはできない、ということを知らなかったのだが。そこで、これぞ、というスキルを見つけていた。それは『エンチャントオーラ』。武器や防具に一定時間オーラを纏わせ、耐久値に補正を掛けるスキルだ。これぞ前衛向きのスキルだといえるだろう。
俺は女神に『エンチャントオーラ』を望んだ。
”……。たしかに『エンチャントオーラ』は強力なスキルですが……。本当にそれでよいのですか?”
女神の言いようはまるで、『オートマップ』の方がお似合いだと言われているようで腹が立つ。
当然『エンチャントオーラ』をもう一度望む。全ての俺を見下す奴をこのスキルで見返してやる。
”わかりました。あなたのスキルは『エンチャントオーラ』に変更されました。あなたの生に幸あらんことを”
女神の声が去ってすぐに、『エンチャントオーラ』を持っていた剣と盾に試してみた。淡く光るオーラが剣と盾を包んでいるのが分かる。俺は頬が吊り上るのが抑え切れなかった。一気に間合いを詰めて相手の攻撃を制限し、エンチャントオーラで腰の入っていない相手の攻撃を完全に無効化する。ふふふ、完璧だ。
迷いの森に到着した。ソロのときはいつも入り口付近でホーンラビットを待ち構えるのだが、今の俺は無敵なので『鋼鉄の絆』と潜ったところまで進んでいく。
早速ホーンラビットが1匹いたので、一気に間合いを詰め剣を振り下ろす。そこそこのダメージが入ったと思うが、反撃の角攻撃を受けてしまう。だが、オーラで強化された盾はびくともしない。いつもはいくらかダメージが入っていたが、今はノーダメージだ。何度か攻撃を繰り返しようやく止めをさせた。なんとノーダメージである。
1匹をノーダメージで仕留め喜んでいたが、ふと異変に気付いた。元来た道が分からないのだ。慌てて『オートマップ』を確認しようとするが、なぜか出来ない。混乱したが、どうにか状況を整理し、ひとつの答えに行き着く。『オートマップ』は女神に剥奪されたのだ。
なぜだ。俺が何をした。なぜこんな仕打ちをする。『エンチャントオーラ』は女神が与えると言ったのだ。そうだろ?俺は、それを、もらっただけなのに。
もう日も暮れて辺りは暗闇に包まれていく。早くここから出ないと魔獣に襲われてしまう。焦る気持ちを抑えられず、出口を目指して必死になって草木を掻き分けていると、突然左わき腹に衝撃が走った。目線を向けるとホーンラビットの角が深々と根元まで刺さっているのが見えた。
「え?」
呆気にとられている間にホーンラビットは角を引き抜くとどこかへ行ってしまった。
意味が分からない。状況が理解できない。
俺は今『エンチャントオーラ』で防御力が上がっているはずだろ。
慌てて傷口を手で押さえるが血は止まらない。
そして、息が出来ない。脂汗が止まらない。
もううずくまって、呻き声を上げることしかできない。
目の前がだんだんと真っ白になって、音もどんどん遠ざかっていく。
なんか痛みがなくなってきた。
………
……
…
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