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深夜の擬態

作者: たろ

 この泥棒が目をつけるのは、深夜に窓を開けたまま寝ている家だ。留守よりも家主がいる方が、返って警戒していないものだ。

 アパートの一階。家主のいびきが聞こえていた。

 泥棒は慣れた様子で窓から忍び込むと、無防備な家主のすぐ隣を歩いた。だがこの日はうっかり、何かに足を取られてしまった。ガタリ、と物音が立つ。

 ひやりとして息を殺す。闇に溶けたまま、薄く目を開いて辺りを見回す。扇風機のコードに引っ掛かったらしい。

 家主が「ううん」とひとつ唸り、身じろぎした。泥棒は万事休すかと思ったが、家主は起きることなく手を伸ばし、リモコンを拾った。そしてそれを泥棒の方に向けてボタンを押した。

 何度も繰り返しボタンを押す姿を見て、泥棒は気がついた。これは扇風機のリモコンなのだ。そして扇風機のコードは、さっき自分が引っ掛かって抜いてしまった。

 このままでは起きてしまうかもしれない。そう思った泥棒は、とっさに「ふー」っと息を吹いた。更に一定のリズムで左右に首も振った。

 泥棒と言うのは、普段は善良な市民に溶け込む。仕事中は闇夜に溶け込む。あらゆる場面で違和感の無いものになりきるのだ。そして今は扇風機だ。人生をかけて扇風機を演じるのだ。

 しかしそんな努力も虚しく、家主は起きてしまった。なぜなら彼が押していたのはエアコンのリモコンだったのだから。

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