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この想いは  作者: 細波
6/18

6.

夏休みに入り、絵美と遊んだり宿題をしたりするうちに、あっという間に図書室の当番の日になった。

夏休みの図書室の開室時間は、平日は午前九時から午後五時まで、土曜日は午前十時から午後三時までである。

土曜日は開室時間のすべてを担当するが、平日は東条先生が開閉をしてくれるので、生徒は午前十時から午後四時までとなる。


午前十時に登校し、東条先生とバトンタッチをする。

先生は用事があるらしく、交代の時間までこちらに来れないことを詫びていた。

気にしないでくださいと伝え、お昼はカウンターで食べても良いとの許可をもらい、先生を送り出した。


夏休みの前半は、割りと人がチラホラいる。

ほとんどは補講がある三年生で、空き時間に勉強しに来ているようだ。

この学校では受験用の補講が充実している。

この時間のこの教室ではこの教科をこの先生が教えてくれるという一覧があり、大学の講義のように自分で自由に時間割りを組むことができるのだ。

そのため、組み方次第では空き時間ができる。

ほとんどの人はなるべく空き時間が出ないように組むらしいが、空いても大体ひとコマ分なのか、一時間もしないうちに図書室を出ていく人が多い。


お昼になると、図書室には誰もいなくなった。

私はカウンターでしていた宿題を片付け、お弁当を取り出した。

今日はお母さんが作ってくれたが、普段は自分で作っている。

中身は夕飯の残りが多いけどね。


ご飯を食べ始めてすぐに図書室の扉が開いた。

びっくりしてそちらを見ると、晃先輩が入ってくるところだった。


――先輩、本当に来たんだ。


箸を咥えたままじっと見ていると、先輩と目が合った。思わず会釈する。


「こ、こんにちは」


箸を置いて挨拶をする私に「ん」と返事をすると、先輩は先日と同じ席に座り、腕で顔を隠すように机の上に伏せた。

そして、そのまま動かなくなった。


その様子を思わずじっと見ていた私だが、先輩がゆっくり寝れるようにと視線を外し、音をたてないように静かにご飯を食べ始めた。


シャク。


キュウリが音をたてたが、気にしないことにした……。






*


お昼を食べ終えて、宿題の続きをする。

私はできるだけ早く宿題を終わらせたいタイプだ。

休みの最後までこいつらに時間と気を取られたくない。

さっさと片付けて、残りの休みを謳歌するのだ。

今日は苦手な数学。中学までは何とかついていけたが、高校に入った途端に数学は私に牙を剥いた。

まず数式の意味が理解できない。新たな記号が目白押し。

なんでこの公式が当てはまるのかさえ意味不明。

他の教科はそこそこの点数が取れるが、数学だけはいつも平均点より下だった。


――絵美や将生くんにも教えてもらってるんだけどなぁ……。


二人は数学が得意だと自負しているので、試験前などはいつもお世話になっている。

一人暮しの将生くんは、試験の時期になるとわざわざ帰ってきてくれることもあるほどだ。

この前の試験のときは仕事が忙しかったらしく、それでも帰ってこようとする彼を押し留めるのに苦労した。

それでもわからないところは電話で教えてくれたりしたんだけど。

絵美にも休み時間や放課後を使ってたくさん教えてもらった。

今度二人にはお礼のクッキーでも作ろうかな。


思考が脱線しながらも地道に問題を解いていた私だったが、ある問題でつまずいた。

教科書を見てもわからない。参考書を見てもわからない。

八方塞がり。

あーでもない、こーでもないと書いては消し、書いては消しを繰り返し、ついには頭を抱えた私の上から、低い声が降ってきた。


「……さっきから何やってんの?」


咄嗟に顔を上げるとそこには、カウンターに腕を置き、その上に顎をのせてこちらを見つめる晃先輩がいた。



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