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この想いは  作者: 細波
2/18

2.

「直生、一緒に帰ろ」


終業式が終わり、ホームルームが終わったところで、親友の絵美が声をかけてきた。


「ごめーん、今日も図書室に行かなきゃなんだ」

「あれ? 夏休み前の当番って昨日で終わったんじゃなかったっけ?」


本来なら、絵美の言うとおり今日は当番の日ではない。

しかし、先ほど終業式が終わって体育館からクラスに戻るときに、本日当番の子が貧血で倒れ早退したとグループの連絡網にメッセージが入った。

相談の末、私が代わりに出ることになったのだ。


「あー、それなら仕方ないね。頑張って!」

「ありがとう。また連絡するね」

「うん、夏休み中も遊ぼうねー」


そう言った直後、絵美は他の子に声をかけられたため、私に手を振るとそちらに向かった。

私も図書室に向かうため鞄を持ち、歩き出した。




引っ込み思案ではないが比較的大人しい、落ち着いていると評される私と違い、彼女は元気溌剌で友人も多い。

そんな彼女とは小学校からの付き合いで、仲良くなったきっかけは五年生のサマーキャンプのとき。

同じクラスでもあまり話したことがなかった私たちは、ギクシャクしながら定番のカレーを作っていたのだが、私の包丁さばきにいたく感動したらしい絵美が、興奮気味に褒めてくれたのだ。

絵美の褒め方はものすごく大袈裟で、私は恥ずかしくなって「もうやめてー!」と叫んでしまったほどだ。

そこから意気投合して、現在に至る。

ちなみに、そのとき彼女が剥いたジャガイモは、手のひらいっぱいの大きさからサイコロサイズに変化を遂げていた……。




*


当時の私は父子家庭だった。

母は私が三歳のときに亡くなり、それから父が男手ひとつで育ててくれた。

それまで出張が多かった父は会社に頼んで仕事をセーブし、私のために自分の時間をたくさん犠牲にしてくれた。

本人はそんなことはないと言ってくれるが、大きくなるにつれて私は自分のことは自分でするようになり、小学校に上がるときには家事にまで手を出すようになった。

高学年になる頃には父も出張はしなくても残業をするようになり、中学に進学するとその出張も復活した。


父は、私が中学に進学すると同時に再婚をした。

お相手は会社の同僚だった。彼女もまた旦那さんを早くに亡くし、女手ひとつで男の子を育てていたらしい。

ここ二年くらいで急に距離が縮まり、私の中学進学に合わせて入籍することにしたのだ。

私は、父の苦労を知っている。ずっと頑張ってきた父にはぜひ幸せになってもらいたい。

反対する理由はなかった。


再婚相手の恵子さんは父より四歳年上だ。とても豪快な人で見ていて楽しい。

初めての顔合わせのとき、「無理してお母さんって呼ばなくていいからね。どっちかっていうと、私、男勝りでお父さんって感じだし」とそれはそれは屈託のない笑顔で私に言ったのだ。

反対はしていないが「お母さん」という存在に対し少し持て余し気味だったことは認める。

そんな私の心情を瞬時に読み取ってくれた恵子さんとは、いまは自然に「お母さん」と呼べるほど仲良くなった。


再婚と同時に、私には六歳年上の兄が出来た。

兄は大学に進学したばかりで、今回の再婚も特に反対をすることなく笑顔で祝福していた。

私のことも可愛がってくれ、忙しい両親の代わりによく家にいてくれ、家事も分担してやってくれた。

兄もまた、私と同じく家事を引き受けていたそうで、凝り性の彼が作るカレーは絶品だ。

何せいろんなスパイスを独自にブレンドして作るものだから、私にはとても真似できない。


こうして、私には新しい、素敵な家族ができた。


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