18.
ウェディングパーティーは無事に終わり、数日後、二人は飛行機で新天地へと旅立った。
ちなみに、先生は次の場所でもちゃんと司書の職を手に入れたらしい。
今度は私立大学内の図書館だそうだ。
司書を続けられることが結婚よりも嬉しいと、あの悪戯っ子のような顔でこっそり教えてくれた。
見送りは両家族総出で行われた。
二人は苦笑いしていたけれど、搭乗時刻になると号泣してそれぞれの家族ひとりずつに抱きついていた。
何を隠そう、彼らは家族大好き人間なのだ。
抱きつかれたときの先輩の顔がものすごく嫌そうだったのが、とても面白かった。
「瀬崎さん、晃をよろしくね」
「先生ももう『瀬崎』なんだから、直生って呼んでください」
「あ、そっか。それなら直生ちゃんもお姉ちゃんって呼んでね」
先生が私のお姉ちゃん。うん、とっても素敵だ。
「直生、数学でわかんないとこがあったらいつでも電話しろよ」
「わかった。ありがとう」
クスクス笑いながら兄に了解の意を示す。
でも、ごめんなさい。きっと電話することはないかな。
飛び立つ飛行機を見送って、両親は私に謝りながらそのまま仕事へ向かった。
彼らは見送りに来るために仕事を抜け出して来たのだ。
先生のご両親が代わりに私を送ると言ってくれたが、今日は先約があるからと丁重にお断りした。
*
現在、私は先輩の運転するバイクの後ろに乗っている。
先輩の誕生日は5月で、バイクの免許は十六歳になってすぐに取ったらしい。
車の免許もすでに持っているそうだ。
そう、先約とは先輩のこと。
私たちはパーティーの後半のほとんどを、とりとめのない話をしながら二人で過ごした。
その中に先輩の誕生日の話題があり、その流れで免許の話になったのだ。
バイクを持っていると聞いたとき、私が思わず乗ってみたいと言ったのをきっかけに、連絡先を交換し、今日の運びとなった。
十二月の風は冷たいが、私の心はぽかぽかだった。
先輩は私を海に連れてきてくれた。バイクを停めて、砂浜を二人で歩く。
「そういえば先輩、ピアス全部外したんですね」
「……お前、怖がってただろ」
なんと。私のために外したのか。しかも全部。
「……よかったんですか?何か思い入れでもあったんじゃ……」
「別に。むしゃくしゃしてた時期に衝動的に開けただけだから」
その時期とは、おそらく兄と先生が付き合い出したときだろう。
きっと先輩は、姉を好きな自分を罰したくて、自分の体を傷つけていたのだ。
そんな先輩を否定したくなくて、私はある提案をした。
「次の先輩の誕生日に、私がピアスを贈りますね。今度からそれをつけてください」
先輩は、笑って頷いた。
「ときに、先輩。先輩はどこの大学に行くんですか?」
絵美も言っていたが、先輩はこんな不真面目な格好で問題児とされながらも、成績は学年でも上位だ。
もう推薦ももらっているらしい。
何でも、彼の成績ならいい大学に行けるのに、とずっと嘆いていた学年主任の先生が、ついに先輩に泣き落としを仕掛けたらしい。
その凄絶な泣き顔に負けた先輩は、そのときだけピアスを外して髪の色も戻し、ちゃんと試験と面接を受けたのだとか。
そしてしっかり受かったという。
以前、東条先生からその話を聞いたときは耳を疑ったが、そういうところはちゃっかりしていると先生は笑っていた。
「……大学の法学部」
「え!? 超頭いい!!!」
先輩が告げた大学は、ここ近辺ではもちろん、全国的にも上位に入るくらいレベルの高いところだった。
――駄目だ! 私とは頭の出来が違いすぎる!!!
項垂れて肩を落とす私に、先輩は訝しげな顔を向ける。
「……何?」
「……いえ、私も先輩と同じ大学に行けたらいいなぁと思いまして……」
私の夢は教師になることだ。なので学部だけは決まっている。
逆に言えば、学部しか決まっていない。
なら、大学は先輩と一緒でもいいんじゃないかと思ったのだ。
どうやら、思っただけになりそうだが……。
遠い目で海を見つめる私を見て、何を思ったのか先輩はニヤリと笑い、私の顎を指で掬うと自分の方へ向けた。
「何? そんなに俺と離れたくないの?」
その行動に、その顔に、その言葉に、私は頭が沸騰した。
顔を真っ赤にして絶句する私を見た先輩は、思いっきり吹き出すと、お腹を抱えて笑い出した。
その様子を見てからかわれたことに気付いた私は、今度は怒りで顔が真っ赤になった。
先輩に近寄り、頬を両手で挟んで顔をこちらに向けて、感情に任せて声を出す。
「先輩が傍にいるって言ったんでしょ! 言葉には責任を持って!」
あのとき、先輩のこの言葉に私は救われた。
この人が傍にいるなら自分は大丈夫だと思えたのだ。
「……勉強、教えてやるから、死ぬ気で受かれよ」
優しく微笑む先輩に、私の心はまた温かくなる。
この想いが、恋なのかはまだわからない。
もしかしたら、これも依存なのかもしれない。
それでも確かに、これは私の心を癒し、温めてくれるものなのだ。
私はこの想いを、ゆっくり育てていきたいと強く思った。
この人の、傍で――。
冷たい風が吹く冬の海の浜辺を後にし、私たちは手を繋いでゆっくりと歩き出した。
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「そういえば、先輩は私がいない日も図書室に来てたんですか?」
「……行ってねぇ」
「……なんで?」
「…………」
「……どうして、私だったんですか?」
「…………ちょこまか動く姿が、か………………面白くて」
「いま、『か』って言いましたよね? 『か』って。続きは何ですか?」
「……………………ぜってぇ言わねぇ……」
「……………………けち」
いろいろそっちのけで、思い付いたものを勢いのまま書いてしまいました。。。
おかしい部分は目を瞑っていただければ幸いです。。。
それでは、最後までお読みくださり、ありがとうございました!




