17.
先輩と一緒にパーティー会場に戻る。
会場内はある程度落ち着いたようで、穏やかな歓談がそこかしこで繰り広げられていた。
私は隣にいる先輩を見上げた。
先輩はすぐに気付いてくれ、目を合わせてくれた。
そっと手を伸ばすと、力強く握ってくれる。
その温かさに勇気をもらい、私は震える脚に力を入れた。
そして、先輩の手をゆっくりと解き、静かに歩き出した。
兄に向かって――。
「将生くん」
兄は先生と分かれ、ひとりで友人の輪の中にいた。
私が声をかけると一言断り、私の方へ来てくれた。
「直生、どこに行ってたんだ? 姿が見えないから心配したよ」
少し困ったような表情で、「来てくれてよかった」と笑った。
最近の私の態度から、もしかしたら来ないかもしれないと思ったのだろう。
「うん、ごめんね。ちょっと人混みに酔っちゃって、外に出て休んでたの」
少しだけ嘘を混ぜて話す。
本当のことは言えないのだから仕方がない。
体調を気にする兄に大丈夫だと告げると、彼はホッとした表情になった。
そんな彼に、私は満面の笑顔を向ける。
周りの喧騒が遠くなる。
聞こえるのは、自分の息遣いと心臓の音だけ――。
「……将生くん、ずっと、ずっと、好きでした」
『直生と将生、どちらも"生"の字がつくんだね。まるで本当の兄妹みたいだ』
『こんな可愛い妹ができて、本当に幸せ』
『直生のご飯、本当に美味しい。直生のお兄さんになれて、俺、幸せ者だわぁ』
私の表情から、意味を正確に読み取ったのだろう。
兄は、将生くんは一瞬だけ顔を強張らせた。
しかし、すぐに泣きそうな顔になり、小さく小さく呟いた。
――……知ってたよ……。
私は、将生くんが私の想いに気付いていることを知っていた。
そして、彼がそれを否定することなく、あるがままに受け止めてくれていたことにも。
決して、同じ想いを返してはくれなかったけれど。
それに甘え続けたのは、私だ。
この関係を壊したくなくて。ずっと、このぬるま湯に浸かっていたくて。
告白することも、諦めることもないまま、ずっとこのまま――。
「……私を、否定しないでいてくれて、ありがとう。いままで、傍にいてくれて、ありがとう。……ずっと、ずっと、大好きだよ。結婚、おめでとう…………お兄ちゃん」
やっと言えた祝福の言葉。
そして、『お兄ちゃん』という呼び方。
きっと、私も依存だったのだ。
それでも、先輩も私も、真剣に、好きだった。
自分の『きょうだい』が、真剣に好きだったのだ。
――世界中のすべての人が否定しても、私たちだけはこの想いを肯定しよう。
その言葉を以て、私は自分の恋心に別れを告げたのだった――。




