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この想いは  作者: 細波
14/18

14.

先輩にまた会えたら、言いたかったことがある。


でも、実際に顔を見ると、言っていいのかわからなくなった――。






「……どうして来たんですか? 避けてましたよね……」


そう、先輩は先生を、図書室を、私を避けていたはずだ。

あの日から、先輩は私と先生のテリトリーに入ろうとしなかった。

おそらく、先生の結婚相手が私の兄だったからだろう。

私を見ると、兄を思い出してしまうから。

十二月に入って三年生は自由登校になったので、正直もう会うことはないだろうと思っていた。




兄と先生の結婚式に、きっと彼は来ないから――。




先輩はばつが悪そうに顔をそらしたが、何かを言うことはなかった。






そのとき、一瞬見せた瞳の揺らぎが、まるで迷子の子どものようで――。









「……先輩。先生に言わないんですか?」









私は、ずっと言いたかったことを、口にした。









*


先輩は、はっとした表情で私を見た。

その瞳には、驚愕と困惑と不安が読み取れる。


「……なに……言って……」

「好きなんですよね?先生のこと」


先輩の動揺を置き去りに、私ははっきりと踏み込んだ。

これでもう、後戻りは出来ない。


「……その席から、武道場の鏡に映る東条先生が見えました。先輩……そこから……見ていたんでしょう?」


――……東条先生のことを…………。


先輩は黙っていたが、やがて観念したのか、苛立たしげに呟いた。


「お前には関係ない」

「ええ、関係ありませんよ」

「っ! だったら黙ってろ!!!」

「関係ありませんが!!!」


先輩の怒鳴り声に被せるように、私も大声をだした。


「……見ちゃったんです。先輩の、先生に対する気持ちを……。見ちゃったんです! 先輩の苦しそうな顔を! 見ちゃったら!!!」


涙が、頬を伝った。


「……見ちゃったら…………私には……それを見なかったことにはできませんでした」




怖い見た目と違って、本当は優しい先輩は、先生のことが本当に大好きで。

女性として、本当に大好きで。

でも、この気持ちは先生を困らせるだろうから、言えなくて。

先生だけじゃなく、家族にも迷惑がかかるから、絶対に言えなくて。

でも、好きで好きで、苦しくて……。






「……先輩が、そういう格好をし始めたの、先生と兄が付き合いだしてからなんでしょ? いままでの彼氏と違って、兄との関係は先生の中で特別だった。それに気付いたから……」


以前の先輩は、ごく普通の真面目な生徒だったらしい。

口数は少ないが友人もいて、先生の覚えも良かったそうだ。

それが二年生の終わり頃になって急に髪を染め、授業をサボるようになった。

たまにケンカもしているらしい。ほとんどは相手から吹っ掛けられているそうだけど。

それもあって、学校では問題児として扱われている。


先輩は、疲れてしまったのだろう。

先生への気持ちに。

家族への気持ちに。

周りへの気持ちに。




そして、自分の気持ちに――。






無言で涙を流す私の耳に、小さな声が届いた。


「………………気持ち悪く、ないか? 実の姉を、本気で好きになるようなヤツ……」


怯えを含むその声は、震えていて。

さっきの迷子の子どものような瞳を思い起こさせた。


「気持ち悪くないです。少なくとも、私は」


他の人なんか知らない。私は私の言葉を伝える。


「私は先輩のすべてを知っているわけではありませんが、私の中の先輩は、とても優しくて素敵な人です。その先輩の誰かを好きだと思う気持ちが、気持ち悪いものであるはずはありません」


そう、先輩は素敵な人なんだ。私と違って。

だからこそ、前を向いてほしいと思う。

一歩を踏み出してほしいと思う。




そしたら、きっと、私も――。








先輩は、手で顔を覆い、声を震わせながら、泣いた――。




これが、もしかしたらR指定になるのかな……と、恐怖に駆られたので、念のため……(゜д゜)

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