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この想いは  作者: 細波
13/18

13.

兄と先生のウェディングパーティーまで、あと一週間を切った。

パーティーは十二月二十三日。

なぜこの日になったのかというと、兄の転勤が少しだけ早まったのだ。

そのため、年末に予定していたパーティーも、知り合いのレストランのオーナーのご厚意で早めてもらったそうだ。

兄たちはパーティーの数日後に転勤先の近くに借りたアパートへ引っ越す。

ちなみに、婚姻届はパーティーの当日に出しに行く予定らしい。


先生は予定通り、九月いっぱいでこの学校を去った。

皆からの手紙と花束をもらったとき、先生は涙を流した。

たくさん感謝の言葉を口にし、私たち図書委員にひとりずつ言葉を送ってくれた。

そして、最後は笑顔でこの図書室を去っていった。


そのとき、こっそり先生に晃先輩のことを聞いてみた。


『一応、学校には来ているみたいよ。寝てるかサボるかしてるみたいだけど。ただ、私も最近は晃とほとんど話せていなくて……』


逃げるのよ、あの子、と先生は小さくため息をついた。

どうやら、先輩は先生のことも避けているみたいだった。




学年が違うと廊下でもすれ違わない。

そして、私は先輩のクラスを知らない。

先生にも尋ねたりはしなかった。

私と先輩の関係は、あの図書室の中にしかないのだ。


先生が退職する前の当番ではない日に、私は図書室に来た。

勉強するためにひとつの机を陣取る。

教科書とノートを広げ、数学の復習をする。


一時間ほど集中し、ふっと息を吐く。顔を上げて窓の外を見ると、武道場が見えた。

体育館より一回り小さい武道場は二階建てで、一階を剣道部が、二階を柔道部が使用している。

この図書室は二階にあり、ここからは物置きに使用している小部屋が見えた。

中には何かの棒やら垂れ幕っぽいのやら、全身が映りそうな大きな鏡なんてのも見える。

それらを何となく眺め、また視線をノートに移した。




意識の端に、光が走った。

気になって顔を上げると、武道場の小部屋の鏡に何かが映っている。

よく目を凝らしてみると、それは人だった。




――……東条、先生…………。




角度のせいだろう。小部屋の鏡には、隣の準備室にいる東条先生の後ろ姿が、映っては消え、映っては消える。

光ったのは、先生の髪を留めているヘアクリップだったのだ。




――……そっか。だから先輩は…………。




……涙が、こぼれそうになった。









*


冬休み前の最後の当番の日は、たまたま終業式だった。

新しい司書の吾妻さんは四十代の女の人で、高校生の息子さんがひとりいる。

その息子さんが全寮制の高校に進学したため思いっきり働けるようになったとき、タイミングよくここの求人を見つけたそうだ。

おっとりしていると見せかけて結構しっかり者の吾妻さんのギャップに、私たちは早々にやられ、速攻で懐いた。


今日は午後三時まで。まだ日は沈んでいないはずなのに、どんより雲のせいで外はとても暗い。

予報では雨が降るかもしれないとのことだ。


午後二時になってすぐ、吾妻さんが顔を出した。

なんでも、冬休みで明日から戻ってくる息子さんが高熱をだし、早めに迎えに来てほしいと学校から連絡があったそうだ。

自分は早退するから、鍵を頼む、何かあれば教頭に伝えるようにと告げ、吾妻さんは慌ただしく出ていった。

その後、教頭が顔を出してくれたが、あと一時間もないのでひとりで大丈夫だと伝えると、戸締まりだけ気を付けるように言って去っていった。


今日は貸出の人が多かった。

理由としては先日急きょ発表された読書感想文という名の冬休みの宿題のせいだろう。

基本、読書感想文は夏休みにしか出されない。

しかし、前回の夏休みの読書感想文の出来があまりにもひどかったらしく、嘆いた現国の先生が冬休みにも宿題として提出させることにしたのだ。

おかげで今日は駆け込み利用者がとても多かった。

ファイルを見ると、どうやらここ数日はこんな感じだったらしい。


私は、パソコンが苦手だ。なので打つのにも時間がかかる。

下校のチャイムはとうに鳴り、様子を見に来た教頭に理由を説明して居残り許可をもらった。

そして黙々と打ち続ける。


「……っ、終わった~」


何度も確認し保存も終わると、思わずそう口に出していた。

椅子に座りながら思いっきり伸びをする。

目が疲れた。肩も凝った。腰が痛い。典型的なオフィスワークにおける症状だ。

事務職には向いてないなと考えながら、窓の鍵を確認するためカウンターを離れる。






見覚えのある、髪色があった。








先輩は、いつものように腕で顔を隠しながら、机の上に伏せていた。

腕は制服の布地で隠されており、そのことが何だか不思議だった。




「…………晃、先輩……?」




小さく小さく、問いかける。

聞こえるか聞こえないかの声を、先輩はしっかりと受け取ってくれた。


無言で顔を上げる先輩。

その茶色い瞳が、呆然とする私の瞳をしっかりと捕らえた。



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