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この想いは  作者: 細波
11/18

11.

「へぇ、灯さんは直生の学校の司書さんなんですね」

「はい。図書委員の直生さんにはいつも助けていただいてます」


父と先生が和やかに会話をしている。

兄や母も、向こうのご両親と楽しそうに会話をしている。

その中で、私と晃先輩だけがまるでお通夜のように暗いオーラを醸し出し、黙々と目の前の食事を消化している。


――まさか、将生くんのお相手が東条先生だったなんて……。


あまりの衝撃に、私の思考と感情は停止していた。

おそらく、先輩も同じだろう。

お互い、まるで誰もそこにいないかのように相手を無視して食事を続けている。


「直生さんを驚かせたくて、将生さんにも頼んでずっと内緒にしてもらっていたんです。驚いてくれたみたいで嬉しいわ」

「もう、いつ口を滑らせちゃうかとドキドキしたよ」


先生と兄がそんなことを言っていた。

えぇ、とても驚きましたとも。


「晃と直生さんも知り合いなんですよ。ね、瀬崎さん」


先生がいつもの調子で私に話しかけてきた。

私は慌てて口の中のものを飲み込むと、返事をした。


「あ、はい。夏休み前に偶然お会いしてからなので、まだ日にちは浅いですが」


差し障りない内容を答え、先輩をチラッと見る。

先輩はこちらを一瞥もせず、いまだに無言を貫いている。


「こいつ、こんな見た目だから直生さんもびっくりしたでしょう?」


先生のお父さんがそう声をかけてきた。

先生と先生のお母さんは苦笑いしている。

家族のそんな様子に、先輩はぶすっとした顔をしていた。


――せっかく素敵なスーツを着ているのに、そんな顔をしてたら台無しだよ、先輩。


何だか笑いが込み上げてきた私は、やっと肩の力を抜くことができた。


「確かに、最初は先輩のピアスの数に驚きましたけど、不思議と怖くはありませんでしたよ。実際に何度かお話をしてみて、とても素敵な人だと思っています」


先輩の耳が真っ赤になった。

あれ? この人、もしかして褒められなれてない? いや、この顔だよ? 褒められまくってなんぼでしょ。

不思議に思いながらも、私は運ばれてきたデザートに心を奪われ、先輩をそっちのけに舌鼓を打った。


ここのホテルのレストランでは、ときどきデザートビュッフェが開催される。

旬の果物や高級チョコレートなどをふんだんに使ったデザートは見た目も華やかで、それはそれはお口の中がパラダイス、ついでに脳内もパラダイスになるほどの美味しさらしい、というのは絵美の談。

ホテルだけあって学生にはちょっと高めの金額設定なので、私は一度も来たことがない。

絵美も確か社会人の従姉のお供でおごりだったって言っていたはず。

こんな機会、そうそうないからじっくり味わおう。

あ、追加注文してもいいのかな?



くだらないことをつらつらと考えて、頭の中を自分の思考だけで埋めていく。




早くこの場が解散になることを切に祈りながら――。








*


顔合わせは恙無く終わった。

私は大人たちの話を聞かないようにしていた。

話を振られればにこやかに応えたけど、それ以外は無言を貫いた。

笑顔もなかったと思う。

先生や向こうのご両親には、この結婚に賛成していないように見えたかもしれない。

こんな態度はいけないとわかっているが、どうしても心が追いつかないのだ。


私はブラコンだ。

中学生になってできた兄は、それはそれは私を大切な妹として扱ってくれた。

大人の自分に対し私が怖がらないように、とても優しく、慎重に、私の様子や反応を伺いながら近付いてきてくれた。

おかげで私も思っていたより早く兄に慣れ、懐いた。


『直生、友達から映画のチケットもらったんだ。一緒に行かない?』


『今日のご飯、美味しいね! また作ってね』


『大丈夫、直生ならちゃんと絵美ちゃんと仲直りできるよ。なんてったって、俺の自慢の妹だからね!』


両親が忙しくあまり頼れないなか、思春期真っ只中の女の子相手に、兄は本当に頑張ってくれたと思う。

普通なら、放り出してもおかしくないはずだ。

しかし、それをよしとせず、正面から受け止め、受け入れてくれた兄。

私は、祝福するべきなのだろう。






「直生、今日はありがとう。慣れない場所で疲れたろ? それと、灯さんのこと、黙っていてごめんな」


気遣い、謝ってくれる兄に曖昧な笑みを返し、着替えるからと自分の部屋へ戻る。

最近の私は、兄に対しずっとこのような態度だった。


――将生くんと、東条先生が、結婚…………。


出会いは偶然だったらしい。

入社して三か月ほど経ったある朝。会社に向かう兄は社員証を落としてしまった。

会社に着いてからそれに気付いた兄は慌てて来た道を戻り、その途中でたまたま社員証を拾った東条先生と会った。

先生は社員証に書かれた会社へ届けるつもりだったらしい。

きっと困っているだろうからと。


その場はお礼を述べて別れたが、その日の帰り道、これまた偶然に仕事帰りの先生と会う。

これは運命だと感じた兄は、朝のお礼がしたいと先生を食事に誘い、あまりの必死さに絆された先生がその誘いを快諾。

そして連絡先を交換。後は推して知るべし。


――……少女漫画か……。


本当に運命なら、素敵なことだと思う。

それに、先生となら、兄は幸せになれるだろう。

私は深く息を吸い込み、目を閉じてゆっくり息を吐いた。









……まだ、心の整理は、ついていない――。



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