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この想いは  作者: 細波
10/18

10.

お昼を食べ終わり、本の続きを読み始める。先輩はすでに、お休みモードだ。

静かにカウンターの椅子を端までずらし、そっと先輩を覗き見る。

明るい髪の毛は日に当たって金髪に見える。

まるでさっきの卵焼きみたい。思わず頬が緩んだ。

そして、先日の先輩の表情を思い出す。




――おそらく、先輩は……。




そこで私は考えるのをやめる。

まだ出会って三回目だ。そこまで踏み込んでいい相手ではない。

きっと先輩も他人にあれこれ言われるのは嫌だろう。

これは彼自身の問題なのだ。

そっと先輩から視線を外し、私は本に集中した。






時間になり、いつも通り閉室作業をする。

先輩も起きたみたいで、じっと私の動きを目で追っていた。

先輩の視線を感じながら、なるべく気にしないように作業を続ける。

あとは鍵をかけるだけになると、先輩も立ち上がった。

彼はいつも手ぶらだ。何しにここに来ているのだろうかと考えて、頭を振った。

考えてはいけない。


「先輩、鍵閉めますよ」


声をかけ、先輩がゆっくり出てくると扉を閉め鍵をかけた。

今日は東条先生がお休みなので、職員室には私が鍵を返しに行かなければならない。


「それでは、先輩。今日も素敵な昼寝っぷりでした」


そう言うと、先輩は少し不機嫌そうな顔になった。

からかわれるのは嫌いらしい。そんな姿が子どもっぽくて、私は思わず笑ってしまった。

やっぱり先輩は、怖い見た目と違って可愛らしいお人だ。

会釈をして、職員室へ向かうため踵を返す。

そんな私の背中に、小さく声が聞こえた。

思わず振りかえると、そこには先輩の後ろ姿があった。

彼は逆方向に歩いて行く。


――……またな。


ささやくような声が耳に届いたのは、奇跡だと思う。

嬉しくなった私は、先輩の背中に向けて、元気よく声をかけた。


「先輩、またね!」


彼は後ろ向きで手を振ってくれた。






*


本日は晴天なり。絶好の顔合わせ日和。

場所は駅前のちょっと高めのホテルのレストラン。

兄はスーツをバシッと決めている。もちろん、父も母もスーツだ。

私はというと、少し大人っぽい雰囲気のワンピースを着ている。

制服でいいかと思っていたのだが、どうせなら可愛くしようと母が言い出し、昨日急きょ買い物に連れ出された。

母の着せ替え人形と化した私は、言われるがままこのワンピースに決め、本日着用している。

まあ、何だかんだと気に入っているんだけどね。


「あ、もう来てる」


兄が示す方向には、こちらに背を向けて並んで座る四人の姿が見えた。

そのうちの右端に座る人に、私の目は釘付けになった。




――……いやいや、まさか……ね……。




心臓が嫌な音をたてる。

あんな髪色の人なんて、世の中いっぱいいるってば。

そう言い聞かせても、背中に流れる嫌な汗は止まらない。

違うことを祈りながら、私たちは相手のご家族の前に立った。

咄嗟に視線をテーブルに移す。


「遅くなってすみません。本日はお越しいただき、誠にありがとうございます。瀬崎将生と申します」


兄が頭を下げるのに倣い、私たちも頭を下げる。

そのまま下げたままでいたいが、そうも言っていられない。

隣の母が頭を上げた気配を察知し、目線を下げたまま私も頭を上げた。


「父の和俊と母の恵子、それと妹の直生です」


兄が私たちを紹介する。父が「よろしくお願いします」と言った。

私と母はもう一度お辞儀をする。


そのとき、私がよく知る声が耳を打った。


「こちらこそ、お越しいただき、ありがとうございます。東条灯です」


私は思わず目線を上げた。

そこには、悪戯が成功したような顔をしてこちらを見つめる、東条先生の姿があった。




そして、私は無意識に目線を左に移す。






その先には、目を大きく開いて驚きの表情を浮かべる、晃先輩がいた――。



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