表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

彼女と委員長

 楓の森高校は私立の進学校で、入学時点で文理が分かれている。

 私たちのクラスは文系で、圧倒的に女子が多く、ともすれば女子高のような雰囲気なのかもしれない。男子は肩身が狭そうというか、隅でかたまっている。

 学年のもう半分の理系クラスは逆に男子が多いので、全体で見れば男女の割合は半々くらいだと思う。教室は別の棟にあるので、交流はあまりない。


 そんなかしましい教室で、今日もいつもと同じような光景が繰り広げられていた。



 休み時間に私の前の席に勝手に座って語りだしたアンリの、よく分からない妄想話を、机にうつ伏せて寝たフリをして聞き流していたところだった。


「あ、あ、安藤さん! アナタの言っていた写真、持ってきてあげたわよ!」

「やあ委員長。…? 写真?」


 ダメだコイツ、たぶん自分で言って忘れてるパターンだ。


「べ、別にアナタのために撮ってきたとかじゃなくて、たまたま、そう、たまたま見つかったから……」


 実に分かりやすいツンデレだ。驚くべきことに、委員長はアンリに好意を抱いているらしいのである。

 きちっとしたポニーテールに、授業中にだけかけるメガネがよく似合っている。


「何だっけ?」


 やっぱり忘れている。かわいそうな委員長。本当はアンリに言われてわざわざ撮ってきたんだろうに。


「! だから! お尻の写真!」


 ザワッ……。


 瞬間、教室内の空気がどよめいた。

 さすがに机から顔を少しだけ上げて二人の様子をうかがう。何を要求してんだ、コイツは……。


「えー、お尻? 確かに委員長のお尻はイイ形してて触り心地よさそうだけどー、写真なんて頼んだっけ?」

「! ! ち、違っ、犬のお尻の写真! です!!」


 委員長は真っ赤な顔で叫んだ。


 あー、なるほど。たしか委員長は愛犬家だったはずだ。

 アンリが前に言っていた、犬のお尻の話をして失った友人って、委員長のことだったんだな……。


「うちのメトロポリタンちゃんを撮った写真ですっ! い、いま、私の、お、お尻が触り心地よさそうとかなんとか……?

 別に触るくらいならいつでも……って何を言っているの私は!」

 

 本当に何を言っているんだ委員長。落ち着け。

 ていうか委員長、犬に「メトロポリタン」なんて名前つけてんの?


 ちなみに「委員長」とはあだ名であり、それっぽいというだけで、実際に何かの委員長というわけではない。

 本当のクラス委員長の役割をする人はちゃんと別にいるが、そっちは「カンカン」という愛称で呼ばれているので今のところ支障はない。


 気の抜けた声とともに、次の教科担当の先生が教室に入ってきた。


「おーい、もうすぐ休み時間終わるぞー。なるべく早く席に着けよー」


 白髪がメッシュのような銀縁メガネのおじさんは、このクラスの担任でもある。

 「なるべく早く」が口癖なので、生徒からは「なるはや先生」とか「なるセン」とか呼ばれている。

 ただ、アンリだけは「アサップ先生」と呼んでいる。言わずもがな、「As Soon As Possible」の略だ。イタイ。


 アンリは席に戻る前に、委員長の手から写真をサッと奪っていった。


「写真ありがとね、委員長! 大好き~」

「!!!」


 アンリのウインクが鮮やかにキマった。何でコイツこういうの抜群に上手いんだろう、むかつくな。

 ああほら、委員長まともにくらって耳まで真っ赤になってる……。

 それにしても、毎回こうやってごまかされる委員長もチョロすぎるだろう。いいのかそれで?


 何か。面白くないな。


 よし、今日の帰りはアンリと101(ワンオーワン)アイス寄っていこう、と私は決めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ