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彼女と私

 空は明るく、雲の流れは速い。

 駅前の一際高いビルの屋上に、二つの人影が降り立った。


 少年と、ハゲたおじさん。


……いや、おじさんの頭の上には可愛らしい豆柴が乗っているから、ハゲていると断言はできない。


 少年は、胸元で手をギュッと握りしめ、犬を見上げた。おとなしい。頭に乗せられて、まんざらでもなさそうな顔をしている。

 視線に気づいたおじさんが、


「逆のが良いか?」


 と、犬を後ろ向きに乗せ直した。

 犬の丸まった尻尾がちょうど前髪のようになり、その両脇から後ろ足が垂れ下がっている。


「…………」


 少年は眉間の皺を深くし、ツバをゴクリと飲み込んだ。


「さて、そろそろ行くぞ。この近くにいるはずだ」

「はい……」


 二人は長いマントを翻し、ビルから飛び去った。



---



 私はごく普通のOL。オフィスカジュアルを着こなし、髪の毛先は軽く巻いちゃってるしメイクはゆるふわ愛され系。

 どこにでもいる、ホントーにフツーの女だ。


 でも、この状況はどう考えてもフツーじゃない!


 仕事帰りに、今日はどこ寄ってこっかなー、なんて考えてたら、いきなり空から変なカッコした二人組が降ってきた!


「突然すまない。驚かせてしまったようだが、決して怪しい者じゃない。なあ、息子よ」

「そうだね、おじさ……お父さん」

「何その設定臭!?」


 それにしても、さっきからワンちゃんのカワイイお尻が気になって話に集中できない。あぁっ、もっふもふ! 触らせて~! ……じゃなくって、何だって?


「我々はとある機関からやって来た。君も仲間だ。共に戦ってほしい」


 えぇーっ! 私、これからどうなっちゃうのー!?




◆◆◆




「どうかな?」

「意味が分からない」


 私は飲んでいたカップの中身をクルリとかき混ぜる。顔の表情筋が働かない。


「どしたのウサ、目が死んでるよ?」

「お前のせいだよ」


 テーブルに肘をつき組んだ両手の上に顎を乗せた彼女は、神妙な面持ちで口を開いた。


「この話のビギニングを思いついたとき、犬のお尻見ると興奮するよね?って同意を得ようとして、友人を一人失っているんだよ。その時私は身をもって知った……何かを生み出すには、それ相応の犠牲を払わなければいけないということを……」

「あ、すいませーん、カフェオレおかわりお願いします」


 ちょっと何言ってるのか分からない。

 だいたい、アンリの友人なんて私くらいしかいないだろう。


 私たちは学校帰りに寄ったドーナツショップで、気だるい時をやり過ごしている。

 ちなみに話に出てきた少年やおじさんやOLは店内の客である。

 つまり冒頭の物語は、この場で語られた彼女の妄想話なのだ。


 ほんっとイタイ。イタイくせにムダに明るく外向的。それが彼女だ。

 と言っても人の話を聞かないから、コミュニケーション能力が高いというわけではないが。



---



 翌朝。学校の校門前でちょうど彼女に出くわした。


「おはよ、アンリ」

「グッモーニン、ウサ! 何て気持ちのいい朝なんだろう! 今日も素敵な一日になりそうだね!」


 うざい。


 彼女はハンドルがオレンジ色のキックボード(おそらく子供用だろう)で通学している。

 いつも思うのだけど、先生たちに怒られないんだろうか。

 まあ、一見快活そうな彼女には似合っているけど。

 

 キックボードを駐輪場にとめに行くのに付き合う。

 そういえば鍵どうやってかけてんだ? と疑問に思ったので、この機会にいろいろ観察してみることにした。


 よく見れば、車体には駐輪を認める学校指定のシールが貼ってある。ちゃんと許可とってんだ……。 

 彼女は自転車に使うような鍵付きチェーンでハンドルを駐輪場の柱にうまいことくくりつけた。通常のより短いチェーンは彼女の兄の特製だそうだ。


 鍵には赤いキーホルダーが付いている。

 じっと見てみると、ラバー製の……これはアレだ、アレの形に似ている。


「それ……赤血球?」

「おっ! よく分かったね! 今このシリーズ集めてんだ~」


 ああ、アンリの好きなガチャガチャか。


「白血球は兄貴にあげちゃったんだ……血小板ならあるよ、ウサにもあげる!」


 彼女はカバンからカプセルを取り出して寄越した。

 素直に受け取り中身を見てみる。血小板ってどんな形してんだ?


「うっわ気持ち悪っ!」


 初めて見たけど、何だこの形。ていうか何だこのフィギュア。需要あるのか?



 二人で教室に向かいながら、ふと頭に浮かんだことを聞いてみる。


「昨日の話なんだけどさあ、アレって続きあんの?」

「なーんだ、やっぱ気になるぅ? さすがは私、天性のストーリーメイカー、安藤 くもり!」


 うざい。あと何だそのポーズ。やめろ。


「あれから何やかんやあって、三人は本当の家族になって、力を合わせて敵を倒していくの。でも、実はラスボスはあの犬だったんだよ!」

「……ネタバレすんなや…………」


 彼女と話してるといつも頭が痛くなる。

 それでも一緒にいる私……ドМなのかな。

 きっと彼女の「友人」なんて私にしか務まらないのだから、しょうがない。しょうがないんだ……。

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