表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
251/253

第二百四十九話 魔法書店のおば様

おば様の喋り方はネットで調べながら書いているので多分大丈夫……大丈夫!


「まゔぇじゅぴちゅぐぷぇ」


 魔法書店で『精霊と魔法』という本を見つけ値段を聞いた瞬間、俺は奇妙な悲鳴を上げながら泡を吹いて床に倒れる。

 なんとお値段大金貨六十八枚!!

 俺の月々の仕送りは大銀貨一枚なのでとても在学中に払える額ではないし、払えるまでの期間を換算した瞬間に頭がオーバーヒートしてしまった。


「なんやこいつ。急に泡吹いて倒れて」

「値段を聞いて卒倒したんですよおば様。普通の子はそんな大金払えませんよ」


 冷ややかな目で倒れた俺を見下ろすおば様と呼ばれる八重歯の店主に、ティアーヌはいやいやと俺が倒れた理由を説明してくれる。

 それを聞いて合点がいったのか、おば様は大声を上げて謝ってくれ


「せやから泡吹いてるのか! ってことは、金払うのは無理ってことやな!? ハァー買ってくれるかもと期待して損した。しょーもな!」

「こっちの方がしょーもないわ!! ぼったくり過ぎるだろその値段!!」

「あ゛? ぼったくり? 勘違いしなや小僧。魔法本っていうのはな、書いた魔法使いが生涯のみなを研究に捧げ、自らの命を削ぎ落としてまで血を注ぎ込んだ、言わば人生の結晶や。それを何も理解してへんのにぼったくりだぁ? 魔法舐めてんのか?」


 金額に文句を言った瞬間、おば様のおちゃらけた雰囲気が消え殺気と言える敵意を剥き出しにして威圧された。

 先程までの親しみとは全く真逆の感情を向けられ背筋が凍り、彼女の口元に見える鋭い八重歯が恐怖心を駆り立てられてしまう。

 今にも取って食われそうな空気。

 それを止めにティアーヌが間に入ってくれる。


「おば様、相手は子供ですよ。その辺にしてください。貴方も失礼よ、少年君。いくら知らないとは言え、物の値段が決められているのはそれに相応しい価値があると判断されているからなのよ。それを高いと言って非難するのは、値段を決めた者にも、この魔法本を作った人物の研究に対しても、そんな価値はないと侮辱しているのと同じことなのだから」

「す、すいません……無神経でした」


 ティアーヌに発言を咎められ深く反省する。

 金額を聞いてつい反射的に高いと口走ってしまったが、確かに無神経過ぎた。

 これからは発言に気をつけよう。

 俺が謝罪するのを見ておば様も満足したのか、鼻を鳴らすと腕を組む。


「わかればいい! ま、ぶっちゃけうちもこの本に関しては高過ぎると思うとるからな! その気持ちはわからなくもない! やけど、精霊魔法について研究しとる魔法使いは少ないからな! 仕方あらへん!」

「え、精霊魔法って使い手少ないんですか?」

「魔法協会に所属してる人の一割ぐらいしかいないわ。研究工程は複雑だし、扱いは難しいし、習得までに何十年も修行しなければならないから好んで学ぼうとする人はいないのは確かね。そもそも、貴方はどこで精霊魔法を知ったの?」

「あー……えっと、以前知り合った魔女の方が使っていて、とても恐ろしい魔族に襲われた時その人に命を救ってもらったんです。それで、その人みたいに魔法を使ってみたくて『精霊魔法』を学んでみようかなって」

「そう。人助けする魔女なんて変わり者ね」

「魔法協会に所属してるやつらなんて、人助けや慈善事業とか絶対にせぇへんのがほとんどなのにな。その魔女の顔見てみたいわー」


 同じ魔法協会と呼ばれる組織に所属しているであろう二人が、同業者にそんな変わり者がいるのかと驚いている。

 でも俺の目の前にいるんだよなぁ、その変わり者の魔女……

 だけど、あくまでそれは未来のティアーヌであって現代のティアーヌではない。

 なにせ俺が知ってる変わり者のティアーヌは今から十年生きた人物だ。

 十年もあれば誰だって心境の変化や立場によって考えが変わることだってあるだろう。

 二人が気にする変わり者が誰か知っているだけに内心ニヤニヤし、顔に出ないよう表情筋を強張らせ我慢していると、


「まぁ、少年はその魔女に憧れて精霊魔法を学ぼなとしたってことなんやな? やけどなぁ、そんなら魔法本買うよりその|変わり者(魔女)に弟子入りした方が手っ取り早いで。精霊魔法ゆうんわ、魔法を扱うのに欠かさへんマナを生み出してる世界樹ユグドラシルは、ウチらの目に見えへん『精霊』っちゅー使い魔みたいなもんを使役して世界中に運ばせてるって考えが基盤になっとる」

「そう、だから精霊魔法は椅子に座る時間よりフィールドワークの時間の方が圧倒的に多いわ。ここで本を買うより、その人に直接教わった方がいいわよ。知り合いなのでしょう?」

「あ、えっと……その人には、もう、会えないんです。とても、とても遠い場所にいるので」


 俺の返答に二人は「あっ……」と不味いことを訊ねてしまったと後悔の表情を浮かべる。

 子供の俺のいう「遠い所」という単語でその人物が他界していると勘違いしたみたいだ。

 いや、大丈夫だよ現代のティアーヌさん?

 未来のあなたは別に死んだ訳じゃないよ?

 単に俺が未来に行けないからもう会えないだけで、魔王と戦って勝った後もちゃんと五体満足で生きてるからね?

 などとは口が裂けても言えないので誤解したままでいてもらおう。


「ほんなら、別の精霊魔法を使う魔法使い見つけて弟子入りするしかないやな。案外近くにおるかもしれへんで、精霊魔法使える魔女とか」


 そう言って意味深に何度もおば様はティアーヌへと視線を向けた。

 ここにおるよ、隣におるで、と目で語ってくれている。

 当然ティアーヌは自分の性質上他者と関わるのを嫌がるので明後日の方向を向いて誤魔化す。

 確かにティアーヌから教わるのが一番早いだろう。

 なにせ精霊魔法を知るきっかけになったのはこの人だし、弟子として迎えてもらえれば魔王が出現するまでに関係性を良好に保てるかもしれない。

 ──が、しかし、だ。


「それは止めておきます。実は俺、もう弟子入りするならこの人だ!って方が……心に決めた人がいるんです。だから、その人以外に弟子入りする気はないんですよ」

「すごいカッコいいこと言うとるけど、すげぇ気色悪いな」

「ちょっとおば様……!」


 確かに俺も言ってからちょっと気持ち悪いなとは思ったが、これだけは絶対に譲るつもりはない。

 弟子入りするなら影山、コレ絶対。

 だが、そうなると本格的に精霊魔法を習得するのは無理かもしれんなこれ。

 だって他に精霊魔法使える人知らないし、本に至って高すぎて買えないし。


「じゃあ……精霊魔法は諦めます。他にお薦めの本とかありませんか? 六属性魔法は使えて、動物の姿を模らせる程度には形状変化させられるんですけど……もう少し威力を上げたりしたくて」

「坊のご予算は?」


 こんぐらい、と指を立てて全財産を示す。


「ほぉ、大金貨か!?」

「いや、金貨です……」

「ハァン!? あかん、話にならへん。最低でも大金貨四枚以上持って出直してきぃや!! それがウチの店で売られとる商品の最低価格や!! 言っとくが絶対まけたりせぇへんからな!!」

「う、うす!!」


 やっぱ俺の今の予算じゃ無理かー……精霊魔法の本がクッソ高い時点で正規品の本も高いだろうとは覚悟はしていたが……


「坊、名前は?」

「え、名前ですか?」

「未来のお得意様しれへんし、名前覚えといたるわ。自分、この街の学生やろ? ちゅーことは貴族の家の出のはず。使用人ぐらいはいるやろ?」

「まぁ、いますけど……」


 もっともバルメルド家で雇ってるわけじゃなくて、学園側が雇った使用人だけども。


「ほんなら、もし金稼いでる間に欲しい本ができたら、タイトルを使用人に言伝するか手紙にして店まで寄越しや。その商品を取り寄せしといたる……前金は貰うけどな。その為に名前を教えてくれってことや」

「へぇーそんなサービスまでしてくれるんですか」

「魔法本は一度売れたら、再入荷するのに下手したら数年かかるねん。年中本作っとるわけやないさかい、買いたい時になって『うわぁあらへん!せっかく楽しみに!』なんてことになったら悲しいやんか。そうならへん為のサービスや。自分律儀そうやしな。前金だけ払って取りに来ないってことにはなさそうやし。せやから名前、教えてーな」

「クロノスです。クロノス・バルメルド」

「クロノスやな……よし、覚えたぞ。今度はたーんとお金持って来るんやで」


 魔法書店の店主であるおば様に名前を覚えてもらい、紙に走り書きでお薦めの本のタイトルと値段を記してもらったの受け取り店を出る。

 同じタイミングでティアーヌも店を出たので、俺はお礼をすることに。


「ティアーヌさん。いいお店を教えていただきありがとうございました」

「……貴方、いつのまに私の名前」

「いや、さっきからお店の人が何度も名前を呼んでいたので」

「ああ、そうだったわ……」


 意図しない形で名前を知られてしまいティアーヌが額を手で覆う。

 やっぱり俺とはあまり関わり合いを持ちたくならしい……まぁ、俺はガッツリ関わり合いを持つつもりだけどな!


「ティアーヌさんのおかげで、ちゃんとした魔法本が買えそうです」

「そう、良かったわね。もう悪い魔法使いに引っかからないようにするのよ」

「はい。ありがとうございました」


 頭を下げて礼を言うと、古びたとんがり帽子を被り隠していた表情が少しだけ見え、少しだけど彼女の口元が笑っているのが見えた──ような気がする。

 「じゃあ、頑張ってね」と言い残しティアーヌは去って行く。

 俺はもう一度頭を下げてからこの時代のティアーヌに会えたことや、良さげな魔法書店を見つけられたことを嬉しく思い、日が傾き始めたモルトローレの街が夕陽に照らされ赤々と煌く様を楽しみながら、学園の寮へと戻るのだっ


「あ、アズル!」


 すっかり忘れてた、まだアズルのやつ大通りに残したままだった!!

 何も言わずに置いてきてしまったし、さすがに迎えにいった方がいいよな……あいつ俺が呼びに行くまでずっと通行人でオカズ探してそうだし、そろそろ帰らないと。

 そうと決まれば急がねば!

 大通りから学園に帰るのには時間がかかるし、走って大通りに戻れば夕食の開始時間までには間に合うはずだ。

 早くアズルのところへ戻らねば……戻らねば……戻らね、戻ら、戻、モド、もど……?


「ここどこォォォォ!?」


 ティアーヌを追いかけるのに夢中でどこからこの通りに入ってきたのか分からない!

 どこをどう戻れば大通りに出られるんだ!?

 完全に道に迷ってしまい右往左往する俺の叫びが夕陽で紅く染まる通りに響き渡る。

 今日も世界は、まだ(・・)平和だった。

ペース早めてるので二日連続となります!次回は明日の22時からです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ