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第九話 クロノス・バルメルド

今回から第二章 養子編がスタートです。

異世界でクロノス・バルメルドとして生きる主人公のほんわか日常編です。

 俺を助けてくれた恩人、ジェイク・バルメルドの養子となり、俺はクロノス・バルメルドと名前が改められた。

 別の世界から転生した俺は身寄りがなかったので、この話は大変ありがたかったのだが、裏であの神様が色々と手を回していたらしいので素直には喜べない。

 まぁそれでも死んだ俺を転生してくれた張本人なので、今度からもう少し敬うことにする。

 俺たちが住んでいるのはアベルティ村と言う小さな村で、人口は約百人ちょっとだそうだ。

 バルメルド家は俺を含めた三人家族だ。


「おはようございます。お義父さん」

「あぁ、おはようクロノス」


 まずは俺を助け、養子として迎え入れるくれたジェイク・バルメルド。

 騎士団の団長で現バルメルド家の当主である。

 バルメルド家は代々騎士の一族で、多くの騎士がこの家で生まれたらしい。

 だがジェイク夫妻は子供を長らく授からなかった。

 なので養子として俺を迎え入れ、俺を騎士として育てるつもりなんだとか。

 温厚な性格で考え事をする時に顎髭を撫でるのが癖らしい。

 ちなみに今年四十歳になるそうだ。

 そりゃ養子を取ろうとするわな。

 一度、養子の俺が騎士となって当主となったらバルメルド家の血が途絶えるのではないかと聞いてみたことがある。

 そしたら、重要なのは血ではなくバルメルドと言う名家が存続することに意味があるのだと教えられた。

 血統とかそう言うのは関係ないらしい。

 そもそもジェイクも婿養子としてバルメルド家に受け入れられたらしく、先代にも同じように言われたんだそうだ。


「では走り込みを始める。付いて来なさい」

「わかりました」


 朝の日課である走り込みをジェイクと共にする。

 騎士になるには日々の鍛錬が大事だといつもジェイクは言っている。

 なので早朝は走り込み、次に木でできた剣を使い素振り、朝食が出来上がるまで練習稽古としてジェイクとの打ち合いをするのが朝の日課だ。

 ジェイクは騎士団の団長だけあって、人に剣を教えるのが上手い。


「違う!そこはもっと深く踏み込むんだ!」

「はい!」

「そうだ!それじゃあ今の所を意識してもう一回!」


 俺が間違えたり甘い箇所があると逐一それを指摘し、それが俺の身に染み込むまで繰り返す。

 必要とあらば自ら実演してくれる。


「いいか?ここで剣を振るう時に腰を捻りすぎてはダメだ」

「こうですか?」

「少し捻りすぎだな。捻りすぎると腰に負担となる。もっと地面に足を着けて……そうだ、できてるじゃないか!」


 ダメな所はダメ、良い所は良いとはっかり言ってくれるし褒めてくれる。

 そうするとこちらもやる気が出るので、真剣に打ち込もうと思える。

 やっぱ子供を褒めるって大事ダネ!

 朝食の支度が終わるとメイドが呼びに来たら朝の日課は終了となる。


「旦那様、お坊ちゃま、タオルでございます」


 屋敷に戻ると汗をかいた俺たちにメイドがタオルを差し出してくれる。

 ジェイクと二人で顔を拭いているとパタパタと廊下から足音が聞こえてくる。


「おはよう、あなた!」

「あぁ、おはよう」

「クロちゃんもおはよう!」

「おはようございます。お義母さん」


 この元気に挨拶してくるのがジェイクの妻で、俺の義理の母であるユリーネ・バルメルド。

 バルメルド家の血を引いている。

 年齢はジェイクと同じ四十歳なのだが、まぁ歳を取っても見た目若いしパワフルだし元気過ぎて本当に四十歳なのか疑わしい。

 こんな言動のせいか二十代にしか見えないんだよなぁ。

 悪い人ではない。

 それどころかめっちゃいい人だ。

 ただ……


「もぉ、クロちゃんたらお義母さんだなんて言わないで、ママって呼んでもいいのよ!」

「いや、それはちょっと……苦しい!苦しいですお義母さん!強く抱きしめ過ぎです!」


 ご覧の通り過剰なスキンシップをしてくる。

 俺をバルメルド家の養子として迎え入れるとわかった時から、ずっと俺にベタベタしてくるし、クロちゃんクロちゃんともうウザいくらいに絡んでくる。

 とは言え邪険にも扱えないので大人しくしておくしかない。

 じゃあなんでママって呼ばないのか?

 だってもう四十歳過ぎた人をママだなんて呼べないし、どっちかって言うとおばさ


「ん〜?クロちゃん何か失礼なこと考えてなかった〜?」

「いえ、そんなとんでもありませんお義母様!今日も美しいです!」

「あらやだぁもうクロちゃんったら〜!」


 怖ぇ……怖ぇよぉこの人。

 さすがに騎士の名家の人だけあってか、ユリーネの勘の鋭さは恐ろしい。

 一度ウザい絡みから逃げる為に屋敷の中で隠れたのだが、数分も経たず一発で見つかってしまった。

 ユリーネに対して隠れると言う行為は、自ら逃げ道を無くすのと同意義なのであまりしないようにしている。

 隠れたら隠れたで何で隠れたのかといつもの二倍以上に絡まれるのだ。


「ん〜今日も可愛いわねクロちゃんは〜!」

「あ、ありがとうございま、ず!だから苦しいです!ぐるじ……!」


 へ、ヘルプー!ファザーヘルプー!


「じゃ、じゃあ……私は先に席に着くから、二人とも早く来なさい」


 おいィィィィ!

 見捨てんじゃねェェェェ!

 助けろよ当主様ァァァァ!!

 ゴホンと咳払いして早々にジェイクはリビングへと向かってしまう。

 取り残された俺はユリーネに満足するまで抱きしめられ、頬擦りされ続ける羽目になる。

 以上がバルメルド家の両親である。

 ちなみにジェイクがこの家の当主なのだが、ジェイクはユリーネに頭が上がらないらしく、この家での発言権はユリーネの方が上だ。

 何とも見ていて哀れなピラミッドである。


 この家には俺たちの他に三人のメイドが住み込みで勤めている。

 だが俺は彼女たちの名前を知らない。

 この家では、メイドが雇い主であるジェイクに話しかけることは滅多にない。

 来客があっただの、ご飯ができただの、風呂が沸いただのと言った業務報告でしか言葉を交わしていないのだ。

 でも母のユリーネとは仲が良いのか、よく談話室でユリーネとメイドたちが楽しくお喋りしているのを見かける。

 やはり女同士だと話が弾むのか、それともユリーネの性格なのかわからないが、家で働いている時よりも楽しそうな顔をしている。

 なお、メイドさんたちの俺に対する接し方はジェイクと同じだ。

 朝の挨拶と夜の挨拶ぐらいでしか言葉を交わさず、旦那様が呼んでおります、奥様が探しておりますだのと言った話ししかしない。

 最初は家にメイドさんがいるとわかって、夢にまで見たメイドさんとのキャッキャッウフフができるぞぐへへへへ──とかいかがわしいことを考えていたんだが、皆さんガードが堅くて俺のことを警戒して全然近づこうともしない。

 これではスカート捲りもできないではないか!

 と言う訳でジェイクお義父さんに、メイドさんともっとお話ししたい!と直談判したら、


「この家ではメイドは『見ざる聞かざる言わざる』が鉄則だ。諦めなさい」


 と窘められた。

 それを聞いて日光の猿かよと思ったが、ユリーネは普通に見ろ!聞け!話せ!と言った感じで接してるので、


「お義母さんは普通にお話ししてますが?」


 と言った所、「いや……お母さんはいいんだよ……お母さんだからいいんだよ」と何だかよく分からない理論を展開されてしまった。

 結局、俺のメイドさんとムフフな日常は実現できないらしい。

 とほほ……


 それでも俺がメイドさんと話ができる機会が一つだけあった。

 それは勉強の時間である。

 朝の稽古が終わり朝食の後、俺には午後は自由な時間が与えられている。

 稽古するもよし、母ユリーネにおもちゃにされるもよし、外に逃げるもよしなのだ。

 なので午後は基本的に勉強する為に使っていた。

 この屋敷には書庫があるので、そこから本を持ってきてリビングで読むようにしている。

 当然この世界の文字なんて分からないので、まずは文字からの勉強だ。

 本を広げて見たこともない文字と睨めっこしていると、掃除をしているメイドの一人が読み方を教えてくる。

 それに対して「ありがとうございます」とお礼を言うと、たまにメイドたちが仕事の合間に俺の所までやってきて読み方や意味を教えてくれるようになった。

 それでも日常的な会話を交わすことはないのだが、この時間だけがメイドさんたちとのやり取りができる唯一の時間だった。


 当主であり父のジェイク・バルメルド、母のユリーネ・バルメルド、そして俺クロノス・バルメルド。最後に使用人のメイドが三名。

 バルメルド家は以上となる。

 なお、メイドさんたちの名前はその後も教えてもらえなかった。


 ついでに、俺をこの世界に転生させたあの神様がバルメルド家に信仰されていた訳だが、神様の名前は『ギルニウス』と言うらしい。

 この世界では昔から有名な神様で、この世界に住む人間の殆どが信仰しているそうだ。

 世界と人を創造した神様と呼ばれ、王都にはギルニウス教信仰会本部まであるのだとか。

 まぁ、本人を知っていると、ギルニウス様とか呼び直すのも何か抵抗あるので、俺はこれからも『神様』と呼ばせてもらおう。

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