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第八話 二度目


 ゆっくりと目を開くと、青い空に流れる白い雲、そして見渡す限りの平原に俺は立っていた。

 この場所には見覚えがある。

 前回の時と同じで、白い装束に身を包んで爽やかな顔をした男が目の前にいる。

 前と違うのは、俺が光の球じゃなくて体があるってことだ。


「やぁ、無事生き残れたね。おめでとう」


 笑顔で祝福してくれる神様に俺も笑顔を浮かべ、


「遺憾の意!」

「あっぶな!」


 殴りかかった。

 しかしギリギリのとこで避けられてしまう。

 チッ!いいコースだったのに!


「君いきなり神様に殴りかかるとかどういう神経してるんだい!?罰当たりもいいところだよ!?」

「人のこと見捨てておいて罰当たりとかよく言えたもんだな!?えぇ?ゴラァ!」


 今度は蹴りを繰り出す。

 それも軽々も避けられてしまうので、今度は頭突きを、それがダメなら飛び蹴りと思いつく限りの攻撃をしてみるがその全てを避けられてしまった。

 くそっ!ひょろっちい体してるくせに何で全部避けられるんだ!

 そういや今俺の体は小さいし、こいつ人の心読めるんだったか。

 そりゃ簡単に避けられるか。


「悪かったって!あの時力になれなかったのは本当に申し訳ないって思ってるから!」

「ハッ!どうだか……」

「身体を貸してくれてたネズミに、これ以上付き合えないって追い出されちゃったんだよ。他の子たちも魔物に食べられるのはごめんだって断られちゃうし」


 まぁ確かに、あんなのに喰われるのはどんな生き物だって嫌だろうな。


「けっ、肝心なとこで役に立たないな」

「むしろ自分から魔物のいる所に赴いた君が原因なんだけどね」

「うっせぇ」


 あれば自分でも運がなかったと思う。

 あの白い鎧を着た人が来てくれなければ、確実に俺は死んでいただろう。

 そういや、あの人は何者だったんだろう?

 雰囲気や話し方からして敵って訳ではなさそうだったけど。


「あれは騎士団の人間だよ」

「人の心読んでサラッと答えるな。で、その騎士団って何?」

「騎士団はあの世界で治安維持を目的に結成された組織さ。前世の君の世界で言う警察みたいなもんだよ」

「なるほど?さしずめ、誘拐された子供たちを助ける為に来てたってところか」

「そうだよ。あの時出口に向かって走ってれば、騎士団と盗賊団は鉢合わせ。そのまま全員逮捕で魔物と戦うことなく無事解決だったんだけどね。どっかの誰かさんが人の話を聞かないから……」

「なら分かりやすく説明してくれ。つか、その口ぶりだと最初からそうなるのが分かっていたみたいな言い方だな。もしかしてお前、未来が視えるのか?」


 まさか、と神様は首を振り俺の質問に答える。

 そうか、てっきり神様だから未来が視えるとかそんな力を持ってるかと思ったんだが……


「まぁ神様も万能じゃないってことさ」


 だから人の心を読んで返事すんな。

 それと神としてその発言はどうなのよ。


「それで、あの後どうなったんだ?」

「それについては僕からじゃなく、本人に直接聞くといい。今回僕は力になれなかったことについての謝罪と、今後についての話に来たんだ」

「今後について?」


 もしかして、この後の生活に関してアドバイスとかくれるのだろうか。

 神様に人生案内されるとかありがたいな。


「僕はしばらく忙しくて、君の元に行くことができない。今回みたいに会うことも難しいと思うから、何とか自力で頑張ってね」

「……いや、それだけ!?今後どうしたらいいとか、計画とかは!?」

「いや、僕神様だから、君一人にかかりっきりって訳にはいかないんだよ。僕は確かに手助けするとは言ったけど、一から百まで面倒するつもりはないよ?」

「こんにゃろう……!」

「僕が今後の道を全部示してもいいけど、絶対後悔するよ?」


 ぐぬぬ……まぁ確かに神様の言うことにも一理ある。

 餌を与えられた動物は、自分で餌を努力することをしなくなる。

 俺も一度この人(?)に今後の人生を委ねたら、おそらく死ぬまで一生この人の言った生き方しかできなくなるだろう。

 そっちの方が楽な人生を送れる気はするけども、たぶん面白くない。


「……わかったよ。自分で考える」

「それがいい。ま、そうは言ってもお膳立てはもうしてあるから、後は君次第ってところかな」

「頑張らせていただきます」


 俺だって、せっかくの二度目の人生を面白おかしく自由に生きたい。

 なるべくなら自分で選んだ道で生きたいのだ。

 あ、そういやもう一つ聞くことあったのを思い出した。


「あんた、俺の前世の記憶消したろ」


 俺の前世の記憶。

 名前や元の年齢などと言った俺自身に関する記憶を綺麗さっぱり忘れてしまっている。

 レイリスに自己紹介しようとした時に気づいたのだが、何故わざわざそんなことをしたのか少し気にはなっていた。


「確か、俺を転生させる前に言ってたよな?俺の大事な物を一つ頂くって。それって、俺の前世の記憶のことだったのか?」

「んー?僕そんなこと言ったかな〜?そもそも、前世の自分の記憶をこの世界に持ち込めないの何か不都合ある?」

「いや、ないけど……」


 不都合なんてあるはずはない。

 でも前世の世界に関する記憶はあるのに、自分の記憶だけないのが何となく不安になってしまうのだ。

 本当に俺は転生してこの世に生まれた存在なのだろうかとか……まぁ瓦礫に埋もれて死んだなんて記憶がある時点で、これが俺の妄想だ、とか言うオチはないだろうけど。


「ならいいじゃないか。別に昔の自分が思い出せなくても、今の自分を大切にしていれば」

「含みのある言い方だな」


 どうやら真意を語るつもりはないらしい。

 だが思い出したいかと聞かれると、そこまで興味も湧かない。

 これが前世で死ぬ前とかだったら、もっと必死になって思い出そうとするだろうけど、一度死んで転生したからか、そこまで思い出したいと言う気にもならなかった。


「割とあっさりしてるねぇ。もっと取り乱すかと思ったけど」

「過去は振り返らない主義なんだ」

「それはいい。良い人生を過ごす為には前を向いていなくちゃ」


 なんか悟ったように頷かれると腹立つなぁ。


「さて、そろそろ時間だ。しばらくは何にもないだろうけど、あんまり変なことに首を突っ込まないようにね」

「俺だって好きで大蛇のとこに行った訳じゃねぇから!」


 じゃねぇから!にエコーがかかり、意識が次第に薄れていく。

 光に包まれた俺は、眠りから目覚める為に青い空へと浮上していった。


                  ✳︎


 ゆっくりと目を開ける。

 次第に眠りについていた感覚が手足に宿り、自分の体が五体満足であることを安心した。

 よかった。やっぱり生きてる。

 人攫いに捕まった檻からスタートしたこの二度目の人生。

 牢屋から脱出した先で魔物と呼ばれた大蛇に出会い、追いかけられ喰われそうになった所を白い鎧を着た男に助けられた。

 俺が覚えていたのはそこまでで、そこからどうなったかは神様も教えてくれなかった。

 ここはどこだろうか?

 まず目に入ったのは木製の天井に白い壁。窓からは眩い光が差し込んでいる。

 ベットに寝かされていると気付き体を起こす。

 パタン、と本を閉じる音が聞こえた。

 音のした方に顔を向けると、白と黒調のメイド服に身を包んだ女性が穏やかな表情でこちらを見つめていた。


「お目覚めになられましたか。旦那様をお呼びいたしますので、もうしばらくお休みになってお待ちください」


 はぁ?と生返事をすると、メイドの女性は席を立ち足早に部屋から出て行く。

 いやマジでここどこなんだ?

 少なくとも奴隷とした売られたって訳ではないのは雰囲気や今の自分の服装でわかる。

 あのボロボロだった布切れ一枚の服ではなく、しっかりとしたシャツとハーフズボンに着替えさせられていた。

 部屋に置いてある家具やランプなんかも高級そうな物ばかりだ。

 もしやどこかのボンボンの家に引き取られたのか?

 実はこの世界での俺の両親の家とか?

 だとしたらマズイぞ。

 神様は何も言ってなかったけど、この体の本来の持ち主がいたのかもしれない。

 もし本物の両親が俺の言動や行動で、自分たちの子供じゃないと気づいたら厄介だ。

 どうやって誤魔化そうかと悩んでいると部屋の扉がノックされ、一人の男が入ってきた。

 顎髭を蓄え、頬に傷を持つ黒髪の男──俺をあの洞窟で助けてくれた人だった。


「目が覚めたか。体は大丈夫かね?」

「は、はい……」

「私を覚えているかね?」

「あの洞窟で、俺を助けてくれた人ですよね?」


 彼は頷くと、椅子を引き寄せベットの近くに腰掛ける。

 こうして改めて見ると頬の傷は深く、かなり古い傷だとわかる。


「私の名前はジェイク・バルメルド。この家の当主で、この地域の騎士団の団長をしている」


 騎士団……あぁ、俺たち子供を助けに来たって人たちの団長なのかこの人。

 ジェイクと名乗った彼は腕を組むと好奇の視線を俺に向けてくる。


「白髪に二色の眼……君はどこの出身なんだ?」

「生まれ、ですか?実は覚えてなくて」

「ではご両親は?人攫いに捕まる前はどこで何を?」

「ごめんなさい。それも覚えてないんです」


 とりあえず予想していた通りの質問が来たので、あらかじめ考えていた返答をする。

 もちろんジェイクはそれを怪しんでいた。


「そうか、覚えていないのか……では質問を変えよう。どこで君は捕まったんだ?それは覚えているだろう」


 眼力こぇ……俺の嘘を見抜こうと鋭い目つきで、じっとこっち見てるよ。

 これ下手な嘘ついたらすぐにバレるやつだ。

 しかしどうしよう。この世界のことをまだ全然知らないから適当なこと言えないし……うーん。


「え、と……俺は、気づいた時にはあの人攫いに捕まってました」

「気づいた時には?その前のことは?」

「何も記憶にありません。本当に何も」


 下手に嘘をつくぐらいなら本当のことを答えておく。

 実際この世界での記憶は元々ないので騙してはいない。


「……」


 ジェイクは、俺の答えにしばらく思案し顎髭を撫でる。

 長らく沈黙が続き、


「──わかった。では君は孤児と言うことで処理しよう」


 俺に対し柔らかな表情を浮かべ頷いた。


「実は君のことを知る人が誰もいなくてね。報告書に何と書けばいいのか迷っていたのだ」

「あぁ、なるほど」


 絶対嘘だ。

 この人はおそらく、レイリスや他の子供たちから話を聞いて、俺が何者なのか知りたかったのだろう。

 しかし「別の世界から来た転生者です」なんて言っても頭のおかしい子供としか思われないだろうから、それ以外に答えようがない。


「身寄りのない君はこの後、孤児院に引き渡されることになるだろう。そこで引き取り手が見つかるまで生活することになる」

「孤児院ですか……引き取り手が早く見つかって欲しいですね」

「そうか。もし君がそう思うのなら……私の家に養子としてこないか?」

「へッ!?」


 え、いきなり何言ってんのこの人!?

 まだ出会ってそこそこの子供にいきなり養子に来ない?とか言うか普通!?


「実は、私の家は跡取りがいなくてね。後継者探しをしていたんだ。近々孤児院から養子となる子を選ぶつもりだったんだ」

「え、いや、それで何で俺なんですか?」

「エルフの子から聞いたよ。君は脱出する時、他の子供たちを見捨てずに連れて行ったらしいね」


 いや、あれは連れて行ったと言うより、自分でついてくるかどうか決めさせたんだけど……


「何より、子供たちを逃す為に盗賊たちを相手にし、大蛇に立ち向かった姿勢

そしてあの時の君の目。私はそれが気に入ったんだ」


 えぇ、なんでこの人こんなに俺のことべた褒めなの?


「もちろん、君には選ぶ権利がある。孤児院に行けば、他の家も紹介してもらえるだろう」

「あの、一ついいですか?」

「あぁ、構わないよ」

「俺のことを気に入ったのはわかるんですけど、どうしてそこまで俺を?」

「そうだね……君を見た時に気に入ったのもあるけど、もう一つはお告げがあったからだ」

「お告げ?」


 首を傾げると「ついておいで」とジェイクに言われ、俺は部屋を出る彼の後をついていく。

 屋敷の廊下を歩き連れられたのは小さな一室だった。

 その部屋には家具は何も置いてなく、部屋の中央に赤いクロスが被せられたテーブルと絵が飾ってあるだけだった。

 何の部屋だろう?と思ったがすぐに部屋を見回して驚く。

 ジェイクは片膝を付き祈りを捧げるのを見てこの部屋は礼拝部屋なのだとわかった。


「数日前、突然お告げがあってね。もうすぐ私の元に、跡取りとして相応しい子供が現れると……そして君が現れた。これはきっと神のお導きに違いないと思ったのだ」


 俺はジェイクの言葉を聞きながらも、開いた口が塞がらなかった。

 彼が神を信じる信徒だったからではない。

 彼が祈りを捧げていた神と言うのは、俺が何度も出会ったあの爽やか顏の男だったのだ!

 部屋に飾られた絵には、青空と草原を背にしこちらに微笑んでいるあの神様が描かれていたのだ!


『お膳立てはしてあるから、後は君次第ってとこかな』


 つい先程の神様との会話を思い出す。

 あの神様はこうなることがわかっていて、あんな発言をしていのか!

 と言うことはつまり、俺を人攫いの檻の中に転生させたのも失敗したのではなく最初から仕組まれていたのだ!


「あんの神様はぁ……!」


 今頃わかったのぉ〜?とほくそ笑む神様の顔がありありと浮かぶ。

 つまり先程のジェイクとのやり取りで彼は俺を疑っていたのではなく、俺がお告げにあった子供かどうか判断する為だったのか!?

 どうやら俺は最初から、あのクソ神様の手の平で踊らされていただったらしい。

 普通に腹が立つ。今度会った時に蹴り飛ばしてやろう。


「それで、養子の話なんだが……すぐに返事をくれなくても、後で決めてくれれば」

「その話、ぜひお願いします!」


 俺は頭を下げてお願いする。

 ジェイクはその答えが嬉しかったのか、俺の肩を叩いて「ありがとう。よろしく」と言ってくれた。

 『より良き未来に案内する』

 牢屋で神様ネズミの手を取る時に言われた言葉を思い出す。

 これが本当により良き未来に繋がるのかはわからないが、少なくとも今はあの爽やかクソ神様の事を信じようと思い始めていた。

 とりあえず、今度会った時にお礼に頭突きでも返そう。

 そんな事を考えながら、俺の二度目の人生はようやくスタート位置につけたのだった。

これにて第一章 幼少期編 は終了です!

次回から第二章 養子編 が始まります。

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