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3 さよなら現実

目の前にそびえ立つ豪邸は、普通の一軒家の平均の敷地を10倍しても恐らくそれ以上の広さを誇っていた。


玄関の前の庭には、池があって中には何匹もの鯉が悠々と泳いでいた。


まるで西洋のお城のような見た目は、見るものも魅了する。


何重ロックにもなっている厳重な鍵を次々と開けていくとようやく扉を開ける事ができた。


「す…………すげぇ。」


もはや、その言葉に尽きる。

目の前に広がる世界は、圧巻の一言だ。


リビングの広さだけで、アイドルを呼んで生コンサートを開けそうだ。

廊下もいったい、どこまで続いているのか視力Aが自慢の俺でさえ把握する事ができない。


「こっち…だよ。」


愛ちゃんに続いて長い廊下を3分ほど歩き続けると、ふとある部屋の前で止まる。


「ここが、私の部屋だよ……」


愛ちゃんは小動物のように、俺の服の袖をクイっと引っ張って指を指した。


「ここが……愛ちゃんの部屋……」


外観は、他の部屋と特に違いはないのに何故か特別に感じてしまう。


この先に、愛ちゃんの部屋がある。


その事実で、生唾が出てしまいそうだ。


「入って……いい?」


俺は、緊張を隠しきれない声色で尋ねた。


愛ちゃんは、コクッと小さく首を振って袖を少し引っ張った。


肯定の合図と、捉えていいのだろう。


俺は、ゆっくりと高級そうなドアを開ける。



まさに、俺が理想に描いた様な女の子の部屋だった。

家具は、可愛らしいピンクで統一されておりきちんと掃除されている事が伝わる。

部屋は女の子部屋特有の心地よい匂いが広がっており、永遠にこの匂いを嗅ぎたくなる。


「急いで掃除したんだけど…汚かったら、ごめんね……」


「そっ!!そんな事ないよ!!これで汚いなんていう奴が、もしいたら全世界ありとあらゆるゴミ屋敷の映像を送りまくってやるよ!!」


俺が、考えるよりも先に慌てて口に出てしまったが発言に愛ちゃんはクスッて笑って...


「本当に、和君って面白いよね。これなら、もっと早く…」


最後の方は、声が小さくて聞こえなかったけど面白いって言われて俺は嬉しかったので特に気にはしなかった。


暫く、とりとめのない日常の事を小一時間ほど話して、いよいよ外が暗くなった。

そろそろ帰らなければならない時間だ。


本当はこれ以上の事もしてみたい気持ちは勿論あったが、それを言い出せる程俺には勇気がなかった。


「じゃあ…もうそろそろ…」


カバンを背負い、俺は立ち上がる。


その瞬間、突然腕を引っぱられる感触を感じた。


俺は、思わず愛ちゃんに視界を合わせる。


「さっきも言ったけど、今日家に親いないんだ……泊まって…いかない?」


愛ちゃんも掴まれた腕越しに緊張で震えているのが伝わる。


女の子に、ここまで勇気を出させるなんて本当に俺って情けねぇな……


「も……もちろんですっ……」




ーーーー、知らない風呂場で俺はシャワーを浴びている。


勿論……目的は、一つ。愛ちゃんを今日一線を越えるためだ。


シャワーの音が心地よい。

火照った身体を癒していくようだ。


大人4人はらくらくに入れそうな浴場で、シャワーも2セット完備。まるで、旅館に泊まりに来たようだ。


一般家庭にはありえない広さの浴場に落ち着かないのか、これから起こるであろう事に落ち着かないのか、わからないが浴場でじっとしていられずバタ足の練習しているのであった。



ーーー...ーーー…


「和くん、そろそろはいったかな…?」


私は、風呂場に和くんを案内した後、部屋にいったん戻った。


それにしても……ようやく和くんを私の家に連れて行けたかと思うと、胸が躍ってしまうのが止まらない。


よし……


和くんそろそろ入ったかな……


私は、部屋からこっそり出てもう一度風呂場に戻った。


今から急げばまだ間に合うはず。


私は、音を殺しながらできるだけ小走りに走り出した。


…………着いた。


ここには、今しかない宝物が眠っているはず。


………………あった!!


風呂場に入っている和くんには気づかないように私は、脱衣所にある宝物を手にして、そのまま全力であの部屋に持ち帰った。


「はぁ……はぁ……」


あの部屋に着く頃には、走りすぎて息を切らしたのか、それともこれからする事に対する高揚感か、どっちかなんてわからなくなっていた。


戦利品は、脱衣所にある宝物といえば……


そう、和くんの服だ。


上は、和くんの汗が染み付いたTシャツから下は和くんの液が染み付いたパンツまである。


クン...とまずは、Tシャツから嗅いでみる。特に腋の辺りは、男の子の汗の匂いがたまらない。

私は、気付けば夢中になって腋のあたりを嗅いでいた。


まさに、これは至高の逸品!!!


和くんの匂いだぁ…………


この匂いを離したくない、手放したくない。

一生嗅いでたってたまらない。

和くんの犬になりたい。


和くんの犬になったんだったら、合法的に和くんの匂いが嗅ぎ放題なのに……


次は…………いよいよ......


私は、喉を鳴らし、隣に置いた宝物を見る。


そう…和くんの……パンツ……


普段、和くんの大切な場所を支える大事な布……


青を基調とするトランクスで、和くんの男らしさを最大限に表しているパンツだ。

和くんの着たものなら全てが宝物ですだけど、これはその中でも極上の逸品!!!


「し…失礼しまーす。」


私は、ゆっくりと和くんのパンツに唇を近づけようと…………


ゴトッ!


まさに、和くんのパンツを立食しようとした寸前に、なにかズボンから硬い物体を落ちたのを確認する。


私は、硬い物体が何か確認しようと…パンツ試食会を誠に遺憾ながら中止して、手を伸ばす。


「 携帯...?」


iphoneの最新機種だ。メタリックなデザインが和くんの持ち物という事実で何千倍もかっこよくなっている。


試しに、携帯の電源を押すと可愛らしいアニメの壁紙が一面に映し出される。

私は恐る恐るスライドすると、いとも簡単に開けてしまうことが出来た。


「こんなことやっちゃいけないのに…………でも…………」


和くんが、私以外と誰と連絡を取ってたりしているのか気になる。

私は、LINEがインストールされているアイコンをじっと眺める。


私は、和くんと婚約者だから大丈夫だよね。


自分で、自分の中で言い訳を考えて私はLINEのアイコンを押した。


友達の画面の人数は、驚くほどすくなかった。


両親と...私と...


確認している間に、通知が来ているのが1件来ていた。


なんとなくの気持ちで見てみると………



会話は、最新で1日前に行われていた。

どうやら、和くんから話かけている。


和《聞いて!ゆりぽん!俺、彼女が出来たんだ。》


ゆりぽん《そうなの!!?それなんて2次元のキャラ?》


和《なんで2次元って決まってんだよ(笑)ちゃんとした3次元の女の子だよ。》


ゆりぽん《うっそだぁー。あの、和がモテる日が来るとは…!!!》


和 《俺だって、こんな事になるなんて思っていなかったんだ。ほんと色々あったんだよ…》


ゆりぽん 《まぁ何はともあれ、おめでとうだね!ちっ…和は私の物だと思ってたのに…(笑)》


……会話は、ここで途切れている。

私の頭は、ショート寸前だ。


なんで、和くんが私以外の女の子と喋ってるの?


なんで、和くんが私以外の女の子とこんなに仲が良さそうなの?


わからない、わからない。いくら、考えてもわからない。


和くんが、学校で仲良くしてる女の子なんているはずないんだ。

和くんが、学校の外でも仲良くしてる女の子なんているはずないんだ。


だって、私は知っているんだもの。


じゃあ…なんで???


ゆいぽんなんて名前の男がいるはずない。間違いなく女だ。


許さない…憎悪と怨嗟が交差する。

私は、知らず知らず近くにおいてあった、カッターナイフを持って自分の部屋から飛び出した。


目的がどこかなんて決まってる。

私は、自然と足早に進んでいく。

どこにいるんだ、その女は。

一体どうしたら、その女を見つけることができるのだろう。


その女は、和くんと親しい仲である事は間違いないんだ。

どうやって炙り出すか、私はグチャグチャになった頭で必死に思考を巡らす。


…………そうだ。そうしちゃいいんだぁ。


もう、この考えしか見当たらない。

その結論に至ると私はさらに歩幅を強めて風呂場に向かうのであった。


ー…ー…ー…


「ふぅーー。」


やはり、大きい風呂の気持ちよさは家の風呂の比にならないなぁ。っと俺はしみじみ思う。


家の風呂じゃゆったり足を伸ばして入るなんてなかなかできない。

改めて風呂の良さを実感してついつい長風呂になってしまった。


さぁ………いよいよだ。


身体を綺麗にした。心も綺麗にした。


後は…………やるだけだ。


俺は、意を決してガラッと脱衣場に向かう扉を開ける。


すると、そこにいるはずがない愛ちゃんが立っていた。愛ちゃんは何故か脱衣場を出るドアの前に。


「えっ!!?愛ちゃん!!俺、まだ裸なんだけど…!?」


俺は、慌てて小さいバスタオルで放送倫理でモザイクが、かかる大事な部分を覆いかくす。


普通、こういうイベントって逆な気がするんだが。


今から、裸になる事をするとはいえさすがにまだ心の準備が出来ていない。


こういうのには、手順がありまして……


「ねぇ……………和くん…………?」


愛ちゃんは、脱衣場を出るドアで下を向いて立っていた。


まるで……俺の叫び声など聞こえなかったように。


「ゆい……ぽんって……誰???」


ゆい……ぽん……?

いきなり、不意を突かれて驚いたが、それは俺の唯一の趣味のオンラインゲームのフレンドさんだ。

LINEも交換して、くだらないことを話したりしてたけど決してオフ会をしたりするほどの仲ではない。


なんで愛ちゃんが、ゆいぽんのことを知っているのかわからないけど弁解しなくてはならない。


「えっと………ゆいぽんってのはね……」


「いい。言い訳なんて聞きなくない。」


愛ちゃんは、おれが説明しようとする事を遮った。


「いや……言い訳とかじゃなくて……」


「そんな事、聞いてないんだ。私、分かっちゃったんだ。こいつを地獄に落とす方法。その為には少し犠牲は伴うけどもちろん私の事愛してるなら全然いいよね?むしろ率先してくれるよね?だって私の事愛してるんだもん。私だってこんなに愛してるんだもん。だったら少しくらいワガママ聞いてくれるよね?」


俺は、目の前にいた可愛い彼女がまるで怪物と錯覚してしまう程の気配を察知した。

その時、今の愛ちゃんは俺の話を聞いてくれる事はないと確信している。


愛ちゃんは、終始俯いて下を見ながら小言のように呟いている。

愛ちゃんの目には、本来あるはずの光が宿っておらずなにも見えていない。


「ワガママって……?」


ここは、下手に挑発したり反論したりするのはよくないと察した俺は、こんな時でも嘘でも笑うことができないこの仏頂面をなんとか変えようとしながら、愛ちゃんに近づいた。




「うん…………私の為に………死んで?」



ブスッ!!と心臓辺りに強烈な違和感を感じる。

愛ちゃんがその手に持っていたのはカッターナイフだった。


気が付いた頃には、カッターナイフを俺の心臓を突き刺していた。


痛覚も感じない。ただ、鼻血などとは比べものにもならないほどの血の量だ。


あっ...これ、俺ヤバい奴だ。


そう、悟った頃には意識が遠のいた。


「和くんの犠牲は絶対に活かすからね……」


そんな声が最後に聞こえたような気がしたが、俺はもうその頃には身体の自由を失い床に倒れこんだ。



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