くちびる
最近、腕が痒くて仕方ない。何かのアレルギーだろうか。
早速病院に行ってみたものの、医師にはただの乾燥だと言われてしまう。
そんなに強くない痒み止めの塗り薬を出してもらった。
それでも治らずに酷くなるようなら、またおいでということらしい。
薬を塗ってみてはいるものの、つい痒くて触ってしまう。
ざらついた肌の感触は、妙に乾燥したくちびるに似ている。
肌のような、肌でないような。やはりくちびるに似ていると思いながら、もらってきた薬をそこに塗った。
朝起きてみると、痒かった肌は何ともなくなっていた。
ああ治ったんだなと安心しながら腕をよく見てみると、くちびるのような膨らみができている。
慌ててまた病院に予約を取り、医師に相談しに走った。
「先生、これは何ですか」
「大したことはありません。ただの乾燥ですよ」
昔から世話になっている医師からそう言われると、怖く感じていた自分がおかしかった。
ボクは笑いながら、この肌荒れがくちびるに似ていて驚いたことを伝えた。
医師は苦笑いをして、また同じ薬を出してくれた。
最初に痒くなった場所とは、また別の場所が痒くなってきた。
これも同じ乾燥だろうか。
ボクはくちびるに似た肌と、別の痒いところに薬を塗ってから布団に入った。
朝起きると、痒かった肌は例のごとく治っていて。また例のごとくくちびるに似た膨らみができていて。
とうとうこれはおかしいぞと、自分のことが怖くなりながら腕をまじまじと見る。
やはりこれはくちびるではないだろうか。
気付けば腕の至るところが痒い気がしてきた。
ボクはまた病院へ走る。
「先生、これは何ですか」
「大したことはありません。ただの乾燥ですよ」
医師にはまた同じことを言われる。また同じ薬を出される。
それでも自分の肌が怖くて仕方なくて、つい医師に強いことを言ってしまった。
また医師は苦笑いをしてしまう。少し悪いことをしてしまった。
悪くなったらまた来ますと伝えて、診察室を出ようと立ち上がったら、医師がボクを呼び止めた。
「大したことはありません。最後にこうなるだけですよ」
そう言って医師は白衣の袖を捲ってみせた。