過去の産物
リリアン視点です
そもそも、何故2年前に私とザックが王都を離れたのかというと、ザックが魔法学校を卒業したので父の住む町へ帰ったからだ。いきなり何の話だと思うかもしれないけれど、私の新ワザについて知るためにも少し昔話をさせて下さい。
私達は王都から歩いて1か月程かかる距離にある小さなアース村で、農業をして生活していた。しかし私が17歳、ザックが15歳の時、村が黒魔法により身体強化された盗賊に襲われた。100人程しかいない村人の中で生き残ったのは20人程。そして襲われた際、ザックを守ろうとして母は殺され、その光景を見たザックがショックのあまり魔力を暴走させたのだ。
私達姉弟の器量を測った店が違法店だったと発覚したのは、器量が普通の魔術師よりも大きかったザックの暴走によって判明したのだが、母を失い、父も目の前で大怪我をおったことで精神的に衰弱したザックは、そのまま王都の魔法学校に入学するために連れて行かれた。
そんなザックを心配して1年前から共に暮らしていたティアと王都へザックを探しにやって来たのが始まりだった。そうそう、ヴェルモートさんに会ったのも、王都へ行く途中の町だったなぁ。その時の第一印象は最悪だった。初めて会ったのにバカ呼ばわりされたのだ。腹が立って仕方がなかった。
無事王都に着いて、セレーナの力を借りてザックに会い、ザックが魔法学校を卒業するまで王都に残ることになったというわけ。その後は、ティアが騎士になったり、たまたま出会ったハイドさんによって精霊使いになったりと充実した1年を過ごしたんだよね。
そして、2年半程前に世界の歴史に残るだろう戦『ヒメラーヌの黒戦』が勃発した。私の村のように各地を襲っていた黒魔法に犯された者達による反乱だった。
その戦に私達も参加した。敵である黒魔法に犯された者達は、ただ辛い過去に向き合えず負の感情に呑み込まれてしまった人ばかり。自我をなくし暴れまわる彼らとの戦いで多くの血が流れた。そんな彼らの身体から作られた魔毒を吸収し、世界を崩壊させるほど大きな魔力を産み出していた黒水晶を浄化したのが、この世界を作った精霊王だった。
神であり、この世界そのものでもある精霊王。そんな精霊王を感じることができる者が、エレントル王国が建国されて700年ちょっと経つが、初代国王リシウス様以来現れなかった。そのため精霊王が壊れかけている世界に手を出すことができなかったのである。
ここで私の出番だ。5体もの精霊と加護契約が出来るだけでも珍しいのだが、私は精霊王を感じ取ることできた。そのため、精霊王が私を媒介にして黒魔法を浄化してくれたのである。こうして戦は終結した。
あっ、ちなみにヴェルモートさんとは精霊使いになり王宮で働くようになってから関わりを持つようになった。重い本を持ってくれたり、戦に出ると決めた後に訓練してくれたり、戦の時に励ましてくれたり……うわぁ、助けてもらってばかりで、私何も返せてないなぁ。じゃなくて、少しずつ優しいところとか、かっこいいところを見つけていっていたらいつの間にか。
でも、侯爵家だし、騎士としての地位は高いし、容姿端麗だし、私は隣に立てるような立場にいないことはよくわかっていて……って、いつの間にか恋愛方向にいってる!
それで、新ワザについてでしたよね。
先ほどヴェルモートさんに頼んだのは、ヴェルモートさんとティア以外の騎士を私が見えないところまで離してほしいということ。
「離したぞ。しかし、なぜ私達以外を離す必要がある?」
ヴェルモートさんがいつもよりも眉間に皺を寄せる。別に第十小隊の皆さんを信用できないからではないですから、そんな顔しないでほしい。
「それは、このメンバーしか秘密を知らないからです」
「秘密?」
「そうです。私が精霊王を感じることができることも、精霊王の媒介になったことも、皆さんしか知りません」
みんなが驚き息を呑んだのがわかる。そう、ヒメラーヌの黒戦の際に700年を経て発覚した事実、初代国王で賢王と今でも人気のあるリシウス様が精霊王の友人であることを国民に発表したため、王族の血の流れない私が媒介になったことは、王族の名誉と私が政治利用されないために国家機密となっている。
「精霊王が関係していると?」
1人だけ目を輝けせているハイドさんが楽しそうに聞いてくる。精霊の事になると子供のようだよね、ハイドさん。
「実は王都をたってから、契約していない精霊も私を媒介にして姿を見ることができるようになったんです。精霊のみんなは、精霊には父である精霊王の力が少し入っているから、私の中に残る精霊王の力に共鳴して、できるようになったんじゃないかって言うんですけど」
「なんて素晴らしい力だ! もっと話を聞きたいなぁ……それは」
「少し黙れ」
興奮しながら私に迫るハイドさんの首根っこをヴェルモートさんが掴み上げる。なんとも哀れな姿だが、質問攻めは面倒なのでそのままにしておく。
「それは大丈夫なのか? 精霊王を呼び出した時は、その後気を失っていただろう」
「大丈夫です。この2年間でだいぶ力の使い方を覚えたので、気を失うという失態はしないと思います」
私の言葉を聞いても納得していないヴェルモートさんとティアをなんとか説得しようと試みるがなかなか納得してくれない。そんな時、話し合いから外されていたハイドさんが真剣な表情で入ってきた。
「心配する気持ちはわかるけど、リリアンは何度かその力を使っているのだし、精霊達が情報を見つけられない今、他に方法はないよ。私達が近くにいるのだから大丈夫。精霊使いとしてリリアンを信用しよう」
「ハイドさん……ありがとうございます。」
そこまで精霊使いとして認めてもらえているのかと嬉しくなる。俄然やる気が湧いてきた。
「わかった、許可しよう」
「そのかわり無理だけはしないでね」
「はい!」
「楽しみだなぁ」
あれ、最後のが本音だなハイドさん。みんなも思ったのかハイドさんを睨みつけている。そんな視線から逃れるように、ハイドさんは乾いた笑い声をあげながら塀の近くへと歩いて行った。
前半に書いた過去部分は『神がつくりし世界で』のめちゃくちゃ省略版のような形で書いてあります。
ここの部分さえおさえてもらえればこの後の話がわかるはず!っと作者が思って書いておりますが、詳しく知りたいと思われた方はそちらを読んでいただければと思います。
…あれ、宣伝みたいになってる。いやいや、読まなくても大丈夫ですから!ちゃんと話はわかりますからぁぁぁぁ!(汗汗汗汗)




