お披露目の夜会③
国王の掛け声と共に始まった余興、それは幻想的な世界へと客人を誘うかのようだった。
ホールにあるたくさんのシャンデリアの光が一つまた一つと弱まり、光の玉になって引き寄せられるようにホール中央の高い天井近くへ集まっていく。
魔法では到底作り出せない光景に人々が驚き、国王やエレントル王国の貴族は前回と違う演出に心を踊らせる。
中央に集まった大きな光の玉は一気に真下へと落下し、地面に当たった瞬間弾けた。眩しさに誰もが目を閉じ、ゆっくりと目を開けた先には真っ白の衣装を纏うハイドとリリアンが立っていた。
リリアンの近くへと人をかき分け近づいていくレオナルドに気づく者はいない。皆、目の前で起こる演出に魅入っているからだ。
「やはりリリーは美しい」
レオナルドの小さな呟きは人々の歓喜の声に掻き消された。
弾け飛んだ光は精霊使い二人の周りを漂い、なんとも幻想的な光景を作り上げる。リリアンが光を指で優しくつつけば、光は一瞬にして花へと変わった。それを何とも楽しそうに何度も繰り返し、リリアンの周りは花々に囲まれた空間へと変化する。
一方ハイドが光に触れると一瞬にして火の玉へと変わった。その火の玉に優しく息を吹きかければ、ふわりと高く上がりパッと真っ赤な花びらになって舞い落ちる。何度も繰り返せば辺りはリリアンの作り出した色とりどりの花々が浮かび、その間を真っ赤な花びらが舞い落ちるという、見ている者を物語の中にいるような不思議な感覚へと誘った。
やっとリリアンの前に辿り着いたレオナルドは、花々に包まれ立っているリリアンから目を離せずにいた。熱い視線を感じたリリアンはレオナルドを見つけると、思わず笑いかける。それは安心感から生まれた笑みであり、深い意味などなかったのだが、レオナルドは今すぐにでも二人っきりになりたいという思いにかられた。
そんなレオナルドの思いもつゆ知らず、リリアン達は余興を続け、両手を天へと掲げる。それと同時に暖かい風が吹き、リリアンの藤色の髪も一緒になびかせた。風に乗った花々は会場の外にある噴水へと向かい、噴水は浮かんだ花で埋め尽くされる。
次の瞬間、噴水の水が花々と共に高々と噴き上がり、水しぶきと花々が光に照らされ宝石のように輝いた。その光景は大きな窓の先で起きたため、一枚の絵画のように見えたのであった。
一瞬の静寂の後、地響きの様に起こった喝采の嵐は精霊使い二人とエレントル王国へと送られた。
国王夫婦は満足気に頷くと精霊使いに拍手を送り、ウィリアムとティアはお互い目を合わせて嬉しそうに笑いあう。
誰もが歓喜に沸く中、一人複雑そうな顔を浮かべるレオナルド。彼はリリアン達の余興が大成功だったことを喜ばしく思いながらも、この後の事が心配で堪らなかったのだ。
そして、そんなレオナルドの心配は的中する。
「素晴らしい!是非お話をさせて下さい!」
「わたくしともお話を!」
「是非僕と!」
そう、余興の後すぐに国王が夜会開始の宣言をしたため、リリアンとハイドは多くの客人に囲まれる事になったのである。さすがのハイドも他国の客人相手では話を軽く流す事もできず、前回のように抜け出す事ができないでいた。
「くそっ、やはりそうなったか」
苦虫を潰したかのような表情のレオナルドは目の前で客人に囲まれているリリアンを前に何もできずにいた。それもそのはず、彼らは婚約者でもない唯の恋人同士である。エレントル王国の貴族でも王宮に通う者ぐらいしか二人の関係は知られていないのだ。他国の貴族が知るはずもない。
そんな貴族としては微妙な関係の二人を貴族の遊びと捉えられても仕方がないことはレオナルドもわかっていた。だからこそ、ウィリアム達の発表の場でもある夜会で他国からの客人相手に強く出ることができないのだ。
一方、リリアンもその事はよく理解していた。人混みの先で険しい顔のレオナルドを見つけても、なぜ助けてくれないの、と思うようなことはしない。それぐらいは貴族社会について学んできたのだ。
だからといって、この状態の打開策がある訳でもない。我先にと話しかけてくる客人に笑顔を振りまき、在り来たりな返事をする他なかった。少しすれば落ち着くはずだ。今は貴重である精霊使いが物珍しいだけ、そう己に言い聞かせながらも、リリアンはレオナルドが側にいるか確認してしまう。
姿を見つけては、彼に心配はかけたくないと自分を奮い立たせた。
精霊使いへ集まっていた客人が一人、また一人と減っていった頃には、リリアンもハイドもグッタリしていた。皆それぞれ夜会を楽しみ始めているのがわかる。側で見守っていたレオナルドも、いつの間にか多くの令嬢に囲まれ、その対応に追われていた。
誰もが夜会にのまれていたのだ。
だから気づくのが遅れてしまった。いや、よく考えれば起こり得ることだった。貴族の誰もが優雅で紳士的な者ばかりではないということを忘れなければ。
客人が減ったのを見計らって会場を後にしようとしたリリアンとハイドは、それぞれのタイミングでホール中央を抜けた。客人は会話や食事を楽しんでいる。今がチャンスとばかりにコソコソと人の間を抜けていたリリアンは扉の近くで急に真横へと引っ張られた。
思いもよらぬ方向へと力を加えられたリリアンは抵抗する間も無くカーテンの裏へと引き入れられた。
「やぁ、強引にすまないね」
リリアンの目の前には金髪に紫の瞳を持つ整った顔立ちの男がいた。男の浮かべる笑顔は甘ったるく、己の魅力を理解し利用している事が伺える。
しかし、レオナルドという美しい男が恋人であるリリアンが靡くはずもない。強引な男だと考える余裕さえあった。
「離していただけますか」
「つれないなぁ。結構俺、自信あったんだけど」
おちゃらけたように話す男に呆れてしまったリリアンは笑顔を止め、男を睨みつける。
「お遊びは他でお探しください」
「なんだよ。お前、夜会の出席者じゃなさそうだから平民だろ?一夜の相手をしてくてもいいじゃないか。俺、客人だぜ?」
女に反発されたことが許せないのか、急に馬鹿にするような口調になった男はリリアンを壁に押し付けるように迫った。一瞬ビクリと身体を揺らしたリリアンを男は見逃さず、ニヤリと笑う。
「あぁ、初めてなのか?安心しろよ、俺が全部教えてやる」
その男の言葉にリリアンは言い様のない怒りを覚え、顔を真っ赤にするも、男は恥ずかしがっているのだと解釈して調子づく。
「お前は素直に従えばいいんだよ、精霊使いちゃん」
「いい加減、彼女を離していただこうか」
地を這うような声が聞こえると同時に二人を隠していたカーテンが引き剥がされる。驚いた男が振り返ろうとする隙を見逃さず、リリアンは声のする方へと駆け出した。
「おい!待て!」
思わず声を上げリリアンを掴もうとした男は振り返った先に立つ男を見て固まった。そこにいたのは、銀色の髪に燃えるような茜色の瞳、男でも魅入ってしまう美しい顔、スラリとした身体からは想像もつかないほどの殺気を放つ男、レオナルドだった。




